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現なる悪夢、夢なる悪夢

「援軍は!?」

 民間軍隊、『白騎士』(ヴァイスリッター)の基地が襲撃を受けたのは『イシス』基地の出来事から一週間経った日の事だった。

 「ダメです!艦長、我が艦は完全に孤立しました!」

 白騎士の艦『スパイラル・シー』のオペレーターは叫んでいた。

 確かに急襲された為、最初は慌てたが、敵の数はたかが艦が二十隻とギアが百程、それに対してこちらの数は艦だけで三百――ギアも合わせるなら

 その数は千を軽く超える。

 楽な相手だと思った、だが――その自信は射程範囲外からの砲撃によって旗艦を撃沈され混乱へと変わった。

 一時間も経たぬ内に艦とギアの数は百足らずとなり、部隊は完全に分断されていた。

 しかし、混乱だけがコレだけの事態を招いたのでは無い――違いすぎるのだ、艦やギアの性能が――

 明らかに命中しているのにほとんど船体に被害を受けない艦、ギアの異常な程の火力と機動性――

 それは千をも超える戦力差を埋めるほどの力だった。

 「怯むな!撃たれれば終わりと思え!」

 「は、はい!」

 言って、砲撃手が手元のパネルを操作し、主砲を発射させる。

 ――どうなっている?一体なんなのだ奴らは!?――

 その時、ある事件の話が艦長の頭に過ぎる。

 五十年前に起こったという謎の高性能艦との戦闘の話――

 攻撃を加えた後、突然、謎のメッセージを残し消えた艦――

 誰もが笑い話として、冗談として語った一つのヨタ話。

 自分もそう思っていた――つい先程まで。

 「まさかっ! そんな馬鹿なっ!?」

 しかし、その真実を『スパイラル・シー』の艦長が知る事はなく――『白騎士』第七師団の連絡は程なく途絶えた。




 轟音をたてて、格納庫の壁の一部に穴が空き、焼け爛れる、それに驚いた整備士達が慌てふためきその場所から急いで離れる。

「エルク!何をやっている!」

 エルセントの罵声がスピーカーを通して実験室に響き渡る。

「す、すんません!」

 どうやら、何時もの調子で操作していて『イグニス』のライフルを暴発させたらしい。

「試験運用なんだぞ!もっと慎重に行え!」

「……は、はぃぃ……」



「いやぁ、食堂での休憩は和むね」

 言って運ばれてきた定食のコンソメスープをのん気にすするエルクにシーアはムッとした表情で、

「あのねぇ!あんたのせいで訓練中止になったのよ!少しは反省したらどうなの!?」

「いやぁ、俺の……辞書に……ング、ング……旨いっ!」

『食べながら喋るなっ!』

 カイトとシーアのツッコミが見事にハモった。

 ――モグ、モグ……

 しかし、エルクは食べ続け――

 シーアの中で何かが音をたてて切れた。

「あんたねぇぇぇぇぇっ!!」

「うわわわっ!俺が悪かった、悪かったからぁ!!」

 近場にあった椅子を頭上で思い切り振りかぶられ、ほとんど半泣きで謝るエルク。

「ったく……」

 ほとんど男口調で言い、椅子を元に戻し、不機嫌ながらも座るシーア。

 ――こいつら、毎日の様にこんな事やってよく飽きんな……

 はたで見てて思わず心の中でつぶやくカイト。

「それよりもだ」

 一息つきカイトは運ばれてきた食事をどけ、机で手を組み、真剣になり、

「『イシス』基地で起こった事、どう思う?」

 エルクはさして考えたふうでもなく、頭を掻きながら。

「どうって、言われてもなぁ……

当の『イシス』基地は吹っ飛んじまったし」

「俺の考えを言ってみるけど、いいか?」

「あぁ、頭使うのは苦手だし、頼むわ」

 シーアは『イシス』基地での事がよほどショックだったのか俯き、何も言わない。

「仮説として三つ立ててみる、一つ、テロリストの仕業という線、あれだけの死体も民間軍隊の見せしめにやった事なら説明もつく、しかし、それなら犯行声明ぐらい出すはずだ、ギアもあんな自分達に利益の無い戦闘に使ったのは変だ、資金源にするなり自分たちの戦力にできたはずだしな。

 二つ、内乱が起きて基地内で戦闘が起ったという線、内部の関係者なら連絡やカメラの映像が消去されていたのも説明がつく、しかし生存者は居なかったし、基地から脱出した形跡はなかった。それなら共倒れって事になるんだが、最後の一人まで共倒れってのは可能性的には低い。

 三つ、それ以外の可能性だ」

「おいおい、最後はずいぶんアバウトだな、しかもどれも完全なものじゃないしよ」

 苦笑混じりにエルクが言う

「さすがに基地丸ごとが殺人の舞台になった例なんて無いからな。

完全な仮説を求める方が無理があるってもんだろ」

「ま、確かにそうだな――でもどれも当てはまらないのが『フェィ』の無駄遣いだな」

「データを入手する為だった……」

「それは効率悪すぎだろ、俺達三人のデータ取る為に使ったとは思えないしよ……襲った奴が狂ってた奴とか……」

「そんな奴らで基地をあれだけ制圧できるのか?」

 ……………………………………………

 二人共腕を組んで考え込んでしまう。

「って、俺達だけで考えて答えのでる話じゃないよな……一応調査団派遣してるみたいだし、そのうち犯人も分かるだろ」

「そういや、エルク、始末書提出したのか?」

 思い出したように言ったカイトの言葉でエルクの表情が青ざめる。

「ああああっ、忘れてたぁぁぁっ! すまん、また後でな!」

 を言い、食堂の自動ドアに足を躓かせながらそそくさと出て行った。

 シーアはカイトに向き直り、

「始末書くらいでなんであんなに慌ててたの?」

「あぁ、あいつ特別に始末書忘れる毎に残業一時間増えるからな」

「そう……なんだ……日頃の行いが悪いって怖いわねー」

  ――俺は、お前のキレた時の方が怖いけどな……

 と、頬に汗を一筋流し、まだほんのり温かい定食をつつきながら、口には出さずツッコミを入れるカイトだった。



 何故誰モ信ジナイノ?

『俺は一人で十分だ』

 傷ツクノガ怖イカラ?

『違う!』

 誰カガ傷ツクノヲ見ルノガ嫌ダカラ?

『違う!!』

 君ハアイツト同ジダヨ

『違う!!! お前は、誰なんだ!?』

 僕ハ君ダヨ、君ハ僕デ僕ハ君、ナノニ何デ僕ヲ否定スルノ?

『俺は、お前を認めない! お前は俺じゃない!』

 僕ハ――

『やめろ!』

 紛レモ無ク――

『言うんじゃない!』

 三年前ノ君ダヨ――



「うわ! ……って、クレスか……ビックリさせるな、明かりくらいつけろよ」

 そう、言い手探りで電子パネルのスイッチを手で操作し明かりをつけるセブ、

「あぁ……」

 クレスはただ一人、リフレッシュルームのソファーに座っていた。

「お前こそ、こんな時間にどうしたんだ?」

 テーブルを挟んだ向かい側の皮製のソファーに乱暴に座るとセブは胸のポケットからタバコを取り出し、備え付けのライターで火をつける。

「あぁ、まいどの事『タイプ01』のシステム調整さ、」

 そう言うセブの表情は疲れており、軍服に精彩は無い。

 吹いた白い煙が空中に巻き上がり換気口に吸い込まれ消える。

 「なぁ、止めたくならないのか……?」

 しばらく経って口を開いたのはクレスだった。

 フッ、と小さく苦笑し、

「お前も知ってるだろ? 俺は結婚したばかりだ、来月には子供も生まれる、守らなきゃならないものがあるんだ。

 止める訳にはいかんさ」

「守るもの、か……セブ、お前は無くすなよ、絶対に……」

「お前、何を大げさ――」

 クレスの目が冗談ではない事に気づき、

「何言ってんだ、俺はお前の親友だろ?」

 セブはガラにもなく言った台詞に少し恥ずかしさを隠すように煙草を思いっきり吹かした。

「俺は……お前を親友と思っていない……俺は一人でいい――これからも」

「クレス…………」

 クレスが酷く悲しげな顔をしたのにセブは気づいていた、その理由も――

 小さな呻きを漏らし、クレスは思い出していた、全てを捨てたはずの過去――しかし、未だに夢を見る、終わったはずの事を――


 ――自分が仲間を手に掛けた過去を――


 その時クレスはただ歯を噛みしめる事しか出来なかった。


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