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13 幼馴染が婚約者になった日 その4

「ロイテンフェルト国王エリック様並びに、第一王女ロザリア殿下、ニーチェ国第四王子セイン殿下のお付きにございます」


高々と宣言された騎士の声に、大広間でそれぞれに歓談していた客人達は口を噤む。

正面の両扉から王座まで続く赤いカーペットが道を作れば、女性はドレスの裾をつまんで腰をおとし、男性は握った手を胸において、姿勢を正す。


気を見た指揮者が指揮棒を振ると、同時に楽団がファンファーレを謡う。


人々の注目を一身に浴びる両扉がゆっくりと開かれ、国王であるエリック、その後ろからセインと、彼の腕に手を置いたロザリアが入室した。


客人たちは僅かに顎を引いて、3人の王族が自分の前を行き過ぎるまで顔を伏せ気味にする。

響くのは楽団の重厚な音のみの、華やかながらお厳格な雰囲気が場を満たしていた。


やがて一番奥にある3段になった半円状の舞台の一番うえに玉座にエリックがたどり着く。

玉座より1段低い場所にはロザリアとセインが。


2人は金と宝石で装飾が施された台座を間に挟んで向かい合った。

台座の上にはビロードの濃紺色のクッションが載せられ、そこに2輪の大ぶりな白い花が置かれている。

薔薇にも似た形をした白い花はロイテンフェルトの国花、リフェルト。

国章や国旗にも刻まれていて、ロイテンフェルトの国名の語源にもなっている。


「これより婚約の義を執り行う。わが国の国花リフェルトに互いが口づけを落とし、それを交換しあった瞬間、わが娘ロザリアとニーチェ国セイン王子の婚約が正式に結ばれたこととなる」


エリックが低くも響く声で宣言すると、広間はシンと静まり返り、物音ひとつ聞こえなくなる。


ロザリアは台座に置かれた白い花を見下ろした。

立会人の元に行う国花の交換は、この国に住まうものが重要な契約を交わすときに必ず行う伝統の儀式だ。


「皆も知っていのとおり、リフェルトの花が重要な式典に使われるようになったのはロイテンフェルトの初代国王がこの花の模様を刻んだ剣を手にし、この地を勝ち取ったのがきっかけだ。初代王はもとより、リフェルトの花を掲げてロイテンフェルトのために心血を注ぎ国を栄えさせた全ての英雄たちに、これを誓うと言う意味合いを持つ」


初代国王がリフェルトの花を掲げていたのは恋人がそれを好きだったからとか。

他にもリフェルトの花にかかわる騎士や英雄の話はいくつもあり、ロザリアも幼いころは絵物語などで読んでもらっていて、馴染みのある花だ。

エリックは有名な歴史上の人物の功績などを長々と語っていた。

このリフェルトの花の誓いがいかに意味を持つものなのかを尤もらしく説いている。


(つまりとりあえず、昔の偉い人が好きな花だったから花をとおしてその偉人たちに誓いを立てなさいってことよね)


勉学にはうといロザリアだから、たくさんあるリフェルトの花に関わる物語の中のどれが真実の歴史なのか、はてはロマンス小説から来た作り話なのかさえよく分かっていない。

とりあえず長々しい話が早く終わってほしいとあくびをかみ殺すのに必死だ。

それくらい物珍しさがなくなる程度には何度も繰り返し同じような演説を聞いて育ってきた。


「2人とも。生涯を共にする伴侶として相手を認めることを近うならば、花を手にしなさい。リフェルトの誓いは絶対に敗れないことを心するように」

「…はい」

「はい」


そこでやっとロザリアは緊張し始めた。

もうすぐ婚約が決定的なものになる。

セインとの関係が幼馴染から婚約者へと変わってしまうのだ。


(ずっとずっと幼馴染だった。喧嘩ばっかりだったから友達だなんてとても呼べなかった)


エリックに促され、ロザリアとセインは台座に一歩近寄り、同時に花を取る。

すると驚くほど速やかに音もなく台座は移動され、ロザリアとセインを隔てる者はなにも無くなってしまった。


(幼馴染でなくなった私たちがどうなるかなんて、想像もつかないわ)


ロザリアは落ち着かなくて目の前の相手を伺い見たけれど、セインは無表情で何を考えているのかまったく読めない。


(緊張しているのって私だけ…?)


そう不満に思いながら自分の手元に視線を移す。

この大切な場のために選びに選び抜かれたのだろう美しいリフェルトの花。

ゆっくりと口元にそれを寄せると、甘い香りを花がくすぐった。


ロザリアは白い花びらに唇を付ける。

同じようにセインも、わずかに目を伏せて花に唇を押し当てていた。


2人が口づけを終えたことを見届けたエリックは頷いて、今度は交換を促す。

セインが一歩ロザリアへと近づいて、編み込んだリボン以外装飾のない髪へリフェルトの花を挿す。


「っ……」

「固まりすぎだ」


苦笑を含んだ囁きが、耳元を掠めた。

思わず顔をあげると、今まで見たセインのどんな笑顔より優しい微笑みが目の前にあって、ロザリアの心臓が跳ね上がる。


「…ロザリア」


固まっているロザリアを促すように、セインがまた囁く。

どうやらもうロザリアの髪には花を挿し終えたようで、慌ててセインの胸元へ持っていたリフェルの花を差し入れた。


セインの胸元に白いリフェルの花が収まったその瞬間。


大広間からに盛大な歓声と拍手が鳴り響き、楽団が国歌を奏で始める。



ロザリアとセインの関係が、幼馴染から婚約者へと変わった瞬間だった----。




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