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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第五章 うちの村だけは幸せであれ

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第128話 コレット砦防衛戦④

「……これだけの兵力が揃ったのだ。必ずやあの砦を落として見せなければ」


 ダリアンデル人たちがコレット砦と呼んでいるらしい敵側の砦を睨みながら、己に言い聞かせるようにヴァルナーは言った。

 緒戦で砦を落とすことに失敗した後、ヴァルナーたち別動隊は、コレット砦を守る敵部隊を疲弊させる戦術をとった。火矢による奇襲。夜襲とその素振りを織り交ぜ、昼夜を問わず敵側に緊張を強いるという嫌がらせ。この二つの手を駆使して敵側の気力体力を削っていると、緒戦の日から数えて三日後に、北の本隊より伝令が届いた。

 報せによると、本隊同士の戦いは膠着状態にある。兵力的にはこちら側がノイシュレン王国軍本隊を圧倒しているが、敵側は頑強な砦を中核に強固な野戦陣地を築いて抵抗しており、力押しで落とすのは容易ではない。

 そのため総大将クラウダは、本隊よりも防衛線突破が容易と思われるこの別動隊に大規模な援軍を送り、迅速な侵攻と敵領土内の蹂躙を為させることで、敵本隊を動揺させて瓦解させることを目指すことにしたという。

 報せを受けた二日後には、魔法使いや攻城兵器部隊などを含む一千の援軍が到着。緒戦での損害を補って余りある戦力を得た別動隊は、疲弊した敵部隊の籠もるコレット砦をいよいよ陥落させんと攻勢に臨む。


「閣下、整列が完了しました。いつでもご命令を」


 自身の配下に言われたヴァルナーは、頷いて口を開く。


「……前衛は突撃。同時にバリスタとカタパルトによる援護を為せ」


 砦を見据えたままヴァルナーが命令を発すると、それが即座に伝達され、戦闘が始まる。


・・・・・・


 三千に迫るほどに規模を増した敵軍による攻勢は、緒戦と同じようにダリアンデル人奴隷兵から成る敵軍前衛の突撃で始まった。

 さらに、今回はそこにバリスタやカタパルトによる援護射撃が加わった。


「敵の攻撃が来る! 身構えろ!」

「身を伏せて備えろ!」


 味方に警戒を呼びかける職業軍人たちの叫び声がいくつも響いた直後、大きな石が降り注ぎ、槍のように太い矢が放物線を描きながら砦の内部に飛び込む。

 その威力は壮絶だった。石の直撃を受けて頭が弾け飛ぶ者。地面で跳ねた石に当たって手足を失い、あるいは胴体を抉られる者。矢の直撃を受けて土塁上から落下し、そのまま地面に串刺しにされる者。瞬く間に少なからぬ死傷者が発生した。さらには西門の南側にある物見台の屋根が、石によって欠けた。もし直撃を受ければ、物見台そのものが機能を喪失しかねない威力だった。


「まさかノーザーランド人が攻城兵器を使うなんて……」

「……おそらく、昨年の戦いで連合軍が放棄したものや、アルデンブルク王国の各領地で見つけたものを鹵獲して使っているのでしょう。ひどく厄介ですね」


 西門直上の物見台で身を伏せ、正面を守る頑丈な丸太壁の陰に隠れながら、ミカとグレンダは言葉を交わす。攻城兵器というものは、攻撃を食らう側になるとこれほど恐ろしい存在なのかとミカは痛感する。

 敵側にあるバリスタとカタパルトは、見たところ合計で十台ほど。緒戦では使われていなかったので、おそらくは敵本隊から援軍と共に送られてきたものか。

 強力で貴重な攻城兵器を惜しみなく投入し、この丘陵南側を進軍する上ではおそらく補給を維持できる限界の規模であろう三千近い兵力を揃え、疲弊した防衛部隊の守る砦を攻める。敵が本気で結着をつけようとしているのは明らかだった。

 砦側のバリスタ六台も反撃を為すが、敵陣最後方にある攻城兵器を狙って破壊するのはそう簡単ではない。射撃をくり返していればいずれは破壊に成功するだろうが、初撃による成果はほとんどなく、せいぜい威嚇程度の効果しか発揮できなかった。


「敵の接近を阻止する! こちらも攻撃を!」


 グレンダの命令を受け、クロスボウ兵と弓兵と投石兵、そして火魔法使いたちが、射程圏内に入った敵軍前衛に向けて攻撃を開始する。

 しかし、それから間もなくして敵側のバリスタとカタパルトによる第二射が放たれる。砦の防衛部隊を再び衝撃が襲い、複数の死傷者が出る。さらにはカタパルトから撃ち出された石の直撃を受け、丸太柵に設置されていたバリスタの一台が破壊される。

 損害は直接的なものだけではない。まともに当たれば即死を免れない強力な兵器による攻撃が飛来する状況で、特に民兵たちが怖気づく。連日の嫌がらせを受けての疲弊や、兵力そのものの損耗も相まって、反撃の勢いはどうしても緒戦より鈍くなる。

 一方で、迫りくる敵兵の数は緒戦よりも多い。敵側のダリアンデル人奴隷兵たちは、少なからぬ損害を受けながらも大勢が空堀の前まで到達する。


 そして、砦への侵入を試みる敵軍と、それを阻止せんとする防衛部隊の壮絶な殺し合いがくり広げられる。

 緒戦よりも多くの梯子が、緒戦よりも広範囲に立てかけられ、そこに何百という敵兵が群がる。クロスボウ兵たちが丸太柵越しに矢を放ち、白兵戦部隊が槍や剣や戦斧を振るって迫りくる敵兵を叩き落とすが、後続の兵は次から次に梯子を上がってくる。梯子そのものを落としても、敵兵たちは人海戦術で再び梯子を立てかけて登ってくる。

 さらに、敵軍後衛から飛来する遠距離攻撃の手数も緒戦より多い。軍勢の規模増強に合わせて投射武器を持つ兵の数も増えているようで、何百という矢が砦に飛び込んでくる。

 また、ダリアンデル人奴隷兵に交じって積極的に前に出てくるノーザーランド人の中には、投げ槍を何本も手にしている者が多い。丸太柵の上に半身を曝す防衛側の騎士や兵士は、鋭く投擲される槍にも苦しめられる。


 攻める側は膨大な戦力を有し、守る側は兵数の面でも個々の気力体力の面でも持久戦に不利。時間までもが敵となる戦場において、ミカは念魔法を駆使して懸命な貢献を為す。西門直上の物見台に立って連射式クロスボウを操り、絶え間なく矢を放ち続ける。

 その攻撃によって多数の敵兵を無力化するが、敵軍前衛の中から破城槌を抱えた一群が進み出てくると、クロスボウによる攻撃ではそう簡単に止められない。ミカのみならず、この西門直上や左右の物見台に立つ友軍からもクロスボウやバリスタによる激しい攻撃がなされるが、緒戦で使われたものよりも大きく頑丈な屋根を備える破城槌は、その屋根で運搬役の兵たちを守りながら着実に門に近づいてくる。

 緒戦で活躍した高温の油は、土塁の裏で用意していた兵たちが敵側のカタパルトによる攻撃を受けて蹴散らされてしまい、まだ態勢を立て直していないため準備が間に合っていない。


「ああもう! 埒が明かない!」


 ミカは悪態をつきながら、武器を持ち替えることを決断する。最初の一射を終えた後は後ろに放置していたバリスタを持ち上げると、補佐役の領民たちの手を借りて極太の矢を装填し、そして門の正面に下ろす。門前の通路から近づいてくる破城槌の、左右に立って持ち手を握る敵兵たち。そのうちミカから見て左側に並ぶ者たちの目の前にバリスタを浮かべ、そして引き金を引く。

 放たれた矢は、重い破城槌を支えているために姿勢を変えることもできない敵兵たちを容赦なく貫く。至近距離からの一射は複数人を貫通し、運搬役が欠けた破城槌は傾いて前進を止める。


「ヴァレンタイン卿! 南側が危ない! どうにかできますか!?」

「あぁ~! 多分、できます! やってみます!」


 グレンダの叫ぶような問いかけを受け、一息吐く間もなくミカは応える。手元に戻したバリスタを放り捨てるように後ろへ置くと、物見台から西門南側の土塁上に降り、土塁の裏にあらかじめ立てかけてあった丸太を持ち上げる。

 重い丸太を激しく動かすと多くの魔力を消費するのでできるだけ避けたかったが、事ここに至ってはそうも言っていられない。偶然の結果か、あるいは敵側があえて精鋭の配置を偏重させているのか、南側の丸太柵には装備の整ったノーザーランド人が数多く取りついている。土塁上に立つ味方の騎士や兵士たちは奮戦しているが、それでも力及ばず、多くの箇所で丸太柵を挟んでぎりぎりの防衛戦をくり広げている。まとまった数の敵兵が柵を越えて雪崩れ込んでくるまで、もうあまり猶予がない。

 この窮状を切り抜けるには、全力の魔法行使しかない。ミカは丸太柵の外側に自身の操る丸太を浮かべると――そのまま柵の表面をなぞるように丸太を動かしながら、全力で走る。


「うおりゃぁあああああ~っ!」


 ミカと並走するように丸太が柵の上部を撫で、柵を乗り越えようとしていた敵兵をまとめて弾き落としていく。柵に立てかけられていた梯子も、幾つかがミカの操る丸太に当たって倒れる。


「どけどけぇ! 巻き込まれたくなけりゃあ下がれ!」


 ミカが走り抜ける進路を空けるため、ディミトリが前を走る。筋骨隆々の巨漢が怒鳴り散らしながら走ってくる様を見て、土塁上にいる味方は驚いて一歩引き、道が作られる。民兵も、領軍の兵士や騎士も、領主身分の者も、今は等しくディミトリの言うことを聞く。

 そしてミカの傍らには、護衛役の領民が大盾を構えて続く。飛来する矢からミカを守りながら、盾の重さにも走りづらい姿勢にも耐えて懸命に続く。

 そうして西門南側の丸太柵に取りついていた敵兵をあらかた薙ぎ払ったミカは、急いで門の方へ戻る。すると、一度は動きを止めていた破城槌が、バリスタに貫かれた者たちに変わる新たな運搬役を得て再び前進し、いよいよ門を打ち始めていた。


「ああ、もう! これでも食らえっ!」


 防いでも防いでも次の攻撃が迫ってくる。ミカは苛立ちを覚えながら、半ばやけくそで丸太を投擲する。左右合わせて二十人ほどの兵が運ぶ重い破城槌も、回転しながら飛翔した百キログラム以上の丸太の直撃を受けてはひとたまりもない。悲鳴を上げる運搬役の兵たちを巻き込みながら門前の通路から北側の空堀へと転落し、完全に無力化される。


「助かりました、ヴァレンタイン卿。本当に頼もしい魔法ですね」

「あはは、ありがとうございます……さすがに疲れますね」


 物見台に戻ったミカは、グレンダの称賛を受けて微苦笑を返す。


「それだけ派手に魔法を行使すれば当然でしょう……疲れているところ申し訳ないが、北側もあまり余裕がなさそうなので、先ほどの攻撃を頼みます。正面から新たな破城槌も近づいてくるようなので、今のうちにあちらを援護してやってください」


 グレンダが指差す北側の丸太柵も、随分と多くの敵兵に取りつかれて防衛に難儀していた。そして正面側からは、二台目の破城槌が敵軍前衛の間を縫って前進してくるのが確かに見えた。


「……よぉし、頑張ります」


 ミカはため息を零そうとして、しかし大変なのは自分だけではないので我慢して立ち上がり、ディミトリや護衛役の領民を伴って今度は北側の土塁に下りる。


・・・・・・


 ミカが疲労困憊するまで丸太を振り回し、他の魔法使いたちも、領主やその家臣たちも、民兵たちも全員が力を振るって戦った結果、コレット砦はなんとか守られた。敵別動隊は攻勢を止めて後退し、防衛部隊は壮絶な戦闘から一時解放された。

 しかし、代償は大きかった。四百ほどの残存兵力のうち、百人ほどが死ぬか重傷を負って戦闘不能となり、残存兵力はおよそ三百にまで減った。

 対する敵側の損害は、おそらく二百ほど。彼我の戦力差は推定で八倍以上にまで広がった。

 次の攻勢も乗り越えられると自信を持って語ることは、ミカにもグレンダにも、他の誰にもできなかった。

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― 新着の感想 ―
前回の遠征の時も思いましたけど、十分準備して挑む陣地戦で攻勢側の被害が異常に少なくないですか?開けた場所を殆ど無防備で取り付きにくるのだから桁が一つ多くとは言わなくても相応に打撃が入ると思うんですが。…
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