ヒタギに添い寝されてみた
*「―――っ!!」
カエデは荒い息を吐きながら目を見開いた。
震える指を伸ばせば、すぐ近くに確かな鼓動を刻むたくましい胸板。
少し触れて、その熱を確かめて、ようやくカエデはか細く息を吐いた。
夢を、見た。
浅葱色の夢を。
浅葱色の空間の中に、ヒタギが消えて行ってしまう夢を。
カエデは顔を上げて己を抱きしめて眠る美しい青年の顔を見つめた。
彼を揺り起こしたい衝動に駆られる。
青い瞳が見たい。
声がききたい。
名前を呼んでほしい。
強く、強く抱きしめてほしい。
ヒタギがここにいるということを強く感じたい。
でも、自分のワガママなんかで、彼を起こすのはやっぱりよくないだろう。
なんとか思いとどまったカエデは、もう一度眠ろうと額をヒタギの方にこすり付けた。
「…どうした、カエデ」
びくっとカエデの肩が跳ね上がった。
あわてて顔を上げると、驚くほど近くにある青い瞳がカエデをじっと見つめていた。
その瞳に自分しか映らっていないことがなんだか嬉しくてたまらない。
しかし、せっかくぐっすりと眠っていたところを起こしてしまった。
ヒタギはひどく人の気配に敏感だから起こしてしまったのだろう。
「ご、ごめん…起こしちゃって…」
「……泣いていたのか」
ヒタギの指が伸びてきてカエデの目元をそっと拭った。
水のような声。
不器用で優しい指先。
熱いものがこみあげてきて、カエデはヒタギの胸の中に顔をうずめた。
「ひ、ヒタギが…どこかにいっちゃう夢を見たの」
声がどうしようもなく震える。
自分の中で、ヒタギの存在がどうしようもないほど大きいのだと気付かされた。
ぽろぽろと涙がこぼれる。
「どこにも、行かないで。
傍に…いて…お願い…」
ヒタギの抱きしめてくれる腕の力が強くなった。
二人の体の間にすき間なんか作らないようにするかのように。
「おれは、ここにいる。
おまえの傍にずっといる。
おまえの傍から離れることなんてない。
だから…案ずるな」
「…うん…
私もどこにもいかない。
すっと、ずっとヒタギの傍にいる」
カエデも自ら腕を回してヒタギの体を精一杯抱きしめた。
「私、ヒタギこうやってるの…好き」
「そうかそれはよかったな。
おれは欲求不満のあまり今にも発狂しそうだが」
「…?」
「…いや、なんでもない。
ずっとこうしているから、もう、眠れ」
「…うん。
おやすみ、ヒタギ」
「…おやすみ、カエデ。
眠れ。
夢も見ない程深く…」
end




