スペリオル
――民間軍隊『スペリオル』エレス星系基地――『ソリオン』全長五キロの基地で、
規模は『スペリオル』の基地では中間の位置にあたり、カイト達が所属する第二師団もここに駐留していた。
「報告は以上だな?」
そう言った男は歳の頃なら三十台前半、黒髪で体はがっちりしており、
目つきが鋭い為か年齢にしては渋い印象を受ける。『スペリオル』の第二師団の師団長でありカイトの上官でもある。
「はい、以上です、エルセント隊長」
そう返事をしたのはカイト、隊長と呼んでいるのはカイト達がまだ新兵だった頃エルセントが部隊長だった頃の名残で
本人も呼び方はそんなに気にしてはいない為、未だに隊長と呼ばれている。
シュッ――
鋼鉄製の自動扉が開き、入ってきたのはエルク。
「遅いぞ、エルク」
「そんな事言わないで下さいよ隊長、コッチは宇宙空間で三日も漂って、ついさっき救助されて帰ってきたんですよ、もうチョット気遣いってもんが――」
「ならば、命令違反で営倉行きにしてほしいのか?」
冷静に言い放ったエルセントの言葉にエルクの顔がまともに引きつる。
「え…いや、それは……」
……………………
「すいませんでした……」
沈黙ののち折れたのはエルクだった。
独断で修練艦の撤退を命じ、無許可による戦闘、なおかつ機体の損傷――これだけの事をしてエルクとカイトが営倉行きにならなかったのはエルセントが修練艦が無事な事を理由に処分相殺を申し出たからである。
「エルク、報告書を明後日までに提出しろ、いいな」
「はぃぃ……カイト一緒に書こうぜ…」
「俺はもう提出した」
「…え?……戻って来てから書く暇なんてほとんど無かっただろ!?」
カイトの言葉に驚きの声をあげるエルク。
「救助される前にほとんどの事はまとめておいたからな」
「なにぃ!?先にお前だけ書くなんて!お前の中に『仲間を思いやる』って言葉は無いのか!」
「そんなもん知るか」
「日頃の行いが悪いからだ」
しくしくしく――
二人同時に言われ、エルクは涙するのだった。
「それよりもお前たちに新しい任務だ。」
エルセントは資料を手に取り話題を転換する。
「えぇ……休暇は――」
言おうとしたエルクだが、エルセントの視線に気づき口を噤んだ。
「任務の内容は、機体の試験運用――」
「……げっ!……」
内容を聞き小さく呻くエルク。
「何か言いたげだな?」
エルセントの問いにエルクはため息をつき。
「そりゃ、そうでしょ、機体の試験運用って事は実験機でしょ?嫌ですよそりゃ、まぁ、仕事だからやりますけど……」
そう、実際の所、実験機は実験機でしかなく、安全は保障されていない、過去にもパイロットが死んだ――という報告はさすがに無いが、
突然エンジンがトラブルをを起して操縦不能になったり、何かの要因でエネルギーが逆流して武器や機体の一部が爆発したりしてそのショックでパイロットが再起不能になったりと、あまりいい報告は無い。
「カイトもいいな?」
「了解です」
「では、詳細は二時間後、Cブロック第三格納庫にて行う――では解散」
そのエルセントの言葉でカイト達は師団長室をを後にした。
「クレス大尉、ベルゼン大佐がお呼びです」
そうクレスが呼ばれたのは、任務を終えて『クレスタ』基地に戻って二日目のことだった。
……やれやれ、報告か?だとしたらペルゼン大佐も気の早い事だ…
「分かった、すぐ向かうと伝えてくれ」
心の中でそう思いながらも、クレスはそう言いい、兵士は敬礼し去って行った。
「どうだ、『ウルフェン』の調子は?」
クレスが部屋に入室した後、そう言った男は年齢なら六十過ぎ、白髪で、きゃしゃな体つきではあるが、その動作に年老いているという感じはあまり無い。
「ベルゼン大佐、『ウルフェン』ではなく『タイプ01』の方でしょう?」
「どちらでも構わん、それより『ウルフェン』のシールドに付いていた弾痕――あれはなんだ?」
ペルゼンの言葉にクレスは表情を変える事無く、
「チョット腕と勘のいいパイロットがいましてね」
「それにやられた――と?」
そのペルゼン問いにクレスは首を縦に振った。
「やはり試作段階ではその程度か――やはりまだ力不足か……」
――馬鹿な……今の段階でもあのシステムを使った機体の性能は現在あるどの機体よりもずば抜けている、それで力不足?どういう事だ?――
クレスは思いを巡らせる、興味ははあるが、あまりいろんな事に突っ込むのは
自分の立場を悪くするだけ、クレスはそう判断した。
「聞きたい事は以上だ、下がれ」
「はっ」
クレスは疑問を抱きつつも敬礼をし部屋を跡にした。