表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浅葱の夢見し  作者: いろはうた
第一部
29/50

レイヤの任務についていってみた

「………何故、おまえがここにいるんだ」


「…………うぅ…」



今はレイヤは単独で任務を遂行しょうとしている最中。


ヒタギやトクマたちへ別の任務に就いているので、


一人でもできるような任務を引き受けた。


そのレイヤにばれないように背後から気配を完全に殺して尾行していたのだが、


四鬼ノ宮よりもはるか遠く離れた森の中まで来て、


つい油断して彼に近づきすぎてしまい、カエデの存在に気付かれてしまったのだ。


上からの凍てつく視線耐えきれず、カエデはうつむいた。



「ごめんなさい……」


「…謝罪を求めているわけではない。


 ……おまえがここにいる理由を話せといっている」


「ひ、ヒレン様に…レイヤの後をこっそり追わなかったら、ヒタギもいないし、


 君といちゃいちゃして遊んじゃうよ?


 ……って脅されて……」


「………………」


「あ、でも、ヒタギには、帰ってきたら君がレイヤと二人で任務に行ったって、伝えておくよ☆


 …っておっしゃっていたし、大丈夫だと…思う…」



次にヒタギ様に会った時がおれの最期か…とレイヤがぼんやり思っていたのを


カエデが知るはずもない。


その悲壮感漂う表情に、カエデはあわてて付け加えた。



「あ、あの、迷惑にならないようにする!!


 野宿とかは慣れていないから手間をかけさせるかもしれないけど、


 もしもの時とかは、私も剣術で――――――」


「…刀は持ってきているな?」


「え?


 う、うん…持ってきたよ…ほら」


「…それでいい。


 それでこそ剣士だ」


「剣士じゃないから!!


 私、巫女だから!!」


「…敵の戦力をおれは知らない。


 おれではおまえを守りきれないかもしれない。


 だから、刀は常に持っておけ」



カエデは瞬きを繰り返した。



「私は、任務についていっていいの…?」


「…ここまできて、追い返すわけがないだろう。


 むしろ、ここからおまえを一人で四鬼ノ宮に帰らせる方が危険だ。


 もう一度言うが、おれではおまえの身を守りきれないかもしれない。


 …刀は、常に離すな。


 ……もしもの時は、己の身は己で守れ」



完全に説教する父のような口調になっている。


カエデはもう一度瞬きを繰り返して、ふわりと微笑んだ。


ヒタギなら、こんなことは言わない。


おまえのことはおれが必ず守る。


だから、おまえは武器なんて手にしなくていい、と、きっと言う。


でもレイヤはそんなことは言わない。


決して己の力を過信しすぎない。


そして、相手に、自分でできることは自分でさせようとする。


レイヤのそういうところが好きだ。



「ありがとう。レイヤ」



レイヤはわずかに目元を歪ませると、こちらに手を伸ばしてきた。


どうしたのだろうと、ただ立っていると、


レイヤのごつごつした剣だこの目立つ手のひらが、いきなり口をふさいできた。


かと思うと、今度は足払いをかけられて体勢が崩れ、地面に激突する。


だけど痛みはない。


レイヤが素早くだきとめてくれた。



「…敵だ」



耳元で囁かれた言葉に、自然と体が硬くなる。


レイヤはカエデの体を抱いたまま、俊敏な動きで草薮と木の間に身を隠した。


心臓の音がうるさいほど鳴り響く。


風が草や木々を揺らす音しか聞こえない。


だけど、ふいに、聞こえた。


複数の人間の足音。


本当に小さな音。


言われなければ決して気づけない。


息をするのもためらわれる瞬間。


足音は少しずつ近づいてくる。


背後から、一定の音を刻むレイヤの心臓の音が聞こえる。


それを聞いて少し体の力が抜けた。


背後からの温もりが、一人じゃないと伝えてくれる。


カエデはレイヤの言葉を思い出して、ゆっくりと手を伸ばして愛刀を握りしめ、


いつでも抜けるようにした。


少しずつ、少しずつ、足音は遠ざかっていく。


カエデとレイヤはその体勢のまましばらくの間動かなかったが、


やがてカエデの方がそっと声を出した。



「……レイヤ」



応える声はない。


まだ敵が近くにいるのだろうかと、気配を探ってみたけど、


やはり人の気配は近くにない。



「ねえ…レイヤ。


 もう、大丈夫だよ…?」



だけど、また彼は何も言わない。



「……レイ…ヤ…?」


「…考えていた」


「え…?」



ぽつりとレイヤがつぶやく。




「…おまえを、このまま…さらったら、どうなるんだろうかと、考えていた」




思いがけない言葉にカエデは目を見開いた。


少しだけ、腰を抱いてくるしなやかな腕に力がこもった。



「…おまえをさらって、逃げるんだ。


 そして、誰も来られないような深い森の奥で二人で暮らす。


 誰も、来られない、追ってこられないような…」


「…レイヤ…?」



名前を呼ぶとぴくっと彼の腕が震えた。


あたりに沈黙が落ちる。



「…すまない。


 戯言ざれごとだ。


 忘れてくれ」



どこかぎこちない動きでレイヤがカエデの腰から手を離した。


なんだか、レイヤがずっと遠くにいるような、変な感覚に陥った。


ずっと遠くに。


手が届かない程。



「…おまえを、困らすようなことはしない。


 誓う。


 だから…今のことは全て忘れてくれ」


「れい…」


「…行くぞ。


 このままでは日が沈む」



カエデの言葉をさえぎって、レイヤは、くるりと背を向けて早足で歩き始めた。


カエデは伸ばしかけた手をおろした。


いつもは感情をあまりに表に出さないレイヤの一瞬だけの苦しそうな表情が


脳裏をよぎってやまなかった。




end


次はヒタギさんです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ