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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第四章 新たな時代

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第91話 防御陣地攻略戦①

 ミカ率いるヴァレンタイン軍とピエール率いるフォンタニエ軍は、共にフォンタニエ領の本村を発ち、ノディエ家とカーサライネン家の陣取った地点まで進軍した。

 ピエールが動員した兵力は、フォンタニエ家の武門の家臣に加え、本村と二つの村から集めた民兵、合計でおよそ三十人。限界まで動員すればさらに数十人を集めることもできるが、敵が別動隊を用意していた場合に備えてそれぞれの村に防衛の人手も残さなければならなかったため、この規模となった。


「……なるほど。見たところ、それなりの防御陣地になってるみたいですね」

「ああ。せいぜい二日程度しか時間がなかったわりにはよく作ってある。配下に土魔法使いがいるだけのことはあるな」


 攻勢を仕掛ける前に森の陰から敵陣の様子をうかがい、ミカとピエールは言葉を交わす。


 ミカの目から見ても、敵の防御陣地は、即席にしては十分以上に強固なものに見えた。

 陣地の出入り口以外の全周をぐるりと囲む空堀。深さも幅も大したことはないが、それでもこちらが突撃の勢いのままに敵陣に突入することは防がれる。短期間でこれだけの長さの空堀を築くことができたのは、兵による人海戦術だけでなく、カーサライネン家が抱えているという土魔法使いの力もあってのことと思われる。

 空堀の向こう側には木柵が置かれ、その高さは平均的な成人男性の背丈程度だが、下の方が空堀を作った際の土で補強され、伏せてその陰に隠れれば矢や石から身を守れるようになっている。そして荷馬車が通り抜けられる程度の幅がある出入り口には、木の杭を組んだ障害物が二つ置かれている。移動させるにはおそらく数人がかりで運ぶ必要があり、やはり簡単には突破できない。


 しかし、それらは常人が攻略に臨む場合の話。


「どうだ、ヴァレンタイン卿。攻略できそうか?」

「ええ、それほど難しくはないと思います。あの程度の木柵や障害物であれば、僕の魔法で丸太を投擲すれば大して苦労せずに壊せます」


 ピエールから小声で問われ、ミカも声を潜めながらそう答える。


「そうか……防御陣地に穴を開けられるのであれば、その後の勝利は容易いな。卿の魔法による援護があれば、敵に反撃の隙を与えずに陣地内に突入できる。そうなれば、敵側の民兵たちは士気を維持できずに逃げるか降伏するだろう」

「そうですね。軍勢が崩壊すれば、ノディエ卿とカーサライネン卿も敗けを認めざるを得ないでしょう。僕の魔法の威力を見誤ったのが、あちらの敗因になります」


 ノディエ家とカーサライネン家は、一昨年のモーティマー家との戦いにも、昨年のランゲンバッハ家との戦いにも参加していない。ミカの念魔法について、噂には聞いていてもその威力を目の当たりにしたことはない。

 それ故に、ノディエ卿とカーサライネン卿はこちらの力を見誤り、あの程度の防御陣地で時間稼ぎができると考えているのだろう。ミカはそう考えた。


「では、早速攻めるとしよう……者共、戦闘準備だ! 盾を並べ、隊列を組め!」


 ピエールの命令で、およそ三十人のフォンタニエ軍が動き始める。

 この攻勢に際してピエールが用意したのが、木板を並べて張り合わせ、裏側に持ち手をつけた巨大な盾。もはや移動式の壁と呼んだ方がいい代物。

 ミカの魔法という強力な武器があるとはいえ、こちらの兵は敵側とほぼ同数しかいない以上、敵陣に近づくまでに頭数を損耗することはできるだけ避けたい。このような戦い方になることを予期していたらしいピエールは、ヴァレンタイン家に伝令を送る一方で、急ぎこの装備を作り進めたのだという。

 幅三メートルほどの移動式の壁が合計で四つ、それぞれ多少の間隔を開けて並べられ、その裏では運搬役の兵士たちが持ち手を握り、さらに後ろにはその他の兵士たちが整列。ミカは壁のひとつを運搬役ごと貸し与えられ、念魔法で丸太を二本持ち上げながらその後ろに隠れ、さらに周囲を直衛のディミトリと、大盾や連射式クロスボウを運ぶ領民たちで固める。


「前進! 足並みを揃え、焦らず着実に進め!」


 四つの壁が横並びになり、ピエールの命令を受けて前進を開始する頃には、敵側も既にこちらの出現に気づいているようだった。敵襲を知らせる意味があるのであろう鐘の音が甲高く鳴り響き、防御陣地の中が俄かに騒がしくなる。

 それから間もなく、敵の攻撃が飛んでくる。弓やクロスボウから放たれた矢が、そして投擲された石が、ヴァレンタイン軍とフォンタニエ軍に襲いかかる。


 しかし、その攻撃のほとんどは移動式の壁に阻まれる。持ち運べる重量の壁は大した強度ではないが、それでも一般的な円盾以上の厚みはあるので、矢や石程度ならば防ぎきれる。敵は二家とも小領主家なのでバリスタなどの大型兵器を持っているはずもなく、土魔法使いも、攻撃に関しては大きな土塊を投げつける程度のことしかできず、その飛距離はたかが知れている。

 結果、こちらの損害は最小限に抑えられる。四十人は四つの壁の裏で身を寄せ合うようにして前進しているので、敵の攻撃が当たるのは、よほど運の悪い者が数人だけ。


 そもそも、飛んでくる矢や石の数それ自体が少ない。所詮は領民をかき集めただけの軍勢。弓や投石紐を扱える者はごく限られ、クロスボウも少数しかないようだった。

 壁を運搬するフォンタニエ軍民兵たちのすぐ後ろに続き、周囲をディミトリや領民たちに囲まれているミカは、ほとんど危険を感じることもなく前進できる。


「……そろそろ停止する頃かな」


 丸太を二本も同時に運んでいるために多少の疲労を覚えながら、ミカは言った。その予想は正しかったようで、直後にピエールが全隊停止を命じる。


「ディミトリ、敵陣との距離は?」

「……三十メートルってところですね」


 ミカが尋ねると、円盾で顔と上半身を守りつつ壁から顔を出したディミトリが、敵防御陣地を見据えて答える。


「そっか。打ち合わせ通りだね」


 ミカはそう言って、隣の壁に隠れているピエールの方を向く。彼もミカに視線を向け、頷く。

 頷き返したミカは、丸太を頭上に移動させ、いつでも投げられるように構える。


「横に出るよ……三、二、一、今だっ!」


 ミカはそう言って、壁の後ろから出る。ディミトリと大盾を構えた領民たちが息を合わせて共に動く。

 狙うは、木杭による障害物が置かれた出入り口の辺り。ミカは丸太を「魔法の手」の届く限界まで後方へ動かし、そして勢いよく前へくり出し、手放す。

 念魔法から解き放たれた丸太は、くり出された勢いのまま飛翔し、狙い違わず敵防御陣地の出入り口を直撃した。百キログラムを超える丸太が、出入り口を塞ぐ障害物の片方を吹き飛ばし、その破壊に巻き込まれた木柵の端まで千切れ飛んだ。


 成果を確認しながら、ミカは攻撃の手を緩めない。もう一本の丸太を振りかざし、再び敵防御陣地の出入り口に狙いを定める。

 大きな丸太が襲いかかってきたことに衝撃を受けているのか、敵側の攻撃はほとんど止まっている。僅かに飛んでくる矢や石も、狙いが外れるか、ディミトリと大盾を構えた領民たちが防いでくれる。ミカは落ち着いて二本目の丸太を投擲し、またもや命中させる。二つ目の障害物がばらばらに壊れながら排除される。


「フォンタニエ軍、突撃準備だ! 突破口が開かれ、敵はろくに反撃もできない! 何の苦労もなく敵陣に侵入できるぞ!」


 ピエールの号令で、彼と数人の家臣たち、そしてフォンタニエ軍の民兵たちが壁の前に出る。突撃に際してもピエールは兵の生存性を重視しているようで、彼と家臣たちは円盾を、民兵たちも粗末だが木板の盾を装備している。

 彼らが前面に整列するのを横目に、ミカは用済みとなった木板の壁のひとつを念魔法で持ち上げると、投擲。無防備になった出入り口を守ろうと集結し始めていた敵兵たちが、駄目押しの一撃として飛翔してきた壁を恐れ、隊列を乱す。敵の土魔法使いが出入り口を再び塞ごうと魔法で土を積み上げていたようだが、この僅かな時間では大した高さも幅も得られず、その土塊も壁がぶつかって吹き飛ぶ。


「突撃!」


 ピエールの命令を合図に、負傷者を除くフォンタニエ軍と、ヴァレンタイン軍のうちミカの護衛や補佐を務める者以外の数人が一塊になって敵防御陣地の出入り口を目指す。ミカは連射式クロスボウを「魔法の腕」で頭上高く持ち上げ、敵の隊列を大まかに狙って矢を連発し、味方の突撃を援護する。

 すっかり頼りない有様となった敵防御陣地。そこへ、三十数人の軍勢が勢いよく迫る。その前進を邪魔する者はもはやいない。

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