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浅葱の夢見し  作者: いろはうた
第一部
15/50

シキの独白

*女などにもともと興味などなかった。





女など何もしなくても次から次へとよってきた。



どうせ、第三皇子の后の座が欲しいのだろう。



気まぐれに甘く優しい言葉を吐けば、うっとりと頬を染める姫君たちを



そう思いながら冷たく見ていた。



少しでも高い身分を得ようと、媚びへつらい、娘たちを押し付けてくる大臣。



策略と陰謀と嫉妬が渦巻く宮の淀んだ空気。



生きることすら無意味に思えてきたとき―――――彼女に出会った。



彼女は、人とは思えぬほど、美しかった。



初めは藤の花の精かと思った。



だが、彼女は、精霊にしては、あまりに生々しい目をしていた。



青く、深く、鮮やかで、その最奥に、悲しみと秘密とことわりを隠し、



ひたすら「愛」に飢えていた。



ほんの少しだけ、おれに似ているものを持った瞳。



一瞬で、惹きつけられた。



情けないほど、みとれた。



奥に秘密を宿す瞳が、こんなにも美しいだなんて知らなかった。



そう。



彼女は、悲しくなるほど、切なくなるほど、美しい。



彼女は、おれが皇子だとは知らず、



どこまでも純粋に、まっすぐ、『シキ』に言葉をくれた。



それは、おれが皇子であるという事実を知っても変わらない。



それがどれほど嬉しかったか。





だけど、気づいてしまった。





彼女がちっともおれを見てくれないことに。



くるくると、よく変わる表情は、痛みをこらえるかのように、時々陰った。



美しい青い瞳は、たまに、おれではない遠い誰かを思って、宙をさまよう。



自慢のように聞こえるが、おれは、生まれてこのかた、



女に不自由したことはない。



女など、常にまとわりつかれていた。



だが、彼女のような存在は初めてだった。



追いかけ、強く腕を引き、抱きしめ、腕に閉じ込め、おれを見ろ、と言って、



ようやく、ほんの少しだけ、おれのことを見てくれる。



だけど、その視線はまたすぐに、遠くをさまよってしまうのだ。



それに気づいたとき、胸によくわからない感情が、雷のごとく走った。



一番強かったのは、『焦り』と『恐怖』。



このままでは、彼女は永遠に俺のことを見なくなってしまう。



この世でただ一人の存在。



『シキ』をまっすぐ認めてくれる娘。





欲しい。






欲しい。



ずっと、傍にいてほしい。



おれという存在を、もっと認めてほしい。



おれを、おれだけをその瞳に映してほしい。




――――――おれを、愛していると、言ってほしい。




その深い瞳も、愛らしい唇も、あたたかな吐息も、身も心も、すべて、



おれだけのものにしたい。



今までに感じたことがないほどの強い衝動。



強い欲望。



早く手に入れなければ、彼女は永遠におれのものにはならなくなる。









だからおれは、一生のうちに一度だけ許されている『わがまま』を、使って、





彼女を奪ったのだ。


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