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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第五章 うちの村だけは幸せであれ

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第120話 大首長の野心

 ダリアンデル人連合軍を撃破した後、純粋派ノーザーランド人の軍勢はダリアンデル地方南西部を蹂躙していた。

 ルーザス平原の戦いにおいて、後方の野営地を守ろうと最後まで抵抗した南西部ダリアンデル人の軍勢は、ほとんど壊滅に近い損害を負ったものと思われた。後のない状況で無理をしてかき集めたであろう兵力を失った南西部ダリアンデル人に、もはやまともに抵抗する余力はない。純粋派は好きなだけ村を襲い、異教徒を殺し、あるいは捕らえ、金目のものを掠奪できるようになった。


「ダリアンデル地方南西部は、全域が我らのものとなったも同然。被った損害を補って余りある勝利と言えるな」

「まさしく。かつての故郷に残る純粋派の同胞たち全員をこの地に呼び寄せても、皆に行き渡るだけの土地を確保することができた。新たな故郷における我らの権勢は、もはや揺らぐことはないだろう」


 大勝利から一か月ほどが経ち、南西部の東側までをも支配下に置いた頃。首長たちによる会談の場では、純粋派のさらなる躍進を受けて強気な言葉が飛び交っていた。


「同胞諸君の言葉通り、我らはこの地に確固たる権勢を築いた。ノーザーランドに残る数万の同胞をこの地に招けば、此度の戦いで神の下へと旅立った者たちに代わり、新たな戦力を得ることもできる。我らの勝利は間違いない……だからこそ、私はあえてここで諸君に提案したい。できる限り速やかに、東へのさらなる攻勢を仕掛けることを」


 大首長クラウダ・ファーランハウネが首長たちを見回しながら発言すると、それまで楽観に包まれていた一同の顔に、困惑の色が浮かんだ。

 新たに広大な土地を得て大量の奴隷も確保した以上、しばらくは穏やかな時間が続く。本土から残りの同胞を呼び寄せて土地と奴隷を分け与え、このダリアンデル地方南西部の全体に根を張り、戦いで負った傷と疲れを癒しながら力を蓄える時間を得られる。彼らがそう考えていたことはクラウダとしても想像に難くない。


「諸君が困惑するのも無理はない。だが、我々の未来のためにこそ、さらなる攻勢を急がなければならないのだ……普段は小さな領地に分かれて暮らし、脆弱極まりないダリアンデル人たちも、いざとなれば力を結集させて立ち向かってくる。弱き異教徒も、頭数が集まれば油断ならない敵となる。我々は此度の戦いでそれを学んだ」


 クラウダがさらに語り始めると、首長たちは相変わらず困惑の表情を浮かべながらも、指導者の考えに聞き入る。


「私もこれまでは、最初に上陸を果たした南西部より、徐々に支配域を広げていくべきだと考えていた。しかし此度の戦いを経て考えを改めた。まずは、ダリアンデル人どもが各地に築きつつあるという比較的大きな勢力がこれ以上統合され肥大化する前に各個撃破し、奴らの力を徹底的に削ぐことこそが肝要であると」


 言いながら、クラウダは大机に置かれたダリアンデル地方の地図を拳で力強く叩く。


「これは支配域を広げるためではなく、ダリアンデルの地に長らく巣食ってきた異教徒どもを駆除するための戦いだ。土地を占領する必要はない。まずは各勢力の中核を成すダリアンデル人有力者どもを抹殺し、その後は奴らの支配域で掠奪を行い、殺戮をくり広げ、ダリアンデル地方全域において奴らの人口をできる限り減らす。そうすれば、我々の子や孫の世代が育ち、この地に満ちていく上で、大きな助けとなることだろう」


 大首長の考えを聞いた首長一同の反応は様々だった。困惑したままの者もいれば、納得した様子で頷いている者もいた。割合で言えば、未だ困惑している者の方が多い。


「国を名乗るほどの大勢力を築いている南東部ダリアンデル人は、敵の中でもとりわけ厄介な連中と言える。此度の戦いを経て奴らも弱っているであろうから、回復の時間を与えることなく撃滅すべきだ……今年のうちに、まずはアルデンブルク王国を名乗る勢力の支配域を荒廃に追い込む。そして来年には、ノイシュレン王国と、御三家同盟と名乗る勢力を打ち破る」

「なっ……しかし大首長閣下」


 クラウダの掲げた目標を聞き、首長の一人が発言する。


「本土より同胞を呼び寄せるとしても、今年や来年のうちにはまとまった兵力の増強は叶わないでしょう。そして、先の連合軍との戦いにおける我が方の損害は、死者と重傷者を合計して一千に迫ります。現状では兵力の面で不安があるかと」

「確かに。さらに東へ攻勢を仕掛けるとなれば、むしろ兵力を増強することが望ましい。損耗を埋め合わせることも難しい状況となれば……」

「問題ない。その点についても計画を定めている」


 クラウダは薄く笑み、首長たちの示した懸念を一蹴する。


「改宗させた奴隷たちを戦力として使う。家族を人質とした上で男たちを戦わせる。逃げれば人質を殺すが、南東部を制圧するまで戦い抜いた者は家族共々奴隷身分から解放し、純粋派の同胞として迎えた上で土地をはじめとした財産を持つことを認める。そう約束すれば、果敢に戦う何千もの兵力が手に入る」

「……よろしいのですか? 奴らは改宗してから五年と経っていません。本来の計画では……」


 また別の首長が問うと、クラウダは迷わず首肯する。


「聖戦に参加し、自らの血をもって唯一絶対の神への忠誠を示す。これは数十年の奴隷労働にも勝るラクリナレス教への貢献と言えるだろう。邪教信仰を捨てて我らの同胞となる上で、これに勝る禊はあるまい」

「……大首長閣下の仰る通りですな。聖戦を戦い抜いてみせる奴隷がいれば、それはラクリナレス教徒へと生まれ変わった証左となりましょう」


 疑問を語った首長は、納得した様子でそう語った。


「今年中の兵力の補充は叶うとして……その後は大丈夫でしょうか。閣下の仰る通り、ダリアンデル人たちはいざとなれば寄り集まって大軍勢を作ることもあると分かりました。となれば、我々の進撃を阻むために奴らが再び連合軍を結成する可能性もあるのでは? 北西部ダリアンデル人は別のノーザーランド人一派と対立しているので今は無視できるとして、北東部や南端地域の連中が、南東部ダリアンデル人と手を組む可能性も……」

「左様、奴らが大人しく我々の進撃を待ち、各個撃破されてくれるとは限りません」

「今はダリアンデル人同士でも争いが起こっているようですし、先の戦いでは連合軍参加に消極的だった勢力も多いようですが、追い詰められれば奴らも政治的なしがらみを乗り越えて団結することもあり得るかと」


 首長たちから次々に意見が語られる。こちらがさらなる攻勢を成すことが刺激となり、ダリアンデル人のより大きな団結を誘うのではないか。それが、皆の最大の懸念事項のようだった。


「確かに、その可能性はある。複数のダリアンデル人勢力が手を組み、我々の進撃を阻むこともあるかもしれない。先の連合軍よりも大規模な軍勢が立ちはだかるおそれもある……だが、我々には最大の有利が常にある。唯一絶対の神の御加護だ」


 そう言って、クラウダは笑みを深める。


「先の戦いでは、まさに奇跡のような出来事が起こった。尋問した捕虜の話では、敵軍主力の中央を指揮していたアルデンブルク王が、自分の兵に殺されたという。その結果、我々の突破口が開けた。これこそ、我々の奮戦に神が応えてくださった証左だ。我々の聖戦を神が祝福なさっていることの動かぬ証だ。神は我々に伝えているのだ。このまま進撃を続けるようにと」


 クラウダの言葉を聞きながら、多くの首長たちの顔から困惑の色が消えていく。


「我々が聖戦に邁進する限り、神の御加護は常にあり続けるだろう。我々の聖戦を邪魔する異教徒たちは瓦解し、骸と化すことだろう。我々は神と共にありながら進撃を続け、この地に巣食う邪教とそれを信仰する愚か者たちを打ち倒し……そして、偉人となるのだ。一代にしてダリアンデル地方全土の敵を掃討する偉業を成し遂げれば、我々の名は同胞たちの記す歴史に永遠に刻まれる。この世における役目を果たした後、我々は神の御許で永遠の存在となるのだ」


 語りきったクラウダは、己の説得が成功したことを理解した。首長たちの大半は、もはや困惑ではなく期待に満ちた表情を浮かべ、感嘆しながら大首長を見ていた。

 未だ納得していない様子の者も、大多数がクラウダに共感しているこの場の空気の前では、異論を挟みかねている様子。それでもいいとクラウダは考える。行動さえ起こせば神の加護のもとに結果が伴い、未だ懸念を抱いている者たちも納得するはずだと、そう確信している。


「他に、何か言いたいことがある者はいるか?……よかろう。では、さらなる攻勢に向け、各自の役割を果たしてもらいたい。苦労をかけるが、これも聖戦を成すため。同胞諸君のさらなる献身に期待している。神は我らと共にある」


 クラウダはそう語り、会談を締めた。


・・・・・・


 会談を終えた日の深夜。純粋派の軍勢が拠点としている城の一室。若き首長ヴァルナー・メイエランデルは、幾人かの首長と非公式の会談の場を設けていた。


「ヴァルナー首長。貴殿から大首長閣下に進言を為してもらうことは難しいだろうか?」

「……申し訳ないが、今は私が何を言っても閣下のご意見は変わらないだろう」


 首長の一人に問われ、ヴァルナーはそう答えながら首を横に振る。

 集っている首長たちは、大首長クラウダの先ほどの言葉に最後まで納得することのなかった少数派の面々。彼らとこうして密談じみたことをしているヴァルナーも、すなわち攻勢反対派とでも言うべき彼らの同類だった。


「そうか……閣下の側近の立場にある貴殿でも説得できないとなれば、今は何をしても無駄か」


 問うてきた首長は嘆息し、他の者たちも落胆を見せる。彼らのその様を前に、ヴァルナーは無力感を覚える。

 この数年で、クラウダは徐々に変わってきた。先の戦いで大勝利を成してからはその変化がさらに加速している。彼の側近の一人として傍に立ちながら、ヴァルナーはそう感じていた。


 表向きは今もなお穏やかな言動を見せているが、時おり尊大さを垣間見せることがある。おそらくは、大首長としてあらゆる場面における決定権を握り、それを神より与えられた己の使命であり権能であると考えて生きるうちに、彼の気質そのものが変化している。権力は人間を変えると言うが、クラウダほど生真面目で理性的な人物でもその例に漏れないようだった。

 そして、彼は聖戦において結果を出すことを急いている。その裏には神への忠誠心ももちろんあるのだろうが、おそらくは彼自身の望み――己の生きているうちに圧倒的な偉業を成し、ラクリナレス教における聖人として列聖されるという、野心と呼ぶべき感情がある。彼が明言するのを聞いたわけではないが、そのような野心を匂わせるような発言は何度か耳にした。

 本来は数代をかけてダリアンデル地方の異教徒たちを打ち破る展望だったところ、先の戦いで起こった奇跡とその結果得られた大勝利によって、己が生きているうちに聖戦の大きな一区切りを迎えることができるかもしれないという希望をクラウダは持った。その希望が糧となり、彼の気質の変化も相まって、彼の心の内に個人的な欲を育てた。ヴァルナーはそう推測している。


「……大首長閣下は、これまで確かな成果を示してこられた。進撃を続けて勝利を成す限り、純粋派に大きな利益があることも確かだ。神の御加護を信じ、聖戦に臨む。それが今の我々に与えられた唯一の選択肢だろう」


 半ば諦念を抱きながら、ヴァルナーはそう語った。己に言い聞かせるように語りながら、しかし己の言葉を信じきることは難しい。

 神は努力し結果を出した者にこそ祝福を示すとヴァルナーは信じているが、クラウダは神の祝福があるからこそ成果を得られると信じきっている。功績を成したからこそ神から使命を賜ったにもかかわらず、神に選ばれたからこそ功績を成せると信じてしまっている。

 その考えのまま不安定な決断をするクラウダを、しかし止められる者はいない。彼がその求心力をもって多数派の支持を得ている限りは止められない。下手に反対意見を示せば、さすがに殺されるようなことはないだろうが、発言力や首長としての地位を奪われることもあり得る。

 良くない状況だ。そう感じながら、ヴァルナーに成す術はない。

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うーんこの大首長邪悪すぎる
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