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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第一章 ここは我が領地

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38/90

第38話 武器と土地

 八月の上旬。大麦がよく実り、収穫時期が近づく中で、ミカは例のごとく、領民たちと力を合わせて開拓に臨む日々を送っていた。森の木を伐採し、切り株を取り除き、人間の生存圏である平地を拡大する。そんな忙しくも平穏な日々に戻っていた。

 そんなある日、アーネストが来訪し、ミカはいつものように彼を領主館へ迎えた。

 今回彼が届けてくれたのは、ミカがエルトポリの工房へ追加で注文していた脱穀機の筒状部品が二つ。その他、この村では自給できないものがいくつか。

 そして、ミカが待ち望んでいたものも。


「連射式クロスボウの完成品です。どうぞご確認ください」

「わあ、こんなに早く届けてもらえるとは。嬉しいです」


 アーネストが差し出した自身専用のクロスボウを見て、ミカは目を輝かせる。

 他の装備に先駆けて、最優先で製造してくれるよう工房に依頼していたこのクロスボウは、一般的なクロスボウよりも一回り大きく、その分威力も高く、その分弦は硬い。人力で弦を引くにはレバーではなく、専用のペダルを取りつけて回すのが一般的。

 しかし、ミカならば念魔法で軽々とこの弦を引ける。工房で同じ大きさのクロスボウを扱った際に確認している。

 そして、矢を備える台の上部には、弾倉が備えつけられている。ミカの書いた設計図通りの構造で、細部までとても丁寧に仕上げられている。さすがはユーティライネン家にも装備を卸している工房の作品。


「替えの弾倉の分と合わせ、矢はひとまず二十本が用意されています。一応は動作確認もしているとのことですが、弾倉を取りつけた上で水平に向けたまま装填をするのはなかなか困難があったそうです。閣下のご想定の通りに魔法で操って連射できるかは、閣下ご自身にご確認をいただきたいとのことでした」

「なるほど、確かにそれも無理のないことですね。では早速……とりあえず、裏庭で試射をしてみましょう」


 ミカはそう言って、アーネストと、ディミトリも連れて裏庭に出る。裏庭の隅に木板を立て、それを的として試射を始める。

 ミカがクロスボウに向けて右手を掲げると、その手に白い光が宿る。そしてクロスボウが浮き上がり、木板の的を向く。

 そしてミカが左手を向けると、そちらにも魔法光が宿り、そしてクロスボウの弦が引かれる。硬い弦が軽々と引かれる。

 弦が邪魔をして完全には弾倉から下りていなかった矢が、弦が下がったことで、綺麗に台上の溝に乗る。そしてミカの「魔法の手」が引き金を動かすと、矢が勢いよく発射され、空気を鋭く切って的に命中した。太く重い矢が、分厚い木板をいともたやすく貫通した。


 ミカはまた弦を引く。次の矢が、弦や弾倉の内壁に引っかかることもなく下りてきて台上の溝に装填される。ミカが引き金を引くと、矢が発射される。それをくり返し、弾倉の中にあった十本の矢は全て問題なく発射された。木板は何本目かの矢が当たった際に衝撃で真っ二つに割れ、以降の矢は後ろの垣根に突き刺さり、数本は垣根の隙間をすり抜けて館の敷地の外へ飛んでいった。後で探さなければならない。


「ミカ様、どうぞ」

「ありがとう、ディミトリ」


 ミカがクロスボウを手元に戻すと、ディミトリが替えの弾倉を差し出してきた。ミカは逆さまにしたクロスボウから弾倉を取り外しつつ礼を言い、彼から受け取った替えの弾倉を取りつける。

 箱型の弾倉には出っ張りがいくつかあり、そこを基部の溝に当てはめれば簡単に取りつけることができる。こうして弾倉を交換式にすることで、隙を減らして戦うことができる。尤も、今のところは弾倉二つと矢が二十本しかないので、より長く戦うには増産を待たなければならないが。

 弾倉を交換した上で、新たに的として立てた木板へ何発か矢を放った後、ミカは満面の笑みを浮かべる。


「……うん、全く問題ありません。素晴らしいの一言です」


 手元で構えるわけではないため、狙いを定めるのに多少のコツが必要。また、弾倉に矢を収める構造上、短く柔らかい矢羽根しか取りつけることができないために、矢が安定して飛翔する距離に限界がある。正確に狙えるのはせいぜい二十メートルほどだろうか。大型のクロスボウであることを考えると短い。

 それでも、連射性能を合わせて考えると、一個人が持ち得る戦闘力としては破格と言える。

 丸太は質量兵器として優秀だが、複数を同時に運ぶのが難しく、持っているひとつふたつを投げつければそれで終わりとなり、投げずに振り回すのであれば敵が数メートルの距離へ近づいてくるまで待たなければならない。

 しかしこのクロスボウならば、ある程度の距離から一方的に敵を攻撃できる上に、素早い連射が可能で、矢を何十発も携行でき、人間の反射神経では避けようがないほどに高速の一撃を放ち、とりあえず身体に当てれば重装備も貫通して敵を戦闘不能に追い込める。自部隊の支援用や指揮官としての自衛用の武器として、十分すぎるほどに有用だろうとミカは考える。


「それは何よりです……それにしても、これほど強力な武器を軽々と扱っておられる様を拝見すると、閣下のお力の大きさをあらためて実感させられます」

「あははっ、ありがとうございます。アーネストさんにいち早くこれを届けてもらったおかげで、より効果的に魔法を使って戦えるようになりました。今後領地を守る上で、とても心強いです」


 やや慄くような表情で言ったアーネストに、ミカは笑顔で返した。


「先の戦争では、魔法での力押しが通じずに肝の冷える思いをしましたから。領地の発展はもちろん、こうして防衛のためにもしっかり頑張らなければ……アーネストさんとしても、この地が安全でなければ安心して拠点を置けないでしょうから」

「これはこれは、私などの心情も慮っていただき恐縮に存じます」


 恭しく一礼したアーネストは、将来的にこのヴァレンタイン領に常設の店舗を置き、この地を拠点とすることを明言してくれている。最近はヴァレンタイン領とエルトポリを往復することが主な仕事となっている彼は、ミカがヒューイット家の令嬢と婚約したことが決定打となったのか、このまま御用商人としてヴァレンタイン家と共に歩んでいく覚悟を固めたらしかった。


「こちらへ到着した際に領内の様子を拝見しましたが、森の開拓もまた一段と進んでいるようですね」

「はい。先のことを考えると、早くから少しでも平地を確保しておきたいですから。領民たちも勤勉に働いてくれるので、順調に森を切り開けています」


 館に戻りながら言ったアーネストに、ミカは頷く。

 ミカの頭の中にある領地発展計画において、ひとまずの最優先事項は、農耕馬の購入。自分一人で耕すには広すぎる農地、その全体を犂で耕すことができるよう、来年にも数頭の農耕馬を買いたいと考えている。

 農業に馬が導入され、さらに三圃制も本格的に始まれば、ヴァレンタイン領の農業生産力は最大限に高まる。食料の面で大きな余裕ができ、収入も大きく増える。そうなれば、以降は移住者を集めて少しずつ領地人口を増やし、それによって領内の農業生産力をさらに高め、それに伴って領地の経済力や軍事力も高まり、その余裕を活かしてまた移民を集め……という流れで発展の好循環を作り出すことができる。

 そのために必要なのは、土地。家を建てるにも農業をするにも、平地がなければ始まらない。だからこそミカは、開拓に全力を注ぐ日々を送っている。


「今後、領地規模の拡大を目指す上で、アーネストさんの力を借りる機会もますます増えていくと思います。どうか頼りにさせてください」

「もちろんにございます。閣下より頼りにしていただけますこと、ヴァレンタイン家の御用商人として何よりの喜びです」


 ミカが微笑を向けて言うと、アーネストも穏やかに笑って答えた。

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