スライムが現れた!
「美弥子!」
冷たい夜の闇を切り裂くように、切迫した叫びが響き渡る。住宅街の静寂を乱すのは、焦りに満ちた男の声。すっかり夜も更けたこの時間には、さぞや迷惑となるだろう。
「美弥子、どこだ!」
しかし今の俺に、そんなことを気にする余裕はなかった。どうしようもない焦りに突き動かされ、彼女の名を呼びながら夜の街を駆け巡る。もう、どれだけ探し回っているだろう。息が切れて苦しくなり、足も疲労を訴えている。だが、彼女を見つけるまでは立ち止まってなどいられない。
狭い路地を抜けると、雲間に隠れていた月が、地上に銀色の影を落とす。人通りの絶えた通りには誰の姿もなく、ただ静寂だけが居座っていた。ますます焦りに拍車がかかり、不安で胸が潰れそうだ。くそっ、俺はなんてことをしてしまったんだ‥
思えば今日は朝からついてなかった。事故で電車が遅れたせいで、会社に遅刻したのが不運の始まり。クソ上司にここぞとばかりに嫌みを言われ、それが尾を引いて仕事でもミス。対応に頭を下げて回った挙句、残業も遅くなり、家に帰りついた頃には心身ともに疲れ果てていた。
俺の帰りを待ち望んでいた美弥子に、イライラをぶつけてしまったのは生涯の不覚と言う他ない。つい怒鳴ってしまったら、彼女は怯えたように身をすくめ、なきながら夜の街へ飛び出して行ってしまった。後悔はすぐにやってきた。
「頼む、美弥子、俺が悪かった、戻ってきてくれ!」
春とはいえ、夜はまだまだ冷え込み、吐く息も白く染まる。こんな寒空の下、彼女がどこかで震えているかと思うと胸が張り裂けそうだ。零れそうになる涙を堪え、必死で彼女の姿を探し求める。
ああ、美弥子、俺の天使。孤独に生きる俺に愛と安らぎを教え、生き甲斐を与えてくれた魂の救い手。お前の温もりに一体どれだけ癒されてきたことか。俺にとって、お前と積み重ねてきた時間だけが人生の全てで、もしお前を失ったとすれば、これからどうやって生きていけばいいんだ?
「美弥子、後生だから姿を見せてくれ!」
必死の叫びも虚しく、無人の道路で木霊する。再び月が雲間に隠れ、闇が一層濃さを増すと、心も孤独の影に閉ざされる。 もし、彼女がこのまま帰ってこなかったら‥。そんな不吉な考えを慌てて振り払う。思えば初めて出会った時から、俺は彼女の虜だった。あの清らかな瞳、せつなくなるほど愛らしい声。あどけない顔とは裏腹に、しなやかでセクシーな身体つき。気まぐれで甘えん坊で蠱惑的なまでの魅力は、天使の純真さと悪魔の魅力を併せ持ち、俺の心を捉えて放さない。
美弥子‥、もし今お前を抱きしめられるなら、俺はどんな犠牲も厭わない。こんな寒い夜の牢獄から解き放ち、暖かい我が家で愛を語りあいたい。そして君を優しくベッドに横たえ、柔らかな身体を愛撫し、めくるめく快楽を与えてくれる、あの弾力に満ちた‥
‥‥‥
‥プニプニの肉球を‥モミモミしたい!
「ミャーコ‥、‥じゃなかった、美弥子、出てきてくれたらモンプチの缶詰をあげるよ。だから、俺と一緒に帰ろう!」
‥ああ、美弥子、俺の天使。お前は一体どこにいるんだ。
近所の思い当たる場所の、どこにも彼女はいなかった。すると、足は自然とあの場所へ向かっていた。
通勤途中にあるその空き地は、俺達が初めて出会った思い出の場所。あれは忘れもしない、セミのやかましい夏の日の夕暮れ。寂しげな鳴き声に誘われて、まだ小さかった彼女を目にした時、俺は運命の恋に落ちたんだ。
その空地は今も健在だったが、往時に比べて様相は変わっていた。古びたドラム缶しかなかった広場に、今では建築資材がそこかしこに積み上げられ、おそらくは木材だろう、幾つかはブルーシートを被っている。街灯の光も届かぬ暗闇の中、それらは静かに横たわる巨大な獣のように見えた。
もともとこの空地は、隣接する藤本工務店の資材置き場で、現在、津久葉大学遺伝子研究施設の増築工事に携わっており、連日トラックが出入りするのを見かけている。仕事の関係で津久葉大学には、卒業した今も訪れる機会があり、先日教授と会った時にも、その話題が出てきた。
立ち入り禁止のチェーンを乗り越え、空地の角へ向かうと、俺と出会う前、美弥子がねぐらにしていたドラム缶も残っていた。錆ついて横倒しになっているのも当時のままだが、黒いごみ袋が入り口を塞いでいて、中を見ることができない。
「美弥子、いるかい?」
恐る恐る近づいた時、突然、視界の中で思いもよらぬものが動いた。
暗がりの中、ごみ袋だとばかり思っていた「それ」は、まるで生き物が身を震わすように蠢いた。そう、震えると言う表現が正しいだろうか。その巨大なゼリーの様な塊は、ぶるぶる身を震わしながら向きを変えた。
今まで見ていたのは背面だったのか、それは顔と思われる面をこちらに向けると、ぎょろりとした二つの目で俺を見る。何の感情も窺えない無機的な視線は動物のそれだが、これは一体どういう生き物なのか。玉ねぎを思わせる涙滴型の塊には手も足もなく、目の下には口と思われる裂け目がある。両端のつり上がったその裂け目は、笑っているかのようだった。
この全く予期せぬ遭遇に、俺は凍りついたように固まった。恐怖とも驚きともつかぬ感情が渦巻き、混乱が動きを止めさせたのだ。しかし、徐々に釈然としない怒りの様なものが浮かび上がってくる。これは一体何の冗談だ?
例えばここで出会ったのがツチノコのようなUMAであったなら、驚くだけで済んだだろう。だが、こいつは違う。テレビの特番に出てくるような、既存の未確認生物ではなく、俺の世代なら誰でも知っている有名なモンスター。某有名RPGに登場するそれは、どう見てもスライムにしか見えなかった。むろん現実には、いるはずのないものだった。
そいつはゲームに登場する様な、コミカルな風貌はしていなかった。ぬらぬらとした肉の塊が蠢くようで、こちらを威嚇するように身体を震わせながら、俺の動きをじっと観察しているように見える。明らかに人外の存在なのに、目だけはどこか現実じみていて、生理的な嫌悪感を抱かせる。まさにこいつはモンスターと呼ぶにふさわしかった。
未知の存在は、好奇を抱かせるか恐怖を抱かせるものだが、この場合は後者が勝った。幸い十分な距離があるし、どう見ても素早く動く生物には見えない。じわじわと後ずさりを始めたその時、聖なる光が降り注いだ。
月の光には魔の正体を現させるという伝説があるが、再び雲間から現れた月は、空地を明るく照らしたに過ぎなかった。柔らかな光が、闇の中から不気味な青い身体を浮かび上がらせるが、俺の目は別のものに奪い取られていた。ここに来た時奴が背を向けていたのは、食事中だったからなのか。奴の身体の陰から、血に塗れた三毛猫の手が覗いていた。
「‥美弥子?」
ショックで茫然としながらも、俺は彼女の名を呼んだ。だらりと地面に横たわった手は、ピクリとも動かない。さっと血の気が引き、身体から何か大切なものが抜け出して行くような感覚を覚える。
「‥嘘だ、そんな‥、‥み、美弥子ぉ~!」
魂を絞り出すような絶叫に、奴は明らかに俺を敵と認識したようだった。あるいは、食事を奪いに来た外敵と思われたのかもしれないが、そんなことはどうでもよかった。煮えたぎるような怒りが込み上げてきて、頭の中で爆発する。殺意が膨れ上がり、ひどく凶暴な気持ちが湧きあがるも、それを押さえる必要はなかった。
ゲームならこの辺で指示を求められる所だが、俺の選択は「たたかう」でも「にげる」でもない。
‥こいつは「殺す!」
世に武道数あれど、どんな綺麗事を並べた所で、やっている事は暴力の行使に他ならない。従って武道の目的は、効率良く相手を戦闘不能にする技術の習得と言えなくもない。しかし、これらの武道はあくまで人間を相手にすることが前提だ。今の場合、それが問題だった。
俺が学んできたのは極真空手で、立ち技打撃系では最強を自負している。それに伝統空手と違い、直接打撃での実戦経験も豊富だ。とは言っても、それはあくまで人間相手の話で、さすがにこんな得体の知れない化け物と戦った事などあるはずもなかった。
普段の俺なら攻めあぐねていたかもしれない。もともと俺は防御重視の構えから、相手の隙を見つけて攻撃するタイプだ。こんな何をしてくるかわからない相手には、慎重な対応をしていただろう。
「うおおおぉぉっ!」
だが、今の俺は到底普段の状態ではなかった。ほとんど駆け寄るような勢いで、無造作に間合いを詰めると、裂ぱくの気合を込めて右回し蹴りを放つ。狙うは人間の頭で言うこめかみの部分だ。
「せいっ!」
こんな動きの鈍そうな的を外すはずもない。バット二本をへし折る俺の蹴りは、狙いをあやたまず命中するかにみえた。が、寸前、奴は身体の向きを変えた。必殺の蹴りは奴の背中で弾けるが、まるでサンドバッグを蹴り込んだような感触がかえってくる。たいした痛痒は与えてないだろう。その証拠とばかりに、反撃はすかさずやってきた。
「ぐっ!」
腹にずしんと来る衝撃にを受けて、呻きがこぼれる。蹴りを跳ね返されて体を崩した所に、思わぬ一撃をくらってしまい、堪らず片膝をついてしまった。まさかこの体形の生物が跳ねるなど、誰に予想がつくだろうか。奴は地面から飛び上ると、腹に体当たりを仕掛けてきた。
今のをもう一度食らったらやばい。そう判断するなり、後ろに飛び退ったのは修行のなせる業だが、奴の追撃はこなかった。怒りに駆られ、ぶち殺すことしか頭になかったが、今の一撃で少し目が覚めた。後屈立ちで防御の姿勢を取り、間合いを一定に保ちながら頭を巡らせる。
‥落ちつけ、あれだって生物である以上、どこかに弱点があるはずだ。考えろ、奴の身体の弱い部分はどこだ?
常識的に考えれば、やはり目だな。心臓がどこにあるかは見当もつかないが、脳は目の奥にあるはずだ。しかし動きこそ遅いが、身体の向きを変えるだけなら奴の方が早い。攻撃速度の速い前蹴りを放っても同じ事だ。それに下手をすれば今みたいなカウンターを食らってしまう。
大体何だ、あのジャンプ力は?あんな肉の塊が飛ぶなんてあり得ねえだろ。ずるずると這い寄ってくる化け物は、相変わらず無機的な目で俺を見るが、吊りあがった口はまるでニタニタ笑っているようだった。口の端から涎を垂らしながら這い寄ってくる姿は、嫌悪感を催させる。
もしかしてこいつ、俺を喰う気か?
そうだ、化け物であれ何であれ、生物であるなら、こいつの本能は生存と繁殖に向けられているはずだ。多分こいつは肉食と言うより雑食だ、捕食できるものなら何だって喰うだろう。だが、仮にも美弥子は猫だぞ。こんな動きの遅い怪物に捕まるはずが‥
‥そうか、わかったぞ。こいつは擬態していたんだ。俺だって最初はごみ袋と見間違えたくらいだからな。おそらく岩か何かの振りをして、近づいてきた小動物に飛びかかって圧殺するんだ。そうやって美弥子もきっと‥‥畜生!
滾る怒りを力に変えて、俺はこいつの殺し方に集中した。要は奴の正面から打撃を与えればいいんだ。そして避けられると言うのなら、避けれない状態を作ればいい。頭の中で一つの攻め方を練り上げると、後は実行するだけだった。
俺は先程同様無造作に近づくと、大振りな回し蹴りを放つように足を振り上げる。腹ががら空きの姿勢は、奴にとって格好の的だろう。ほとんど予備動作を見せずに、奴は跳ね上がったが、今度はこっちも覚悟の上だった。
「かっー!」
臍下丹田に力を込めて、気合とともに息を吐き出す。極真空手の呼吸法「息吹」を用いれば、腹部への攻撃はどんなものだって耐えてみせる。重い一撃が腹に響くが、さっきとは逆に奴を弾き飛ばす。ふんっ、空手家の腹筋舐めんなよ!
「跳ぶとわかってりゃあなぁ‥、耐えれんだよ!」
無様に地面に転がった怪物を見下ろし、俺は足を振り上げる。極真の極意は一撃必殺、何度も練習を繰り返して身につけた技が自然と身体を動かしてくれる。
「せいやっ!」
渾身の力を込めて放った後ろ蹴りは、今度こそ狙いをあやたまず、奴の両眼の間で炸裂した。後ろに吹き飛ばさないよう、地面に打ちおろす感じの蹴りは十分な打撃を与え、足の下で柔らかいものが潰れる感触が伝わってくる。ごぽっと音を立て、口から青い血を吐いたのが断末魔の悲鳴代わりで、左の眼球が神経の糸を引きながら飛び出し、そいつは動かなくなった。
戦いは終わった。
緊張から解放されると、どっと疲れが噴き出してきた。しかし、俺は動かなくなった怪物の死骸を見下ろし、こいつの正体について考えを巡らせていた。さっきまで鈍い青色をしていた身体は、その死と共に色素が抜けて行き、今や白っぽく変わりつつあった。幾つかの事実が俺にこいつの正体を告げていた。だが、もし俺の推測が当たっているとすれば、これはとんでもないことだぞ。
別にキリスト教徒と言うわけでもないが、間違ってもこいつは神の造りたもうた生き物などではなかろう。少なくとも自然の摂理から生まれた、既存種や新種でないことには明らかだ。かと言って、こいつは交配品種でもなければ突然変異でもなく、合成獣ですらあり得ない。
俺の想像が間違ってなければ、おそらくこいつは‥遺伝子導入生物だ。
この呪われし遺伝子工学の産物は、別の動物の遺伝子を導入することで、遺伝情報を変化させられた人造の生き物。そして、ベースとなった生物は頭足類、それも形状から見てタコで間違いないだろう。
そもそもこんな頭部だけの生き物なんて、頭足類以外に考えられない。海洋生物の生態に詳しい俺にはわかる。触腕こそないものの、こいつの動き方は軟体動物特有のものだし、死後体色が白化したのは色素胞の働きによるものだろう。ぶよぶよの身体は柔らかそうに見えるが実際は筋肉で、ときに俺の回し蹴りを弾く程の強靭さを持つ。それに血の色もこいつがタコであることを物語っている。ヘモシアニンを含む血液は、ヘモグロビンを含む赤い血液と違って青色に見えるのだ。
あの脅威のジャンプ力には謎が残るが、それにもいくつかの仮説は立つ。タコは漏斗官から水を噴出して泳ぐが、こいつは水の代わりに空気を取り込んで噴出する事が出来るんじゃないだろうか。もしくは、身体の底部に触腕があって、それを強靭な筋力でジャンプ力に変えているのか。ぜひとも然るべき研究施設で解剖してみたいものだ。
だがタコだけでは、このような化け物は存在しえない。触腕をなくし、陸生に適応させ、何よりこんなふざけた外形を作り出したのは、いかなる遺伝子を導入したものか。ウミウシ、ヒトデ、いやそれともナメクジか。あるいは扁形動物も考えられる。
もっとも、こんな推測をいくら並べても意味がない。根本的な問題は、どこのどいつがこんな化け物を生み出したかだ。首謀者を突き止めればよりはっきりする話であるが、その答えには見当がついていた。
すぐ傍にある「津久葉大学 研究施設行き」と看板のかかった建築資材を一瞥すると、溜め息がこぼれる。考えてみれば子供でもわかる推理だ。国内のみならず、世界でも有数の遺伝子研究施設が近所にあって、他の何を疑えと言うのだ?
問題と言えば、こいつが作り出された経緯も問題だ。何しろ遺伝子導入生物など、昨日考えて今日作れるほど簡単なものではない。しかもこれだけ特異な生物を想像するには、年単位の膨大な時間と、莫大な研究資金が必要なはずだ。いつ頃から研究が始まったのかは見当もつかないが、こうして現物が存在する以上、相当前から計画は進んでいたのであろう。よもやスポンサーはSで始まってXで終わる、アルファベット十文字の某有名企業ではあるまいな?
何が目的でこんな化け物の創造を試みたかは知らないが、こんなものの存在が世に知れたら、確実に倫理的な問題がついて回る事ぐらい、いくらなんでもわからなかったのだろうか。しかもその化け物が、住宅街のど真ん中で動物を襲っているんだ。大学にせよ企業にせよ、事が公になれば致命的なイメージダウンは避けられんぞ。
大体何故こいつはこんな所にいるんだ?どう考えたって、研究施設にいなければまずい話だろう。もし脱走したのなら管理側にとってもイレギュラーな事態だろうが、わかっているのだろうか、タコは‥
‥いや、そんなことより、そのせいで美弥子が‥、うぅ‥美弥子がぁ‥‥
「ニ~‥」
か細い鳴き声が、俺の思考を停止させた。今の声は、まさか!
「ニャ~!」
俺が他の猫と美弥子の声を聞き間違えるなどあり得ない。あれは美弥子の声だ!
声の出所を探すと、はたしてドラム缶の陰から、恐る恐るこちらを窺うのは、何と俺の天使ではないか!
「み、美弥子ぉ~!」
泣きながら駆けよると、彼女は余程怖い目にあったのか、俺の腕の中に飛び込んでくる。間違いない、この抱き心地、この匂い、どれをとっても正真正銘美弥子のものだ。地獄に落ちていた俺の魂は、たちまち救われ天国へと駆け昇った。
「ああ、ごめんよ美弥子、俺が悪かった、許してくれ」
涙にくれながら、俺は彼女にキスして回った。つぶらな瞳に尖った耳、そしてめくるめく快楽を与えてくれる、俺だけの肉球‥
‥ちょっと待て、それじゃ、この猫の死骸は何なんだ?むぅ、良く見ると美弥子とは毛の配色が違うじゃないか。緊急時であっとは言え、俺ともあろうが見間違えるとは何たる不覚。同じ三毛猫の理不尽な死に憐憫の情を覚えるも、美弥子が無事だった事を喜ばずにはいられなかった。
「さぁ、家に帰ろう」
「ニャン」
愛する彼女を腕の中に収めると、もう他の事はどうでもよくなっていた。幸せいっぱいの俺は彼女と一緒に家路をたどり、怪物の事も、さっきまで考えていた懸念も綺麗に忘れ去ってしまった。
そう、もしこの怪物が施設から脱走していたのなら大変なことになる。なにしろ、タコは寿命こそ一、二年と短いが、一回の産卵で十万個以上の卵を産む生物だからな‥
人知れずドラム缶の中で息づく卵が、やがてとんでもない災厄を引き起こすことに津久葉市の住人が気付くのは、それから何日もたってからの事だった。
もし、本当に現実でスライムと出会ったら?をモチーフで書いてみた作品です。
「ゲームやファンタジーの世界だったら、何でもありでしょ。面白ければいいじゃない」‥と言う考えは嫌いなんでね。
どれだけ奇想天外な世界でも、リアリティを伴わなければ、面白さがいまいちだと感じる今日この頃です。
nameless権兵衛 衛藤英一