青虎と緑龍
「隊長、これすっか、実験機って?」
「そうだ」
『ソリオン』Cブロック第三格納庫――集合したエルクとカイトは実験機をまじまじと見上げていた。
実験機は二機あり、一つは青を主体とした色の機体で両腕にツメがついており、腰には中距離戦用のレーザーライフルが装備されている。
もう一機は緑を主体とした色で後部に大きな二つの筒を背負っている、おそらくフロントに移動させ遠距離砲として使うのだろう。
腕部には固定してあるビームカッターがついており、腰には同じく中距離用の武器が装備されているがこちらは実弾式の様だ。
「見たところ――青い虎の方が近距離戦闘用で緑の龍が遠距離戦闘用って、とこですか」
「なんだ、その『青い虎』と『緑の龍』ってのは……」
半ば呆れた顔で言うカイト。
「いや、頭部みて見ろよ虎と龍だろありゃぁ」
エルクの言葉で二機の頭部を見上げる――確かに頭部はそれぞれ虎と龍の様な形をしている。
「まぁ、確かにそう見えん事も無いが……」
「虎だろうが龍だろうがどうでもいい、問題はどちらがどちらの機体に乗るかだが――」
エルセントはそう言い資料をめくる。
「カイト、お前が『シュテッケン』に搭乗しろ、エルクの言った青い虎の方だ」
「はい」
「じゃぁ、俺はコッチの緑の龍ちゃんっすね――って、これの名前はなんです?」
「『イグニス』だ」
「りょうかーい」
返事をするとエルクとカイトはそれぞれ機体のコックピットにもぐり込む。
「エルセント師団長」
「なんだ?」
機体の説明に入ろうとしたその時、エルセントは一人の兵士に呼び止められた
「………………………」
「………………………」
兵士は耳打ちをしているのでカイト達には聞こえない。
エルセントはマイクのスイッチを入れ、
「お前たち、ここで待っていろ、すぐ戻る」
そう言うと格納庫の分厚い扉を開き兵士と共に出て行った。
「エルク、とりあえず、システムのチェックするぞ」
「はいはい」
「クレス、どうした?浮かない顔だな?」
そう言ってカウンターの隣の席に腰を掛けたのはクレスの同僚であるセブ、
クレスはペルゼンに呼び出された後、一人で『クレスタ』基地内にある酒場に飲みに来ていた。
「そうか?」
「あぁ、そんな感じするぜ?」
「だったら気のせいさ」
そう言い、クレスはグラスの水割りを一口。
「そうか、ならいいんだがな――それにしても、大変だな、お前も『タイプ01』のパイロットに選ばれるなんてよ」
そう言いセブはボトルに入っているウィスキーをグラスに注ぐ。
「そう言うお前も『タイプ01』のプログラムデバッグ員の一人だろ」
クレスの言葉にセブは微笑を浮かべ、
「まぁな……大戦終結の原因悪魔の兵器――ロストウィング――ほんの一部とはいえアレと同じOSを使ってる機体なんてよ……あの悲劇の再現しちまうかもしれないってのに…命令とあらば動くしかねぇ……はっ……矛盾してるな俺は」
そうつぶやきセブはグラスにたっぷりと注がれたウィスキーを一滴残らず一気に飲み干し、再びウィスキーを注ぎ、言葉を続ける。
「戦艦撃沈数約四千、ギア・戦闘機撃墜数約一万二千――たった一機によるギアの被害――『タイプ01』が完成して量産されればどれだけの脅威になりうるか……」
――ロストウィング――
『ヘルマン投戦』においてアース連合によって開発された機体――『ホワイトウィング』全く新しいタイプのOSを組み込んだ実験機、これが量産に移れば
戦局は一気にアース連合に優勢になると上層部はもくろんでいた、しかし――異変は最初の機動実験中に起きた、
突然の機体の暴走――実験に携わった者達に誰も生存者がいなかった為、それ以外の事は不明――
その後の『ロストウィング』は暴走を続けアース連合、スティア国を無差別に、基地を、あるいは艦隊を襲い、人々を恐怖の淵へと追いやった――その、全てを滅ぼす――『消滅』させる様な事から『ロストウィング』と呼ばれた。
戦艦の爆煙などを受け、その機体の色は白から漆黒の黒へと変化していった、まるで機械の血を浴びたかの様に――
両国とも事態の深刻さを受け、休戦――アース連合とスティア国は『ロストウィング』の討伐作戦『デス・トラップ』を発動、
これにより多大な損害を受けつつも『ロストウィング』の破壊に成功、だが両軍の受けた被害は甚大――その為休戦はその後三年続き
両国の間で平和協定がなされた、その後『ロストウィング』の部位を回収し、調べた結果、原因は開発者不明のOSにある可能性が高い事が判明。
OSに不安要素があることを知りながら『ホワイトウィング』の開発を指示したアース連合の上層部は処分され、この事件は一様の終わりを迎えた――
…………………………………
「……なぁ、このまま『タイプ01』のパイロットを続けるのか?」
長い沈黙の後口を開いたのはセブ、
「あぁ、力が手に入るなら俺は悪魔にだって魂を売るさ」
悪魔――か、それをまた兵器として使う俺たちはさながら『魔王』かもしれねぇな――
暗い表情を隠しセブはクレスに向き直り、
「やっぱりお前あの事件――」
「言うなっ!!」
セブが言いかけたその時クレスは珍しく怒鳴りグラスをカウンターに叩きつけた。
目の前のバーテンはあいも変わらずグラスを拭いている。
「すまん……あの事件はお前にとっては思い出したくない事だったな」
そう言うセブの手に握られているグラスの酒は先ほどからほとんど減っていない。
カラン、コロン――
酒場の木製の扉が開きベルを鳴らし来店を伝える。
入って来たのはクレスの知った顔だった。
「レオンか?なんだお前はまだ勤務中だろ?」
セブが言い、声に気づいたレオンはカウンターへと近づき――
「報告だ」
「報告?」
オウム返しに聞くセブにレオンは頷き、
「つい今しがた民間軍隊『スペリオル』の基地『イシス』が何者かによって占拠されたとの情報が入った」
同じ頃――『ソリオン』基地のエルセントの耳にも同じ情報が入っていた――