表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浅葱の夢見し  作者: いろはうた
第一部
19/50

番外編 レイヤ祭り

*「…み、巫女」


廊下を一人で歩いていると背後から声がかかった。


ふり返れば、そこにはレイヤが立っていた。


なんだか、気まずそうな表情だ。


無口な彼がこうして声をかけてくることは珍しい。


「どうしたの?」


そう問うと彼はしばらくおし黙った。


というよりも周囲に誰もいないか確認しているように見える。


「あ、もしかして仕事の手が足りないとか?

 

 

 それなら手伝わせてほしい!!」


カエデは目を輝かせてそう言った。


四鬼ノ宮に来てから、何度か女官たちに仕事を手伝わせてほしいと頼んだのだが、


やんわりと断られてしまったのだ。


かといって、何もしないのは性に合わないので、


今は広い屋敷を探検しているところだった。


「ねぇ、どうしたの?手伝いじゃないなら剣術の修業?」


「…いや、今日は、お前に伝えねばならないことがあって来た。」


「伝えねばならないこと?」


聞き返すとレイヤがいきなり背を向けた。


沈黙が落ちる。


ときおり、ぜーはーと呼吸をならそうとする音が聞こえる。


「れ、レイヤ?」


「……しばし待て。これを伝えるには…その…心の準備というものが…」


…いつも冷静なレイヤが深呼吸をしなければ伝えられないようなこととは一体何だろう。


「その…そんなに伝えづらい事なら、無理しなくても…」


遠慮がちにそう言うと、レイヤがすさまじい速さで振り向いた。


「…い、いや!!


 ………言う」


必死の形相のレイヤに距離をつめられ、さらには両手までがしっと握られた。


深緑の瞳に見つめられ、鼓動が跳ね上がる。


「あ、あの、レイヤ、顔がとても赤いけど、大丈夫?


 ね、熱でもあるんじゃ…」


「…熱はない。


 大丈夫だ。


 ………い、いいから聞いてくれ。


 これだけはどうしてもおまえに伝えねばならない


 …い、い、いくぞ」


「う…うん?」


「…おっ、おまえが好きだ!


 愛している!


 他の女なんていらない!


 おまえの全てをおれのものにしたい!!」


「え、え゛え゛え゛ええええええええええええええええええええええええ!!!???」


「…おまえの髪はいつまでも撫でていたくなる。


 瞳を見ていると吸い込まれてしまいそうになる。


 頬は柔らかくて可愛らしい。


 あごの曲線も好きだ。


 おまえに触れられると、幸せな気持ちになる」


「れっ、れっ、れれれレイヤ!!


 む、無理!!


 心臓壊れちゃう!!!」


屋敷中に響き渡りそうな声で切々と語りだしたレイヤに半泣きですがりついた。


「…ここまで言ったんだ。


 最後まで言わせろ」


だというのに、レイヤは全くとりあってくれない。


カエデは赤くなった後に、青くなった。


「…おまえに名前を呼ばれると、心臓が止まりそうになる。


 泣いているのを見ると、守りたくなる。


 笑ってくれるだけで、心がざわついて死んでしまいそうになる。


 赤くなっているのを見ると、愛しくてたまらなくなる。


 おれ以外の奴と話しているのを見ると、嫉妬に狂いそうになる。


 ……これの意味がわかるか?」


レイヤに強く手を引っ張らててつんのめる。


だが彼の胸に受け止められた。


顔が火を吹きそうなほど熱い。


カエデはレイヤの問いに首を振るのが精一杯だ。


レイヤはさらに顔を近づけると、カエデの耳に低くささいた。




「…おれがそれだけおまえのことを、好きすぎるということだ」




「ひ、ひゃあっ」


とどめの一言にカエデの腰は完全に砕け、彼女はその場にへたりこんでしまった。


「…どうした?


 顔が真っ赤だ。


 おまえこそ熱でもあるのか?」


「ない!!


 ないないないないないない!!!」


額をくっつけてこようとするレイヤから、カエデは必死に距離を取ろうとした。




「いやあ、よくやったねえ、レイヤ」




さわやかな笑みと共に、廊下の曲がり角からヒレンが現れた。


「ひ、ヒレン様…」


これ以上ないほど笑顔がさわやかだが、おそろしく真っ黒に見えなくもない。


「ああ、安心して、巫女姫。


 これ、日頃のレイヤの読者様からのモテっぷりにイラッときた作者が


 私にお願いしに来て、それをレイヤにさせただけだから」


「な、何をお願いされたんですか!?」


「え?


 何って…”レイヤの恥ずかしい所を暴いてほしい”って」


「………」


「まあ、レイヤの場合、これ演技じゃなくって、九割九分ぐらい本気……おっと」


ヒレンのいたところにびゅっと一迅の風が吹いた。


見ればレイヤがちょうど刀を収めたところだった。


「……ちっ」


「い、今レイヤ、無表情で舌打ちとかしなかった!?舌打ちとか!!??」


「危ないなあ…袖が切れちゃったじゃないか」


「…申し訳ありません。


 よく回る口を切って差し上げようとしたのですが、腕がすべりました」


「そうかい。


 修業が足らないなあ…レイヤ」


「ちょ、ちょっとレイヤ!!


 刀を二本とも抜こうとしない!!


 というか、断ればいいのに、なんでこんなこと…」


「……作者が、今回の”告白”の任務を受けなければ、


 この物語でのおれの出番を減らしまくる、と脅された」


「…………」


「受けなければよかったのに。


 そうすれば私の巫女姫との絡みが増えるかもしれなかったじゃないか」


「うわあ…ヒレン様、ステキ笑顔にステキ策略…って、レイヤ、


 き、斬りかかろうとしない!!!」




…それからしばらくもみ合いになったそうな。





the end☆



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ