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20 月光の下、王女の戦い その2

「ロザリア、言っておくが」


セインが意識を正面にむけたまま、やけに真剣な声音でロザリアに話しかけた。


「……何?」

「俺は、弱い」

「…………」


その台詞にロザリアは眉をひそめて首をかしげてから、納得して呆れたように頭を横へ振る。


誰が言うまでもなくセインは頭脳派で、武闘派とは程遠い人。

幼いころのロザリアやセインの兄弟たちが騎士ごっこをして遊んでいるのを放置して、図書館で一人孤独に本を読んでいたもやしっ子だ。


「…セインが長剣を持っているのなんて、初めて見るわ」

「ニーチェでの剣の基本教科を終えた13の時以来だから、持つのも4年ぶりだな」


つまりは最低限叩き込まれる授業で以外、剣技には何の興味も示さなかったということか。



「勝てる要素ゼロってこと?…どうして来るのよ!みすみす殺されに来たの?!馬鹿じゃないの?!」

「うるさい!私だってびっくりだ!今の今まで自分が出来ない事をすっかり忘れてたさ!」

「っ…なに、それ…セインが自分の力量さえ考えなかったなんて…」


突発的に行動するなんて、セインらしくない。


(それだけ必死で慌てていたということ…?)


「ばか」


ロザリアは後ろからセインの服の裾を握って、小さくつぶやいた。


「そもそもがどうしてセインが来るのよ。他にも騎士だってたくさんいるでしょう。せめてグロウを付けなさいよ、あの人強いんでしょう?」


ロザリアはセインの無謀さにどうしても責めるような口調になってしまう。

けれど怒っているのではないことは、さらにきつく握りしめる手と泣きそうに歪む表情から明らかだ。


(一番にたどり着いたのがセインだと言うことが府に落ちないわ)


だって彼がここへ来れるくらいなら、ロザリアの居場所を王宮は把握していると言うことだ。

だったら手練れの人間を寄越せばいい。

それがどうしてセイン。

この場面ではロザリアと同じくらい役に立たないひ弱っぷりなのに。


「グロウなら別の用事を言い渡している」

「だからってどうしてこの場で一番に頼りにならなそうなセインが来るのよ」


意味がわからないけれど、触れた部分からはじわじわと熱が伝わってくる。

そうとう体温が高くなっていることに気付いて、ロザリアは眉をひそめた。

やはり体調はかんばしくないのだ。


(休まないと駄目なのに。ますます何で来たのか分からない。自殺行為だわ…)


ロザリア達の会話を聞いていた3人の男たちが思わずと言った風に吹き出す。


「まじか。この坊ちゃん、わざわざ殺されにきたってわけ?」

「面白れぇ。やっちまおうぜ!!」

「ちょ…逃げようよ!」


たとえ本調子であったってセインに彼らの相手は無理だ。

今は近くに馬もある。ロザリアは馬なら得意だから、逃げ切る可能性も出来るかもしれなかった。

なのにセインは一歩も動こうとせず、3人の男たちに堂々と目を向けて立っている。


「何考えているのよ!熱でどうにかなっちゃったの?!」


早く、早く逃げなければと考えて混乱するロザリア。

腕を引っ張って促そうとまでするのに、どうやってもセインはこの場を動くつもりはないらしい。

さらに声をあげて怒鳴りつけようとしたとき。

キィっと、屋敷の裏口の扉が開いて一層緊張がたかまった。


2対3でも負けの可能性の方が高いのに。

この上、屋敷にいる仲間たちまで加わったらもう絶望的だ。


「----来たか」


セインの視線の方へとロザリアが顔を上げると、現れたのは大柄で赤毛を逆立てた男と、その背後にも5人ほどの男。

ロザリアへ剣を捧げ忠誠を誓っていたはずが、どうしてか敵方へ寝返ったジンだった。


「ジ、ン……」


渇いた悲壮感漂うつぶやきは、きっと傍らにいるセインにしか届かなかった。

元々セインと対峙していた3人の男たちが、ジンへ向かって友好的な笑みをむける。


「よう、遅かったなぁ」

「あー…ちょっと、な」


やはりジンは敵である彼らの加勢にきたらしい。

ジンが鮮やかな赤い髪を気だるげに掻き上げつつ敵方に返事を返してから、こちらへと視線を移す。

彼の後ろにはさらに5人の仲間が続いた。

全員がすでに抜身の長剣を手に持っている。


3人だけだった敵は一気に9人に増えてしまって、絶望的な状況にロザリアは顔色を変えた。

どちらも戦力外な力しか持っていないロザリアとセイン。

対して相手は4倍以上の人数に、ロイテンフェルト国随一の剣豪ジン・カーベルがいるのだ。

何をどうやっても勝てるはずがない。



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