生のどたばた
〈ラーメンに寒卵一つ落としましよ 涙次〉
【ⅰ】
* 獸醫師にして惡辣なキメラメイカー、カンクローこと環九朗は、カンテラ一味によつて二度と蘇生出來ぬやう、完膚なき迄に叩きのめされた。テオがテオ・ブレイドでその遺骸を細切れにして、その肉片は何故か石田玉道がホルマリン漬けにして持つてゐたのだが、**「念には念を入れて」、カンテラがその彼の身體の破片を護摩壇で焼却処分、さう云ふ經緯で流石に蘇生は叶はぬ事だと一味は安心してゐたのだが...
この稀代のキメラメイカー(環は「ねかうもり」「あわだちねこ」の造り主)をルシフェルが放つて置く譯はない。彼の特別な計らひで(この魔界ではルシフェルが首を縦に振つて通らぬ事はない)環の復活は決まつた。
* 當該シリーズ第27・28話參照。
** 當該シリーズ第62話參照。
【ⅱ】
ルシフェル、鰐革Jr.に環を「乘り物」として使ふやう命ずる。Jr.とてルシフェルの管轄する【魔】の内の一匹である事には變はりがない。* カンテラの白虎との合力と同じやうに、こゝに環のキメラメイキングの才とJr.の狡賢さとが合わさつてパワーアップ、人間界(或ひは猫界)を脅かす事となつた。
石田玉道は** 異星人だが、惡のエイリアンではない。寧ろ地球人を善導すべくこの惑星にやつて來た、要するに善の異星人である。その石田にとつて環だけは同じ獸醫師として許せぬ存在であり、猫と人間は仲の良い友逹であるべきだとする石田は、環の「ねかうもり」「あわだちねこ」作製を絶對に認めてはいけないと主張、環をこの世から抹殺するやう、一味に依頼。報酬は彼の星ではほんの石ころ同然のものであるダイアモンド。カンテラは*** 一度ダイア相場でしくじつたので、同じ轍を決して踏まぬやう、自らを戒めた。
* 當該シリーズ第73話參照。
** 當該シリーズ第141話參照。
*** 當該シリーズ第151話參照。
【ⅲ】
環の「マスター」となつたJr.は、環に「ねかうもり」を使つて例の(前回參照)「不和の種」を、野良猫・家の外に出てゐる家猫問はず、にばら撒く事を指示。『或る回心』執筆の合ひ間、散歩してゐたテオも、そいつにやられ、文字通り心を奪はれた。
テオ、「不和の種」のせゐで、でゞこと文・學・隆、そしてフウを相手に喧嘩を仕掛けた。逃げ惑ふ猫達。不穏な空氣がカンテラ事務所に流れた。狂つたテオは更に、安保さん製作のギア一式を使つて、この中野を制圧せんと試みた。「くひゝ、人間どもの驚き、慌てふためく姿が目に浮かぶやうだ」-テオは完全にJr.の術中に嵌つてしまつてゐたのだ。「これはいかん!」とカンテラ、* 薩田の「聖水」をテオに振り掛けた。惡夢から醒めたテオ、「あれ、僕一體だうしたんだらう?」
* 當該シリーズ第185話參照。
※※※※
〈のろのろと歩く僕には小春吹く凩めいた風が後押し 平手みき〉
【ⅳ】
カンテラ・じろさん、遂にJr.と* 二度めの直接對決。環と云ふ實體に乘り移つたJr.を捕らへ、環の躰ごと斬つた。命からがら環の躰から逃れたJr.。ルシフェルは水晶玉でそれを見て、Jr.を処刑しやうとするが... Jr.、何とルシフェルに對抗し、「もう一つの」魔界を作る事を決意。これはJr.にとつて脊水の陣。何故ならこれはルシフェルとの完全な訣別を意味してゐたからだ。世を知る人なら、「そんな大器ではない」とJr.を指し云つたゞらうが。
折しもルシフェルの再生後初の黑ミサが開催されるところだつたが、Jr.、その「祭壇」役の女の躰を乘つ取つた。ルシフェルは魔界盟主失格の烙印を魔界の庶民逹に押され(人間界の如く、魔界に於いても眞の實力者であるのは、庶民逹に他ならない)、冥府に逃げた。
* 當該シリーズ第184話參照。
【ⅴ】
* 大天使時代の彼に戻つた振りをするのではなく(一度失敗してゐる)、普通の死人に化けたルシフェル。さて、彼の叛撃や如何に。彼にとつては冥府は常に雌伏の場なのである。ルシフェルには倖ひな事に、冥王ハーデースはこの事に氣付いてゐない...
* 當該シリーズ第161話參照。
【ⅵ】
これで今回は終はり。ちよつと短いが、場の緊迫感がお届け出來たかな、と思ふ。次回に續く。それぢや。永田。
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〈幻の笹鳴き聴こゆあと幾日 涙次〉
【ⅶ】
追記。谷澤景六『或る回心』より拔粋。
「...彼、櫻林悌生は焦つてゐた。神は余りに捉へどころがない。それに比すれば、冥王はまだ扱ひ易い。即ち、彼の躰の癌は着々と進行してゐたのだ。この儘本当に滅んで行つていゝものか。神はそれをも許すのか? 多くの衆生の生を許してゐるのと同様に。叛逆か、回心か。それはテーマとしては、今の彼には荷が勝ち過ぎてゐた。引き換へになるのは、俺の才能なのだ。生は惜しくはなかつたが、才能は惜しむべきものだ。神よ、見捨て賜ふな。彼はその、己れのと云ふには、オリジナルに過ぎる言葉に縋つた......」




