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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第五章 うちの村だけは幸せであれ

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第119話 現状確認

 ミカ率いるヴァレンタイン軍は、戦いにおいては数人の負傷者を出したのみで、幸いにも全員が故郷への生還を果たした。

 しかし、ミカにとって明るい帰還とはならなかった。妻アイラの父、子供たちの祖父であるパトリック・ヒューイット卿の戦死を伝えるという重い役目を抱えていたが故に。

 帰路もヒューイット軍と共に進み、さらには北の街道の混雑を厭ったサンドラ・ユーティライネン侯の率いる軍勢も同行してくれたため、ミカがヴァレンタイン領に到着してアイラに悲報を伝える際は、アイラが子供の頃から見知っているヒューイット家の家臣たちや、アイラの従姉にあたるサンドラも共にいてくれた。

 とはいえ、悲報を直接伝える役目は夫の自分が果たさなければならない。愛する妻が悲しむと分かった上で彼女の父が散ったことを語り、泣き崩れる彼女を抱き留めるのは、ミカにとって今回の戦いで最も辛い仕事となった。


 帰還の翌々日。ヒューイット軍とユーティライネン軍が一日の休息を挟んだ後にヴァレンタイン領を発つのを見送ると、ミカは家臣たちを集めて話し合いの場を開く。もうしばらくは戦い疲れた心身を休ませるとしても、今後の方針だけはできるだけ早く定め、領内の各方面に指示を出さなければならない。そう考えたからこそ、未だ疲れきっている身体に鞭打って領主の務めに臨む。


「アイラ、やっぱりまだ休んでいてもいいんだよ? 話し合いではどうしても今回の戦いや今後の戦いについて触れることになるし、そうなると君にとって負担になるだろうから……」

「……いいえ、大丈夫よ。私は領主夫人なんだから、大切な話し合いの場につかないわけにはいかないわ。それに、現実としっかり向き合った方が、お父様の死を乗り越えることにも繋がるはずだから」


 領主夫妻の私室で身支度を整えていたアイラは、ミカの提案にそう答え、微笑を作ってみせる。

 ミカとしてはこの数日寝込んでいた彼女が心配だったが、彼女がこう言うのであればその覚悟を受け入れるべきだと考え、微笑を返す。


「分かった、それじゃあ一緒に行こう。もし話し合いの途中で具合が悪くなったりしたら、すぐに僕に言ってね」


 そう語り、化粧台の椅子から立ち上がる彼女の手を取り、二人で広間へ向かう。

 広間の大テーブルには既に主だった家臣――ディミトリ、マルセル、ヨエル、ジェレミー、ルイスが集まっていた。立ち上がって領主夫妻を迎えた彼らに軽く手を掲げ、座って楽にするよう伝えると、ミカもアイラと共にテーブルの上座につき、そして話し合いが始まる。


「――今回の連合軍との戦いで、純粋派ノーザーランド人たちも相当の損害を負ったはずだよ。遠いノーザーランドから海を渡ってくる以上、ダリアンデル地方に入植してる彼らの数が急増することは考え難いし、穏健派ノーザーランド人たちの話では純粋派の総数にも限りがある」


 まずは今回の戦いの結果をあらためて語って状況を整理した上で、ミカは家臣たちを見回しながら言う。


「そして、こっちの陣営に関して言えば、ノイシュレン王国の国力は未だ保たれているし、南の御三家同盟も少ない損害でこの戦いを終えた。王家は他の勢力――北東部のダリアンデル人たちや南端地域の大領主たちにも引き続き共闘を呼びかけるらしいから、これらの勢力が力を合わせれば戦力的には十分に有利を得られる。今回敗けた最大の要因は、アルデンブルク王が重要な局面で暗殺されたことだから、次の戦いではそうそう同じような不運には見舞われないはずだよ。だから、状況は必ずしも悪くない。ダリアンデル人たちがもう一度連合軍を結成するために、各勢力が話し合って政治的な調整をする猶予が得られれば、純粋派ノーザーランド人たちを今度こそ撃滅して平穏を取り戻せる」

「……となると、その猶予を得るための努力が重要となるわけですか」


 発言したのはヨエルだった。ミカは彼の言葉に頷き、話を続ける。


「そうだね、連合軍再結成の目途が立つのが早いか、純粋派ノーザーランド人たちが態勢を立て直して支配域をさらに広げ、ノイシュレン王国の領土まで攻め込んでくるのが早いか、そういう話になる。とはいえ、純粋派がこっちまで支配域を広げるには何年もかかるだろうから、普通に考えれば他の勢力と足並みを揃える時間は十分以上にあるはずだよ……まあ、連合軍の再結成のために各勢力と話し合うのは王家や侯家の仕事だから、うちみたいな小領主家に関与の余地はない。だから僕たちがやるべきことはあんまり変わらないかな。ノイシュレン王国の国境地帯の一角を支える領主家として、領地の安定を保ち、補給拠点としての食料生産に努める。そのために、地道に領地運営に励むんだ」


 そこまで語ったミカは、自身の前に置かれたお茶を飲んでひと息吐くと、再び口を開く。


「そして、万が一のときの備えにもしっかり臨む。もしも連合軍の再結成より早く純粋派ノーザーランド人が侵攻してきたら、ノイシュレン王国は守勢に回ることになるから、国境地帯を守り抜いて敵を退けないといけない。敵は最初から全力の大攻勢を仕掛けてくるんじゃなくて、掠奪や嫌がらせ、こちらの国境防衛体制を試す威力偵察のための兵力を送ってくるかもしれないから、そういう場合にも即座に迎撃できるようにしないといけない。だからこそ、直接的な戦闘に備えて即応体制を築いていく必要がある」


 話題が戦いに関することへと移ったからか、家臣たちの間に漂う緊張感が一段強くなるのを感じながら、ミカはあくまで冷静に語る。


「もちろん、ユーティライネン家をはじめとした周囲の領主家も国境地帯の守りを固めるために努めるだろうけど、国境防衛体制の重要な一角を成すコレット砦の東隣にいる僕たちは、より一層頑張らないといけない。砦を突破されたら真っ先に危険に曝されるわけだからね……もし砦が落ちても、このヴァレンタイン領を最終防衛線として守り抜けるくらいの備えを為さないと。これまで進めてきた村の防衛力強化を、急いで完遂するんだ」


 ミカはこの数年をかけて、村の規模を拡大させつつ、その周囲を囲む防衛設備として丸太柵と空堀の建造を少しずつ進めてきた。いつか来るかもしれない危機への備えだったが、結果的には地道に取り組んできて正解だった。丸太柵も空堀もまだ完成してはいないが、一から計画を立てて作り始めるよりはずっと楽な状況と言える。


「僕は念魔法を全力で活用してコレット砦やうちの村の防衛力強化に努めるし、家臣の皆にも手助けを求めることになる。これからまた忙しくなるだろうけど、皆で力を合わせて乗り越えよう。僕たちの家族や財産が無事であり続けるために。この村が幸せな場所であり続けるために」


 ミカが家臣たちを見回して言うと、一同は力強く応え、頷いてくれた。

 隣に座るアイラに視線を向けると、彼女も気丈な態度で頷いた。

 彼女は柔和で優しい女性だが、ミカと出会うまでは理解者もいないまま黒い装束とぬいぐるみのアンバーを守り抜いてきたように、芯の強さも持ち合わせている。だからこそ、油断ならない現状を認識したことで、気持ちを切り替えて悲しみに一区切りをつけることができたのだろう。

 やはり彼女にも話し合いの場に同席してもらってよかった。そう思いながら、ミカは愛する伴侶に頷き返した。

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― 新着の感想 ―
 戦線崩壊の原因が味方だと思っていた人間によるものだから不穏分子の確認でそれどころじゃなさそうな気もするがどうなんだろう?ミカ達も静粛とかしているから怨み持ちは居そうだし一度でも行われた手段は模倣され…
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