そして私は来なくなった - side 山田梨花
(読み方:やまだ りか)
私は、四月からずっと、夜子に憧れていた。
はじめは、実は本が好きだったり、女王なのに女王らしくない一面に惹かれていた。
だけどいまは違う。いまの彼女は世の中のイメージまんまの女王だ。
なにが彼女をそうさせたのかは、分からないけど、心当たりはある。
取り巻きの一部、城間さん、加山さん、森さんが裏で夜子の悪口を言っていることを、私は知っている。
私は前の方が好きだった、なんて、たくさんの取り巻きも一緒にいるときに言えない。
彼女が抱えているなにかを、私は知る由もないのだから。
矢羽さんへのいじめは、次第にエスカレートしていった。
はじめはノートを写したいと何度も頼まれてただけだった、彼女らの関係は、次第に王女と奴隷のようになった。
今日は、国語の教科書が隠された。
みんな隠していた様子を知っている。どこにあるか、知っている。
でも、だれも口を開かない。愛想笑いを浮かべて、通り過ぎていく。
そして、かくいう私も、そのひとりだった。
翌日。
放課後、矢羽さんの机の上には本が置いてあった。
忘れてしまったみたいだ。届けてあげようか、そう考えたときだった。
「お、梨花じゃん」
女王が来た。
私の視線の先に気づいて、にやりと笑みを浮かべた。
しまった、と思った。
彼女はカバンからハサミを取り出し、ページをずたずたに切った。
私は、黙って見ていることしかできなかった。
「明日、どんな反応するだろうなあ」
そんなことを言いながら、破れたページをきれいにしまいこみ、本を閉じる。
一見、無事のように見えるその本のページが切られているだなんて、誰も考えやしない。
私と理子だけが、知っている、秘密。
明日、矢羽さんに知られるであろう、事実。
なんとも言えない気持ちで、帰路についた。
翌日。
朝早く起きて、着替えと食事を済ませる。
「行ってきます。」
家族の寝ている家を静かに出る。
今朝割ったブタの貯金箱の欠片がベストに刺さっていることに気がついて、そっとポケットに入れる。
朝の心地よい空気を吸いながら、これから私がする、愚かな行動に思いを馳せる。
彼女の取り巻きでいるのは、きっと、今日でおしまい。
目的の本屋に着き、丁度空いたことに気がついて、調べておいてよかったと改めて思った。
ミステリーのコーナーから昨日机にあった本と同じ物を見つけて、手に取る。
「お願いします」
「お会計724円でーす。」
頭の中でチョリーンという効果音が鳴り響く。
ふと、視線に入った本に目を引きつけられたが、残金が足りないので、また今度にしよう。
店を出て走って学校に向かう。
矢羽さんが学校に着く前に、みんなが来る前に、ひとりきりの教室で入れ替える必要があるのだ。
本を買ったときのレシートは風にヒラヒラと舞い、知らない人の家の庭に落ちていった。
これで証拠隠滅だ。住人さん、本当にごめんなさい。あの子を助けるためだから。
息の上がった状態で校門を駆け抜け、教室のドアを開ける。
そこには既に、破れた本を眺めた矢羽さんがいた。
――間に合わなかった。
教室には、私と矢羽さんの二人。
なら、私のするべきことはなんだ?
「矢羽さん」
はっとしたように、彼女が振り返る。
彼女を真っ直ぐに見つめて、
「ごめんなさい。」
頭を下げて、そう言った。
「え、いや、そんな」
「私が、夜子のことを止めていれば、こんなことにはならなかった。だから――」
カバンから、先程買ったばかりの本を取り出す。
「よかったら、もらってほしい。」
彼女はやっと私に目を合わせると、恐る恐るという具合で、尋ねてきた。
「お金は、どうしたの?」
「自腹だよ。もちろん、こんなので許されるとは思ってないけど。」
そう、あの日、彼女の弁当をわざと落としたのは、実行役の私だった。
帰ったあとも、自分が許せなかったのだ。もしかしたら、自己満足かもしれない。
でも、きっとこの気持ちが届いたら良いなって、思うんだ。
「――ありがとう。」
彼女は笑っていた。そして、泣いていた。
「え、」
「あ、ごめんね、嬉しくてつい」
「そっか。」
なぜか分からないけど、私も自然と笑えた。
偽の心ではなく、本心から。
彼女はとても優しかった。
彼女はとても他人思いだった。
彼女はずっと無理をしていた。
彼女は一度も私たちを恨まなかった。
いつだって、これが自分のクラスにおける役割なんだと、クラスの団結を守る『縁の下の力持ち』なのだと、言った。
「ねえ、矢羽さん――ううん、理子。」
「うん」
「友だちになってくれる?」
「よろしくね、梨花。」
そして、この日が、私の最後の登校日となった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
個人的にお気に入りの話です(*^^*)
それと、夜子と理子を間違えていました。
修正忘れあったら報告お願いします。
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