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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第四章 新たな時代

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第92話 防御陣地攻略戦②

 ミカは弾倉ひとつ分の矢を撃ちきった後、突撃する味方への誤射を避けるために援護射撃を停止した。大型クロスボウの矢の連射を受けた敵の軍勢は十分に怯んだようで、ピエール率いる軍勢の突撃を受け、早くも隊列を崩しかけている。


「……こりゃあ勝ちは決まりですかね」

「そうだねぇ。後は味方ができるだけ楽に勝てるように、僕たちも前進しようか」


 ディミトリの言葉に答えながら、ミカはもう一挺のクロスボウを傍らに浮遊させる。先ほど矢を撃ち尽くしたクロスボウに、装填手を務める領民が新たな弾倉を取りつけるのを確認した後、自分も敵防御陣地の中に入ろうと歩き出す。

 そのとき。


「っ! 避けろ!」


 ディミトリが叫びながら、円盾を放り捨てて左手でミカを抱え上げ、前に飛んだ。

 直後、右手側から高速で飛んできた火炎の塊が、先ほどまでミカの立っていた地点を直撃。火炎はまるで爆発したように一瞬広がり、熱せられた空気が吹き抜ける。


「……っ! ひっ、火魔法!?」


 一瞬遅れて事態を理解したミカは、驚愕に目を見開きながら火炎の飛んできた方を向く。一騎の騎馬と、その後ろに続く三人の兵士が見えた。

 おそらく、周囲の森の中に隠れていた伏兵か。騎馬の後ろ、敵兵の一人が掲げている旗に記されているのは、狐をかたどった意匠。


「あれは確か……バルラガン家の家紋か」


 呟きながら、ミカは顔をしかめる。


 バルラガン家は、ユーティライネン領の北西方向に領地を持つ領主家。そして当代バルラガン卿は、ユーティライネン家の勢力圏内においてはそれなりの有名人だった。強力な火魔法を振るう、農民上がりの領主として。

 今より二十年ほど前、バルラガン家の次期当主となるはずだった令息が病によって死去し、その妹である令嬢は領主に向かない気質だったため、当時のバルラガン卿は後継者をどうすべきか悩んだ。娘婿を迎えて次期当主にするしかないと考えていたところで、領民の少年が火魔法の才に目覚めた。当時のバルラガン卿がその少年に会ってみたところ、幸い頭も悪くない様子。神がバルラガン家に新たな世継ぎを与えてくれたのだと考えた当時のバルラガン卿は、その少年を娘の婚約者に迎え、領主家の子として教育を施した。

 少年は領主にふさわしい人格と教養、強力な火魔法の才を持つ立派な人間に成長。先代が死去した後、新たなバルラガン卿となった。


 以前ローレンツ・メルダースから聞いたそんな話を思い出しながら、ミカは騎乗して駆ける敵――バルラガン卿を睨む。

 ここよりももっと北に領地を持つバルラガン卿が、わざわざノディエ家とカーサライネン家に助力しているのは、おそらくミカを狙い澄まして襲うため。ユーティライネン家の味方の中でも、強力な念魔法使いであるヴァレンタイン家当主を特に厄介な敵と考えた反対派が、そのヴァレンタイン家当主に対抗し得る戦力としてバルラガン卿を差し向けたということか。バルラガン卿が僅かな供を連れて密かにこの地まで移動したのであれば、こちらには彼の参戦を事前に察知する手段はなかった。

 魔法使い対策として、同程度に強い魔法使いぶつけるのはこの世界において基本的な戦法のひとつ。バルラガン卿がこちらの排除に成功すれば、彼はそのままピエールたちの後背を突き、そうなれば敵側が逆転勝利を果たせる。

 反対派もなかなか上手い作戦を考える。ユーティライネン家とその味方を潰して現状維持を果たすために、あちらもかなり必死なようだ。そう思いながら、ミカはクロスボウをバルラガン卿に向ける。


 すると、バルラガン卿はクロスボウの射線から逃げるように、ミカたちから見て右側に進路を変える。ミカはそれを横目に見つつ、周囲に素早く視線を巡らせ、こちらの状況を確認する。

 敵防御陣地へ突撃せずミカの周囲に控えていたのは、直衛であるディミトリと、投石紐による狙撃でミカを守る役割のルイス。そして大盾を装備する領民二人と、クロスボウの装填手を務める領民一人。

 皆、ディミトリが警告を発したおかげで咄嗟に飛び退き、火炎の直撃を受けることはなかったようだった。燃え尽きたのはどうやら、ディミトリが放棄した円盾のみ。

 しかし、負傷者も皆無とはいかなかった。大盾を持っていた領民の一人が飛び散った火炎を食らったようで、彼のズボンに燃え移った火を、クロスボウの装填手が上着で叩いて消していた。ミカが見たときには火はほとんど消えていたが、その領民は重傷を負った様子で、苦しげな表情を浮かべている。

 ミカを助けるために円盾を失ったディミトリが、戦闘不能になった領民に代わって彼の大盾を拾い上げ、構える。大盾を持つもう一人の領民も既に立ち上がってミカの方へ駆け寄り、そしてルイスは投石紐を振り回しながらいつでも攻撃できる体勢をとる。


「まずは敵兵の方を倒す! 大盾を前に! ルイスは敵魔法使いを警戒して!」


 ミカはそう叫び、周囲を旋回するように駆けるバルラガン卿はひとまず無視して、彼が伴ってきた三人の敵兵を見据える。

 ミカを仕留めることを念頭に置いてか、三人の敵兵は揃って弓を装備していた。彼らは一斉に矢を放ってくるが、ミカの前に掲げられた二枚の大盾によって全て防がれる。

 敵の第二射が来る前に、ミカは再び木板の壁を念魔法で持ち上げると、敵兵目がけて思いきり投擲する。やや不規則に回転しながら飛翔した壁は、敵兵のうち二人に直撃。壁の崩壊に巻き込まれた哀れな敵兵は、血と肉を飛び散らせながら沈黙する。

 残る一人の敵兵は、かなり素早い動きで矢を番えて第二射を放ったが、仲間の派手な死に様に動揺して狙いがぶれたのか、矢はミカたちの遥か頭上を通過していった。

 最後の敵兵が第三射を放つよりも、ミカがクロスボウを構えて射撃する方が先だった。敵兵はまず肩に、次いで腹に矢を受け、倒れる。


 全ての敵兵を排除したミカは、急いでバルラガン卿の方を振り返る。

 数十メートルの距離を置いてミカたちの周りを旋回するバルラガン卿に向けて、警戒役のルイスが次々に石を放っていた。今や熟練の投石兵であるルイスは、連射の能力もかなりのもの。さすがに狙いが甘くなるため、横方向へ高速で動き続ける騎馬に対してはなかなか命中しないが、それでも投げられた石の全てが敵の至近に飛んでおり、牽制としての効果は十分だった。

 魔力を燃料として火を生み出す火魔法は、魔法の中でも特に戦闘に向いているもののひとつ。火炎の塊を放つのは典型的な攻撃方法で、直撃を受ければ人間はひとたまりもないが、魔力を手元で一塊にするのに多少の時間を要するのが欠点だとミカは書物で読んだことがある。

 バルラガン卿は既に魔力の塊を作り終えているようで、彼の手の上では火の玉が揺れている。しかし、ルイスが絶え間なく投石を行うため、彼は飛んでくる石から逃れるために馬を横方向に高速で走らせ続ける必要があり、その結果として自身も攻撃の狙いを定めることができない。石の直撃を受ける確率が高まるため、こちらへ距離を詰めることもできない。彼の頭も口元も鎖帷子で覆われているために表情はよく分からないが、おそらく苛立っている。


「ルイス、当てられそう?」

「しっかり狙いを定める時間があれば。ただ、石が最後のひとつです」


 ミカが敵兵を排除する時間を稼いでくれた功労者は、問われてそう答える。


「牽制を代わるよ。君は狙撃に集中を」


 無言で頷いたルイスの横で、ミカはクロスボウから矢を放ち始める。

 やや距離が開いており、敵が馬に騎乗して高速で動いているために、やはり矢はなかなか当たらない。連射速度ではルイスの投石よりも連射式クロスボウの方が上のはずだが、ミカの射撃の実力はルイスほど高くないため、狙いの甘さを攻撃の手数で補ってバルラガン卿を牽制し続けるしかない。


「装填を!」


 弾倉の矢を撃ち尽くしたミカが叫ぶと、クロスボウの装填手がもう一挺の連射式クロスボウを空中へ放る。ミカはそれを「魔法の手」で受け止め、一方で矢の切れたクロスボウを装填手の傍に落とす。

 そして再びバルラガン卿を狙おうとすると――この数秒の隙を突き、彼は馬の駆ける速度を緩めて狙いを定め、攻撃を放ってきた。彼の手元にあった火の玉が、その大きさを膨れ上がらせながら迫りくる。


「クソが!」


 ディミトリが吠え、自身が構えていた大盾を放り投げる。次の瞬間、こちらへ迫る火炎の塊はディミトリの投げた大盾と激突し、爆炎が空中を赤々と染め上げた。

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