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肉塊の雨が降ってきた。

作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
掲載日:2026/08/02

【まえがき】

空から降る雨に、あなたはどんな情景を思い浮かべるでしょうか。

静かな哀しみや、すべてを洗い流す清々しさでしょうか。

ですが、この街に降る雨は違います。

そこに混ざるのは、水滴ではなく――誰かの「笑顔」です。

雨に触れた者は悲しみを奪われ、ただ笑うだけの存在へと変わり、翌朝にはその唇を失って雲へと溶けていく。そんな狂気と隣り合わせの世界で生きる主人公の物語です。

もし今、あなたの頭上に一滴の冷たい雫が落ちてきたとしたら――

どうかそれが、ただの水滴であることを祈りながらお読みください。

「にこ、にこん」

空から降ってくるのは、水滴ではなく濡れた人間の『笑顔』だった。

ぽつり、ぽつりと屋根を叩く乾いた音。窓の外を覗くと、半透明の口元たちがガラスにへばりつき、歪んだ満面の笑みを浮かべてこちらを見つめている。

「にこ、にこん」

雨滴が跳ねるたびに、小さな甲高い笑い声が静かな部屋に響く。この街ではいつものことだ。雨に濡れた人間は二度と悲しむことができなくなり、翌朝には自分の唇が削ぎ落とされて次の雨雲へと昇っていく。

外では、傘を差し損ねた隣人が、虚ろな目で声もなく笑い続けていた。私は静かにカーテンを閉め、部屋のすみで耳をふさぐ。

その時、天井からポツリと、冷たい「にこん」が頭頂部に落ちてきた。

【あとがき】

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

物語から目を上げた今、あなたの唇はまだそこにありますか?

もし理由もなく笑みがこぼれ、空から冷たい雫が落ちてきたなら――どうぞそのまま、静かに傘をお開きください。

次に降る雨が、ただの水滴であることを願って。

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