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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第二章 進む改革と結婚式

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第61話 結婚式②

「ヴァレンタイン卿、そして奥方。此度の婚姻、あらためて心より祝福する」

「感謝します、フォンタニエ卿」


 次いで祝辞を述べに寄ってきたのは、東隣の領主ピエール・フォンタニエだった。ミカが答える隣で、アイラも上品に一礼して感謝を示す。


「しかし、卿には驚かされてばかりだな。ほんの二年前に隣村にやってきて領主を名乗り出したと思ったら、北の有力領主の侵攻を跳ね返し、名家のご令嬢と結ばれ、さらには戦争で大活躍とは」


 やや呆れ交じりに言うピエールに、ミカは微苦笑を返す。

 その後も彼としばらく雑談を続けるが、先ほどのメルダース夫妻と比べると、ピエールの振る舞いは少々ぎこちない。一見すると無難に社交に臨んでいるように見えるが、アイラの方へほとんど視線を向けない。不自然なほどに。

 それから察するに、彼は領外の多くの者と同じように、アイラの「奇抜さ」に苦手意識を感じているようだった。

 そんなピエールの反応を、ミカは咎めることはしない。アイラも嫌な顔はしない。この世界の文化や価値観からすれば彼の反応の方が自然であり、ミカとアイラの感覚の方が異質。露骨に貶されたりしない限りは、抗議などはしないと二人であらかじめ決めている。


 祝いの品として自領特産の香草をくれたピエールが離れていった後も、先の戦いで交流の生まれた丘陵北側の領主たちから名代として送られてきた子弟や家臣らが代わる代わる挨拶に来る。その中には、一応は和睦の成立したハウエルズ家の使者もいる。彼らもやはり、アイラの存在を扱いづらそうにしているのが見てとれた。

 その後、アイラが少し離れた位置で家族と話しているタイミングで挨拶にやってきたのは、西の隣人ダグラス・コレットだった。


「ヒューイット家の奇抜なご令嬢のことは儂も噂に聞いていたが、まさか卿が結婚相手になるとはな。知ったときは驚いたぞ……奥方の家柄を優先して結婚を決めたのか?」


 何とも無粋なことを明け透けに聞いてくるダグラスだが、不思議と嫌味な雰囲気は皆無。いかにも彼らしい振る舞いだった。いつも気ままな言動を見せる彼も、アイラが近くにいないときを見計らってこういう話をするだけの気遣いはしてくれるようで、その点はありがたいとミカは思う。


「いえいえ。当然、彼女の人柄に惚れたからこその現在です。一人の人間として、彼女と結ばれたことを心より幸せに思っていますよ」

「ほお、そうなのか。奥方の服やら何やらの趣味は儂には到底理解できんが、卿がそう言うのであれば儂がどう思うかなど関係のない話だ。隣人が幸福な結婚をしたこと、誠にめでたく思うぞ」

「ありがとうございます。これからも良き隣人として、何卒よろしくお願いします」


 その後に彼のくれた祝いの品は、やはりと言うべきか、自家製の燻製だった。前回もらって食べたときはお世辞抜きに美味かったので、ミカとしても嬉しいことだった。


・・・・・・


 宴の後半。出席者の全員と挨拶を終え、祝辞と共に祝いの言葉をもらったミカは、返礼を示す。

 このような場面では何か贅沢品や領地の特産品などを返すのが一般的だが、ミカは一風変わったかたちで礼を返すことにした。かつて手土産として脱穀機の情報を開示したように、この世界においては「ふるい機」と名づけた唐箕を披露することにした。


「――このように麦の粒だけが下から出てきて、籾殻や藁くずは横の穴から吐き出されます。一人が取っ手を回し、もう一人が上から麦を注ぐだけで、迅速に麦を選別することができます。脱穀機と合わせて、我が領では今年から大いに活用されている道具です」

「なるほどぉ。これはまた便利なものだ。よく考えたなぁ」


 この秋に収穫されたばかりの大麦を使ってふるい機を実用してみせ、ミカが説明すると、感心した表情で言ったのはダグラスだった。他の出席者たちも、驚きや関心を顔に表しながら感想を話し合っている。


「我が領は未だ貧しく、特産品と呼べるようなものもありません。なればこそ、役に立つ道具の情報を開示することで皆さんに最も大きな利益をお返しできるかと思いました」

「昨年教えてもらった脱穀機については、我が領でも大いに役立っている。その上でこのような道具まで新たに得られれば、農業発展の足枷となっていた脱穀作業の負担がより軽くなるだろう。これはどのような贅沢品や特産品にも勝る返礼だ」


 サンドラの言葉に、他の者たちも口々に同意を語りながら頷いた。


「皆さんにお喜びいただけたようで何よりです。よろしければもっと近くでご覧ください。実際に触って試していただいても構いません。一台分解して、中の構造も詳しくご説明します」


 ミカが呼びかけると、出席者たちはふるい機の方へ集まってさらに詳細な説明を受ける。

 どうせいずれ他家にも知られる道具。ならば進んで開示し、周囲との友好関係を深める一手として利用した方がいい。脱穀機のときと同じ考えに基づく自身の選択は、どうやら狙い通りに効果を発揮したようだと、ミカは皆の反応を見ながら満足する。


「素晴らしき才を持つ念魔法使いにして、聡明なる新進気鋭の領主。噂に聞いていた通りのお方ですね。敬服しました」


 ふるい機の披露も一段落した頃。ミカに歩み寄ってきてそう言ったのは、次期ヒューイット家当主であり、アイラの姉であるグレンダだった。


「義姉であるグレンダ殿にそう仰っていただけるとは、恐縮です」


 ミカが笑顔を作って言うと、グレンダも微笑しながら頷き、そして隣に並ぶ。彼女の視線は、従姉サンドラと語らうアイラの方へ向けられている。


「変わり者の妹を受け入れてくれる殿方が現れたことは、アイラの姉として心からありがたく思っています。今回こうして貴方と直接会ったことで、父が貴方を信じた理由が分かった気がします……ただ、その上で一度だけ、失礼を承知で言わせてもらいたく」


 グレンダはミカの方を振り返り、真剣な表情を見せる。


「どの家がいつ滅亡してもおかしくない世の中です。必ずアイラを守り、幸せにしてくれとは言いません。ですが……もしも貴方がアイラを意図的に傷つけ、害するようなことがあれば、私はヒューイット家の次期当主として決して貴方を許しません。それを覚えておいてください」


 ミカは彼女の言葉に少しの驚きと、同時に納得を覚える。

 この地域での己の評判は悪くないつもりでいるミカだが、それでも真の信頼関係を築くにはやはり年月が必要。周囲から見れば、まだ得体の知れない部分がある新参者であることは間違いない。

 それでなくとも、婚約していた頃は優しかった人物が、結婚した途端に豹変した……などという話は前世でも今世でも珍しくなかった。アイラはその個性もあって受け入れてくれる男性が少ないことを考えると、直接会うのは今回が初めてであるミカのことを、グレンダが内心で警戒するのも当然のことだった。


「お言葉を心に刻みます。もし僕が悪意をもってアイラを不幸にするようなことがあれば、僕も自分のことが許せません。そのときは僕を火炙りにするなり、八つ裂きにするなり、お好きなようになさってください」


 ミカもグレンダと同じように、真剣そのものの表情で返した。すると彼女は、驚いたように目を見開き、そして小さく笑う。


「貴方がアイラを大切に扱ってくれると願い、信じています。あらためて、妹をこれからよろしくお願いします。両家で良き友情を築いていきましょう」

「必ず、いただいた信頼にお応えします。ヒューイット家の姻戚にふさわしい領主家へと我がヴァレンタイン家を成長させていきます。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」


 ミカはそう答え、グレンダと握手を交わした。


・・・・・・


 この世界のこの時代、人間にとって己の血を世に残し、己の家を存続させることは最重要の使命のひとつ。結婚は個人同士の幸福や家同士の友好関係を得るためのものであり、同時に世継ぎ作りにおける重要な過程であると考えられている。

 その点でも、結婚初夜の床入りは一種の儀式として大きな意味を持つ。

 夜まで続いた宴の後。ミカとアイラは入浴して身を清め、同じ寝室に入った。整えられた広いベッドに二人並んで寝た。


 それから間もなく。ミカは今――アイラから可愛がられている。彼女の胸に顔を抱かれ、まるで子供のように甘やかされている。


「ふふふっ……私のミカ。愛しいミカ。いい子ね。可愛い子ね……これからずっと、一生、私がこうして可愛がってあげるからね……」


 耳元に優しく語りかけられながら、ミカは考える。

 先の丘陵北側への出征から帰った後より、アイラは以前よりも目に見えて積極的に愛情表現を示すようになった。おそらくは愛する人が戦いに赴くのを見送り、心配と不安を抱えながら帰りを待つ経験を経て、色々と思うところがあったのだろうとミカは思っていた。

 それにしても、今宵の彼女は積極的だった。今までは結婚前でお目付け役もいたから遠慮していたのか、こうして二人きりになった彼女の愛情表現は、何とも情熱的で真っすぐだった。そして、少し独特だった。


「領主としてのあなたは、この地に暮らす私たち皆の庇護者よ。だけど一人の殿方としてのあなたは、全部私のもの。私が独り占めするの。頭のてっぺんから足の先まで、あなたの全ては私だけのもの……」


 語りながら、彼女の愛情表現は止まらない。ミカの唇にも顔にも首にも口づけを浴びせながら、ミカの全身を優しく撫でてくる。

 ぬいぐるみのアンバーも、今はベッドの隅で壁の方を向いている。アイラの関心と注意の全てはミカだけに向けられ、ミカだけが可愛がられている。


「頑張り屋さんで、いつも皆のために努力してるあなたを、これからは私が癒してあげるの。毎晩癒してあげるの。何もかも私に委ねていいのよ。私はあなたのもので、あなたは私のものなんだから……」


 そう言って、アイラはミカの上に馬乗りになる。恍惚とした表情で目を潤ませながらあっという間にミカの服を脱がせ、自身も服を脱ぎ始める。


「……ふーむ。これはなかなか……」


 露わになっていく彼女の肢体を見上げながら、ミカはご満悦で呟く。

 積極的な伴侶にとことん甘やかされ、主導権を握られる。ともすれば男として情けない有様で、とてもではないが人には見せられない。

 が、悪くない。むしろ、とてもいい。心の中で新たな扉が開かれる気がしながら、ミカはそのままアイラに身を委ねる。


 二人の初めての夜は、楽しく過ぎていく。

ここまでが第二章となります。ここまでお読みいただきありがとうございます。


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