第四話 物語は危険な雰囲気に。
ちょっと生々しいかもです。注意。
家に帰ると、やはりというべきか。
家族が、俺が男であったことを覚えていなかった。
晩飯を食べた後、俺はそのまま自室に足を運ぶ。
俺の家は一軒屋であり、二階の廊下の突き当たりに俺の部屋がある。
大きさは畳六畳ぐらいの広さで、ベットと本棚に机だけというとてもシンプルだ。
親からはもっといろいろな趣味を持っても良いといわれるが、
俺は小説さえあればそれで良いと思っている。
本棚は天井に到達するぐらいの高さで、ぎっしりと隙間無く詰まっている。
小説のジャンルはミステリーが多いが、分類でいえば純小説が多い。
収納スペースは、入ってすぐ右にクローゼットがあるぐらいだ。
クローゼットには俺の普段着と、予備の制服のズボンが入っている。
……そういや、普段着は変化しているのだろうか。
身体は女でも、心はやはり男のままだ。女物の服は何となく気が引ける。
嫌な予感がして、俺はクローゼットを開けた。
良かった。普段着は無事だ。
……予備の制服ズボンは変化していたが。
おう。嫌な予感が当たった。
買った覚えのない、ひらひらとした薄い布で出来た制服。
そう、正しくスカート(・・・・)があった。
こういう手の小説にかなりの確率で発生するイベント。
制服が女物に替わる。
俺の通う高校は、スカートが正装であり、全校集会の時はズボン禁止である。
スカートは着たくない。絶対に。
心が痛む。
「ま、まあスカートを履く前に原因を突き止めて元に戻れば問題ないよな……」
俺はひとり、ため息をついてベットに腰を掛ける。
いやはや、長い一日だった。
腹が痛くなり、トイレに駆け込み、性転換。
何故かわからないが、もう三日はたったような気がする。
きっと、色々なことがありすぎたせいだろう。
今日はゆっくりと身体を休めるとしよう。
気づかなかった。こんなこと考えてもいなかった。
生活に支障がない? 何言ってるんだ、俺は。
目の前には、40度前後のお湯が入った湯船がある。
勿論、身体も疲れているし、心の安らぎを得ることも出来る、風呂には是非とも入りたい。
そのためには、服を脱がねばならない。
……。
この際、淡々ともう割り切って、作業のように入ろう。
先ほど、自宅に帰ってきた時も、普段着に着替えるときも上と下の下着姿を見ている。
自分の身体だからか、男の欲望が無いからなのか分からないが、エロいことは一切思わなかった。
というわけで、全部脱いだ。
すっぽんぽんの全裸である。
浴槽に入ると、目の前には大きな鏡がある。
そこに映っているのは、中学生ぐらいの背丈の女の子がすっぽんぽんで……
ぼほぉ!!
鏡が赤く染まった。勢いよく鼻血が吹き出した。
……一介の男子高校生には刺激が強いらしい。
例え、えろいことを考えなくても、どこからどこまで女性らしい丸みを帯びた裸は十分すぎる。
端から見たら自分の裸姿をみて発情する変態女だろうが、
心はやはり男なのだ。女の身体は見慣れていないし、どきどきする。
そもそも、俺の原形をとどめていない。
赤の他人を動かしているかのようなのだ。
しかもかわいい。美少女である。
多分、今鏡を見たら、赤めた頬をしていて萌えるのかもしれない
が、見る気はない。
今見たら、出血多量で死んでしまうだろうからな。
身体をシャワーで軽く流したあと、風呂にゆっくり浸かった。
身体的にはさっぱりしたが、すげー恥ずかしかった。
例えると、すっぽんぽんの女の子と風呂に入ってる様な。
これ以上は、もう無理だった。
俺のピュアな心が悲鳴を上げ始める。
そそくさと、シャワーを浴びて出ようととしたとき、また鏡を見てしまった。
その後どうなったかはご想像にお任せする。
///
女の身体に変化して、女の子の大変さが分かった。
一つ目に、髪の毛がなかなか乾かない。
俺の髪の場合、セミロングだが、それでも洗うのは男の頃よりも倍以上の時間を掛けて洗わないとならなかった。
二つ目に、トイレ。
いちいち、あそこの部分についた水分を拭き取らねばならない。
三つ目に体力。
これは何というか予想外。
体育の時、「何で男子だけ1500mも走らないといけないんだよ」と思っていたが、これは仕方ないと思う。
自室に戻り、こんな時まで宿題はやりたくないから放っておくとして、気晴らしに本でも読むとしよう。
ベットに入ると、疲れがどっと出る。
目が開けてられなくなり、いつの間にか眠っていた。
あー。寝たら全部夢でした~だったらいいのにな。
と寝る前に密かに願った。
///
ジリリリリリ……
目覚まし時計が鳴っているのは気づいているが、起きるのが億劫だ。
特に朝の五分は起きえばそうでもないのだが、起きるまでは地獄をみる。
眠たい目を無理矢理開け、寸分違わず強制的に人の安眠を邪魔する機械を止めた。
寝ぼけた頭で、いつもの様に制服に着替えようとして小さい胸を凝視してしまい、完全に目が覚めた。
……残念ながら、夢落ちという終わり方ではないようだ。
昨日とある一点を除き、何も変わらない一日の始まりである。
ご飯を食べながらメールが来ていないか携帯を見るが、一通も届いていない。
俺は『一応確認です。今日の朝昨日と同じ場所に集合して下さい』と一斉送信をした。
学校に着くと、俺はひとまず、荷物を置きに教室に向かう。
今日は参考書を使う教科が多くて、肩が張りそうだ。
体力ももちろんだが、筋力も落ちているのかもしれない。
荷物をおいて教室を出る時に、思わぬ出来事が起こった。
何がネタ振りだったのか、どこでフラグを立てたのか見当が付かない。
俺が教室に入ってくるのを待っていたかのように男が立っていたのである。
「今から俺と付き合わない?」
目の前の男子はいきなり俺の前でにやけながら言ってきた。
確か、こいつは俺のクラスメイトだったな。
女子からモテモテの気に食わん奴だ。
「名前は、確か三上 昇だったか」
「おお感激! 俺の名前覚えてくれてたんだ!」
がしッ
すごい緊張だったのか、汗っかきなのかは分からないが凄い濡れている手で、俺の右手を取られた。
「で? 答えは!?」
「断る」
冗談じゃない。男を知る前に女を知って何になる。
あいにく俺はホモじゃないのでね。
「なに照れちゃって! ちょっとだけいいじゃん」
こいつが照れていると勘違いしている理由は分かる。
俺は目立つのが極度に苦手なのだ。
あー、頭に血が上る。多分今、耳まで赤いだろう。
「他を当たれ」
ここは、さっさと逃げるが勝ちだろう。
ここで強めに言った方がいいだろう。
「右手を離してはくれないか。用事があるんだ」
さっきからこいつがずっと俺の右手をつかんでいる。
しかもかなり強い。力が入っている。
ぐいっ!
突然、奴が顔を寄せて来た。
俺は奴に腕を引っ張られ、蹌踉ける。
「いいよ~。気の強い女の子~」
うわ! 気色悪い!
顔を触りやがった! なんだこいつ! ホモか!
いや、違うか。今、俺は女だもんな。あれか、身体目当てか。
「じゃあ、話そうよ」
そういって三上は引っ張る。「あそこで」と指を指した。
あそこって、トイレじゃねーか!
童貞がこんな風に無くなるのはごめん被りたい!
俺は身をよじるが、男が本気で力を込めれば、女の力でどうこう出来る問題ではなかった。
「息が荒くなってるよ。そんなにうれしいかい」
こいつ! 狂ってる。
抵抗も虚しく終わり、俺はトイレに連れ込まれた。
そして押し倒された。
「い、や!!」
俺の抵抗は奴の性欲を逆に煽っていた。
鼻息を荒くし、身体を満遍なく見回している。
怖い。
恐怖が俺の精神と理性を蝕み、それは身体を拘束した。
「すぐに、良くなるさ。その時に君の心を訊くよ」
耳元ではあはあ、と息のを荒げながら、制服の上から触り始めた。
まるでまさぐるように、舐めるようにねったりと。
気持ち悪い。
思わず声を上げるが、口をふさがれた。
男の手で小さな口を塞ぐのは簡単だ。
それから制服のボタンに手をかけ始めた。
「――――――――――!!」
「へへへ……」
へへへ、じゃねえよ!
やばい、速く逃げないと。
これ以上はR18に指定される行為に発展しかねない。
ぐっと力を入れるが、難なく目の前の獣はそれを遮る。
第一ボタンが外れる。
くっそ! こんな時どうすればいい!
第二ボタンも外された。そして、ネクタイをほどき始める。
しかし、俺が抵抗しているせいかなかなかほどくことが出来なさそうだ。
よし、今だ!
ずどん。
「ぎゃーーー!」
卑劣なまでのきもい野郎は痛烈な悲鳴を上げた。
弱い女性が使える、最後の手段。『金的蹴り』。
あすこを狙われたら最後。
しばらくは立てまい。
俺はその場から逃げ出した。
ちょっと、更新遅れました。
次回はまた更新遅れます。
追記:タイトル名を付け忘れてたので修正。