ルート4
ルート3の結末です!!
これもBADEND!!
シキしゃまのえろえろ攻撃☆
*カエデは抱きしめてくるシキの顔を見上げた。
「シキ…様…」
彼は、ただひたすらヒタギだけを見つめていた。
まるで恋い慕っているかのように。
だけど、その瞳に渦巻いているのは黒い感情。
強い強い憎しみと、焼け焦げてしまいそうな嫉妬。
「シキ様…」
美しい横顔は炎で赤く照らされていた。
血に染まっているかのように。
愛と憎しみは紙一重。
どこかで聞いた言葉が脳裏をよぎる。
「シキ様。
…こちらを、向いてください」
カエデの声は聞こえているはずだ。
それでも、彼はヒタギを見ている。
「―――シキ。
―――――――――――私を、見て」
彼の襟をつかんで、ぐいっと自分の方に引き寄せた。
不意を突かれたシキが、そのままの姿勢を保てず、カエデの方に前のめりになる。
見開かれた紫水晶の瞳が近い。
額を彼の金髪がくすぐる。
カエデは、ふわりと自分の唇と彼のそれを重ね合わせた。
柔らかくて、冷たい感触だった。
それは、永遠のようで、一瞬だった。
カエデはシキから離れると、まっすぐに彼の瞳を見つめた。
「シキ。
私は、あなたをきっと好きになってみせる。
愛せるように努力する。
これは、私なりの誓いの証。
だから――――――」
―――ヒタギは、見逃して。
―――――――――彼を、殺さないで。
そう言おうとしたとき、腕を強くつかまれた。
掴まれた腕が痛い。
この指は、シキだ。
「…なんと、むごいことをする」
「…いっ」
骨がきしむほどの容赦のない力に、強く引き寄せられた。
息がかかるほどの、唇が触れ合う寸前まで顔を近づけられ、
小さな声で素早くささやかれた。
「ああ、カエデ。
そなたが憎らしいほどに愛しい。
愛しくて、憎くて、愛しくて………ああ、気が狂いそうだ。
このような……このような…あの男のための、あの男を救うための口づけなど、
おれは、受けとうなかった……!!」
「っ!!」
激情が滲む声音。
確かにそうだ。
カエデだって、姉の代わりとして、ヒタギに口づけられるなど、耐えられない。
絶対に。
「カエデ」
ひどく艶やかにシキが笑った。
さらに腕を強くつかまれ、後頭部に手が添えられる。
「カエデ。
……そなたが、悪い」
「し――――――」
言葉は途中で闇に消えた。
かみつかれるように激しく口づけられ、カエデはただ震えた。
生々しい、シキの唇の感触。
反射的に身を引こうとしたが、腕をつかむ指と、
後頭部にまわる手がそれを許さない。
貪るように唇を吸われ、息ができなくなる。
さきほど自分がやったことなど、
口づけの内に入らないのだと証明されているようだ。
目尻に涙がにじむ。
自分のした行為がどれほどシキを傷つけたかを
口づけの激しさが表しているような気がして、全力では抵抗できなかった。
どんどん手足から力が抜けていく。
息ができなくて苦しくて、頭の奥がぼうっとしてきたころ、
ようやくシキが唇を離した。
カエデはただ喘いだ。
シキの濡れた唇が、なまめかしく動く。
ぐったりとしたカエデはそれを見ていた。
見ているしかなかった。
「…なんと、甘い。
まことに好いた娘の唇はかほどなまでに甘いのか」
濡れた唇を、指の腹でぬぐわれ、背筋によくわからぬ震えが走った。
だが、と、シキの瞳に再び黒い感情が宿る。
「かほどなまでに好いているというのに、そなたはまったくおれを見てはくれぬ。
かほどなまでに苦しきこととは。
最初は、代わりでも良いと思ったがそうもいかぬようだ。
ああ、憎い。
まこと、憎き男。
やはり、消さねばな。
……そなたを、まことの意味でおれだけの娘にせねば」
だめ、という言葉は音にならず、口の中で消えた。
手を伸ばしても、見開かれた青の瞳は遠い。
遠くて、遠すぎて届かない。
ヒタギの唇が、みこひめ、とつぶやいたのが分かった。
「潔く、消えろ」
びしゃり、とやけに生々しい音があたりに響いた。
深紅があたりに散る。
どさり、と重いものが地面にぶつかる音がした。
固く閉ざされた瞼。
その下の青い瞳が見えない。
「……あ」
ようやくかすれた声が出た。
見たい。
もう一度、青い瞳が見たい。
声が、聞きたい。
巫女姫って、いつもみたいに呼んでほしい。
失われたなんて、認めない。
認めてやらない。
これは、夢なんだ。
私は、悪い夢を見ているんだ。
そう思い込もうとする。
心が、体が、考えることを拒絶する。
認めることを受け付けない。
やがて、意識が真っ黒に塗りつぶされた。
だめ。
だめなの。
大切な人なの。
私はあの人を守りたくて、自分の心を裏切ったの。
自分の心を裏切って、気持ちを押し殺して、
これで、守れる――――――はずだったのに。
*カエデはうつろな目で、ただ自分の手を見つめていた。
彼女は今、見たことのないきらびやかな部屋の中で、
先程まで自分が横たわっていた、上等な絹の布団に座り込んでいた。
おそらくシキに宮に連れてこられたのだろう。
紅が脳裏をよぎる。
ヒタギの閉ざされた瞼。
それが開くことは、あの青い瞳を見ることは、もう―――――――――
思い出したくない、と頭がまた考えることを拒否する。
彼女の手の中には、あの銀細工の髪飾りが静かに輝いていた。
―――巫女姫
「っ!!」
水のような声。
聞こえた気がして、思わず立ち上がってあたりをすばやく見回す。
だけど、誰も、いない。
浮き上がった心が、一気にどん底にたたきつけられる。
下を向いた視線が、再び髪飾りにうつる。
変わらぬ輝き。
派手じゃないけど、華奢で、清楚で、青玉が美しくて、
…ヒタギの瞳の色と同じで。
―――とても、きれいだ
「…っう」
もう、あの優しい声はきけない。
もう、二度と、会えない。
会いたくても、会うことはかなわない。
ヒタギは、死んだのだ。
私の、せいで。
「うわぁぁぁあああああああああああああああっっ」
カエデは叫んだ。
声が枯れるほど泣き叫んだ。
だけど、いくら泣き叫ぼうとも、過去は戻らない。
ヒタギは現れない。
迎えに来てはくれない。
ごめんなさいなどという生ぬるい言葉では決して許されない。
シキが手を下したとしても、それをさせたのはカエデだ。
私が殺した。
私がヒタギを殺した。
己の浅慮がこの事態を、大切な、誰よりも守りたい人の命を奪った。
その事実が容赦なく心にたたきつけられる。
それは、ゆっくりと、だけど確実にカエデの瞳の光を砕き破壊していった。
やがて部屋を訪れた紫金の皇子は、
ただ声もなく涙を流し続ける白銀の巫女の姿を見て彼女の体をそっと抱きしめた。
愛しい彼女の名を呼んだ。
何度も何度も。
だけど彼女は応えない。
美しい藍の瞳には、彼の姿は映らない。
その瞳が映したいのはただ一人の青年だけ。
白銀の巫女の、光が失われた瞳を見て、初めて紫金の皇子は、己が最も欲したもの、
彼女の心と愛を、永遠に失ったことに気付いたのだ。
「おれは、あやつをあやめたこと、わびはせぬ。
おれを憎み呪うがいい。
おれはそれでもそなたを愛そう。
たとえこの身が滅び朽ち、魂だけになったとしても、
そなたを愛し続けよう。
おれの一生をかけて。
……たとえ、そなたが一生おれを見てはくれなくとも」
the end