7.人物① 加藤 — 一等陸佐/“最初に真実を見抜いた男”
北海領域において、加藤は“軍人”である前に、体験者がもっとも深く接触した“ひとりの生活者”だった。
しかし同時に、彼ほどこの世界の本質を自然に理解している人物もいない。
加藤は体験者を見た瞬間、わずか一言で核心を突いた。
「お前、こっちの人間じゃねえな?」
この一言は偶然ではなく、北海領域の住民が持つ“異物識別”の能力が、彼の中で特に強く働いた結果だと考えられる。
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■ 加藤の外見と立ち姿
加藤は大柄で筋肉質。
身につけているのは軍服ではあるが、形式的な正装ではなく、下衣だけ軍装で、上はランニングシャツという、現場の軍人らしい格好だった。
足元には革靴、脛には金具付きのゲートル。歩くたびに金具が微かに鳴り、周囲の空気が揺れる。
彼の姿勢は常に自然体だが、怒ったときだけは空気が変わる。
体験者はその瞬間を「殺気が走る」と表現しており、これは軍務経験と土地文化が身体レベルに染み込んだ結果と言えそうだ。
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■ “怖さ”と“優しさ”が同居する人物
加藤は第一印象こそ威圧的だが、本質は極めて優しい。
体験者を守る行動は一貫しており、石狩県で迷っていたときも、根室県で危険に晒されかけたときも、迷いなく「俺の連れだ」と声をかけて庇った。
彼が見せる優しさは“感情の揺れ”ではなく、“守るべきものを守る”という軍人としての姿勢が強い。
ただし子どもを見る目だけは完全に“デレ”が入っており、その落差が加藤の人間性を象徴している。
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■ 加藤と体験者の距離感
加藤は体験者を“異物”として扱いながらも、排除はしなかった。
むしろ興味を持ち、保護を優先する立場を選んだ。
体験者の住まいを選ぶときも、彼はこう言っている。
「そっちの部屋のほうが安全なんだ」
この“安全”の意味は、外的危険だけでなく、“見られないこと”の重要性を含んでいた。
北海領域において、外部者がどう扱われるべきかを、加藤は誰よりも理解していたと考えられる。
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■ 加藤の生活圏と人付き合い
加藤は石狩県の夜文化に馴染んでおり、夜の飲み屋の常連として周囲から信頼されている。
彼が笑いながら体験者へ言った言葉に、彼の性質がよく現れている。
「お前さん、また意味もわからんくせに飲み屋回るんだろw」
軍人でありながら、街の日常にも深く関わっている。
人々の動き、匂い、空気をよく知り、土地を守る軍人というより、
**“土地そのものと共にある大人”**という印象が強い。
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■ 軍人としての加藤
根室県では、加藤の“本来の顔”がはっきり現れる。
青年兵士たちは彼を見た途端、姿勢を直し、表情を引き締める。
この反応は、**単なる上官への敬意ではなく、“恐れと信頼が混ざった従い方”**だ。
加藤は指揮官気質でありながら、部下を萎縮させず、必要な場面では迷いなく振る舞うタイプである。
体験者を守ったときの判断も、命令ではなく“判断として正しい”行動だった。
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■ 加藤という存在の象徴性
北海領域における加藤は、
•軍人
•保護者
•観察者
•生活者
•境界線の通訳
これらの役割を同時に持っている。
彼は北海領域全体の“グラデーション”を体現した人物であり、
石狩の夜、上川の優しさ、根室の規律──その全てを理解した上で、体験者をこの世界に“置いておける”唯一の人物だった。
加藤を理解することは、北海領域そのものを理解する近道でもある。




