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浅葱の夢見し  作者: いろはうた
第一部
14/50

カエデの独白

~カエデの独白~





*あなたが私に好意を寄せてくれているのは、色恋に疎い私でも、薄々感じていた。



それらが『ハルナ』への好意だというのは、最初から理解していたつもりだった。



だけど、あなたの心に、優しさに、温もりに、触れるたびに、私はそれを忘れていった。



どんどんあなたに惹かれて、恋い焦がれた。



少しでも、『カエデ』のことを好いてくれているんじゃないかと、期待するようになった。



いや。



そう思いたくて、あなたが私に与えてくれる全ては、



本来は『ハルナ』のものだという事実から必死に目を背けていた。



見ないふりをしていた。



最初は代わりでよかった。



代わりでいいから愛されたかった。



今思えば、『ハルナ』のふりをして、あなたの全てを独り占めしていればよかったのだ。



あなたをだまして、あなたに愛され続ければ、影水月も私の大切な人も守れる。



だけど、私は耐えられなかった。



代わりなんかじゃ嫌だ。



『カエデ』である私をまっすぐに見て、愛してほしかった。



知らぬ間に想いは一日ごとに降り積もり、恋い焦がれる苦しみは消えない。



一日一日ごとに、またあなたを好きになって、想いを止めることができなくなる。



しまいには、あなたに会いたくて、あなたに会いたくなくなった。



あなたが好きで、愛おしくてたまらなくて、ずっと傍にいたいと思う。



だけど、あなたは愛おしそうに、ハルナを見つめてくるのだ。



あなたは、ハルナを離したくないというように、強く抱きしめてくれるのだ。



あなたは、本気で、ハルナのことを綺麗だ、美しいと褒めてくれるのだ。



それらがすべて私のものだったらどんなに良かったか。



でも、違う。



あなたが本当に好いているのはハルナで。



私は、カエデ。



その事実が、あなたを好きになるたびに、ますます強く、重く、私の心をえぐる。



誰よりも愛しているあなたに、愛されているような『錯覚』。



それが、痛くて、苦しくて、気が狂いそうになるくらいつらくて、あなたに会うのが怖くなった。



あなたがほかの女性を好きになって、私の目の前で彼女に愛をささやくよりも、ずっとつらい。



何故ならあなたが愛しているのは、私の大好きで、大切な『姉』(ハルナ)だから。



あなたがハルナに与えるはずだった愛情の全てを、



私がわが身に受け続けなければならないのだから。



もし、私じゃなくてハルナがここに来ていたら、こんな風に抱きしめていたのだろうか、



と、思うだけで、嫉妬で胸が焦げおちそうになる。



だから、いっそ、あなたに私の秘密をすべて話して、



あなたを愛していると伝えられたらどんなにいいだろうかとも考えた。



だけど、すぐにあきらめた。



誰よりも長くともに育ったハルナがどんなに魅力的な女性なのかは、私が一番よくわかっている。



あなたは、私が『ハルナ』じゃないとわかったら、私なんかに見向きもしなくなるだろう。



それが怖かった。



それならば、代わりでもいいから愛されたかった。



でも、それは息が止まりそうになるほど苦しい。



もう、どうしたらいいのかわからなくなった。



なにも考えてたくない。



人を愛することが、愛されることが、こんなにも苦しいものだなんて知らなかった。



なにもかも、忘れてしまいたかった。



でも、もう遅い。



あなたに出会ってしまった。



全てが変わってしまった。



だから、逃げたの。



全てから。






―――――――――あなたから。



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