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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第五章 うちの村だけは幸せであれ

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第112話 街道防衛戦②

 一斉攻撃を受けた敵兵たちは、見るも無残な有様となった。バリスタから放たれた極太の矢が数人の敵兵をまとめて貫き、地面に落ちて炸裂した火炎が周囲にいた不運な者たちを焼き、弓から放たれた長い矢とクロスボウから放たれた短い矢が敵の隊列を薙ぎ払った。敵兵たちは民兵も含めて盾を――ノーザーランド人に特有だという菱形の木製盾を持っているが、丸太を投げ込まれた混乱で大半の者が隙を見せており、そこへミカたちの攻撃が直撃したかたちとなった。


「ぎゃあああっ!」

「ぐわっ!」

「痛え! 助けてくれぇ!」

「熱い、熱いぃ!」


 敵軍の先頭集団から起こった悲鳴や断末魔の叫びの激しさは、ミカたちの陣地まで届くほどだった。数十人が死傷して倒れ、運良く攻撃を受けなかった者たちも動揺に固まったり、負傷した仲間を後退させようとして周囲の者たちとぶつかったりと、ますます混乱している様子だった。


「皆、この隙を逃さないように! 各々の判断で攻撃してよし!」


 言いながら、ミカは後ろに置かれていたバリスタを念魔法で持ち上げ、既に弦が引いてあったそのバリスタの台座にジェレミーが矢を置いたことを確認し、敵軍の方へ向けて引き金を引く。

 細かな狙いをつけずとも、街道にひしめく敵の群れに矢を放てば誰かには当たる。戦果を確認することもなく、ジェレミーをはじめ数人の領民の補佐を受けながらバリスタの弦を引き、二本目の矢が装填されたバリスタを再び敵に向けて引き金を引く。

 そうしてミカが射撃をくり返す隣では、アランもジョンの背に載せたバリスタから次々に矢を放つ。彼の方も、普段から自身の補佐や護衛を担っているらしい数人のモーティマー領軍兵士たちと連携し、慣れた様子で射撃と装填をくり返す。さらに二人の後ろからは、火魔法使いが次々に火炎を放つ。


 ミカたち魔法使いたちの左右では、弓兵やクロスボウ兵が矢を放ち、敵軍にさらなる損害を強いる。この攻撃をより効果的なものにするために、毒魔法使いも大きな貢献を見せている。

 毒魔法はその名の通り、水などの液体に魔力を注ぎ、毒性を付与する魔法。相当な魔力と時間をかけて魔法を発動すれば致死的な毒を作り出すことさえできるというが、大抵の場合はそこまで強力なものではなく、体内に入ったらしばらくの間身体が自由に動かなくなる痺れ薬のようなものを作り、狩りや戦闘に用いることが多い。

 今回ミカの部隊にいる毒魔法使いも、この痺れ薬を作る役割を担っている。桶に溜めた水をこの魔法使いが痺れ薬に変え、そこへクロスボウの矢――通常のものより細い矢の先端が浸され、一部のクロスボウ兵たちはこの矢を数本まとめて台座に載せ、撃っている。一度の攻撃で複数の矢が広範囲に飛翔し、この矢に当たった敵兵は大した怪我は負わないが、痺れ薬によって身体が麻痺して数時間は戦闘不能になる。これは敵を殺傷するためでなく、少ない手数でできるだけ多くの敵を無力化することで、敵軍に負担を強いるための戦法。


 正面から猛攻を受ける敵軍に対して、さらに西の側面からも攻撃が加えられる。

 街道から見て左側、険しい斜面の上のある程度なだらかな場所にいるのは、数人の肉体魔法使いたち。そして彼らの前にあるのは、山のように積み上げられた大量の石。大ぶりな石の山は、ヨエルの土魔法によって築かれた土塁が滑り止めの役割を果たし、そのまま急斜面の方へ転がり落ちないようになっていた。

 急斜面の下に敵の群れがひしめいている今、ヨエルは滑り止めの土塁を魔法で崩し、さらに肉体魔法使いたちが石の山を後ろから押す。正面の支えを失い、押されてバランスの崩れた石の山は、勢いよく崩壊して急斜面を転がっていく。山の上の方にあった一部の石は、斜面を転がることなく敵兵たちの頭上にそのまま落ちていく。


 合計で何百という石が、重力の助けを受けて殺傷力を増し、敵軍の隊列の横腹を突く。拳ほどの大きさから人間の頭ほどに大きなものまで、大量の石が雨のように降り注ぎ、敵兵たちを襲う。

 迫ってきた石に頭を割られ、顔を潰され、腕や胴体を打たれ、足を折られ、何十という敵兵が新たに倒れる。物理的な損害を受けた先頭集団はもちろん、その後ろにいた敵兵たちまでもが、無防備な側面のさらに無防備な上方向から大規模な攻撃が放たれたという事実を前に混乱する。

 側面攻撃の役目を終えたヨエルと肉体魔法使いたちが、こちらと合流するために移動を開始する様を認めながら、ミカはバリスタによる攻撃の手を止めない。


「こっちが敵を圧倒してるよ! このまま追い返してやろう!」


 ミカが呼びかけると、部隊の皆から威勢の良い応答が返ってくる。

 見たところ、既に敵側の死傷者は五十人を超えている。敵別動隊は総勢で千人ほどにもなるという報告だが、その全てを無力化する必要はない。敵兵たちの士気を完全に挫き、街道の通過を断念させるだけの損害を強いればいい。

 一方的な遠距離攻撃によって、こちらが損害を受けることなく勝利を収めたい。この調子であればそれも叶うかもしれない。

 ミカはそう期待するが、しかしやはり、事はそれほど都合よくは進まない。敵側もそれほど甘くはない。


 最前列の肉体魔法使いを無力化され、後ろに並ぶ敵兵たちは見た目こそ屈強な者が多いが、装備からして民兵と分かる者ばかり。そんな有様で混乱していた先頭集団のさらに後方から、新たに一団が進み出てくる。

 その一団は、民兵と比べて明らかに上等な装備を纏っていた。革鎧や鎖帷子を身につけ、鉄製の兜を被っている者もいる。おそらくは、ノーザーランド人の領主――彼らの間では首長と呼ばれているらしい指導者層と、その家臣である職業軍人たちか。

 重武装の集団の中心にいた、派手な毛皮のマントを纏った男が、何やら大声で敵兵たちに呼びかけている。彼はどうやらこの別動隊の指揮官で、味方を鼓舞しているようだった。

 混乱していた敵兵は、指揮官の呼びかけを受けて見る見るうちに態勢を立て直す。士気が簡単には崩れないあたり、信仰によって結束している集団は恐ろしいとミカは考える。


 さらに、指揮官と彼を取り巻く職業軍人たちの後ろには、弓兵部隊と思わしき集団がいた。素早く整列した弓兵たちは、指揮官の号令を受け、ミカたちの陣取る森へ向けて弓を構え、一斉に矢を放つ。

 味方の風魔法使いが防御のために突風を放ち、敵の矢の一部はその突風によって弾き落とされ、あるいは軌道が逸れて明後日の方向へ飛んでいく。しかし一人の風魔法使いが自陣の全体を守ることは難しく、一部の矢はそのまま降り注ぐ。ミカたちの頭上は重点的に風で守られたが、左右に並ぶ弓兵やクロスボウ兵たち、そして接近戦に備える後方の騎士や兵士たちは矢に襲われる。

 最初の一斉射による味方の損害は僅か。よほど運の悪い数人が矢を受けたのみ。しかし敵の弓兵は次々に矢を放ち、こちらの陣地には散発的に矢が降ってくる。矢が一塊になって飛んでくるわけではないため、風魔法使いはかえって防衛に難儀することになる。

 敵の弓兵の数自体が少なく、狭い街道に大勢が展開することは難しいため、飛んでくる矢の数には限りがある。おまけにこちらは森の中に陣取っているため、降り注ぐ矢の一部を木々が受け止めてくれる。それでも、次々に矢が降ってくる状況に弓兵やクロスボウ兵たちは怯み、こちらから敵軍目がけて放たれる攻撃の勢いは多少衰える。


 その隙を逃さず、敵軍は動きを見せる。指揮官の号令のもと、未だ無事な敵兵たちが街道を前進してくる。敵がこのまま街道を北進し、街道の西側と比べればまだ傾斜が緩やかな東側の斜面を上ってくれば、その斜面上の森に陣取るミカたちは右側面や後方へ回り込まれてしまう。

 さらに、敵軍の隊列後方にいた敵兵の一群が、街道東側の斜面を上ってミカたちの陣地の左側面へ回り込もうと動き出す。それだけでなく、敵指揮官を囲んでいた職業軍人の一部と彼らの率いる敵兵の一群が、ミカたちの正面から斜面を上ってくる。

 遠距離攻撃でこちらを怯ませた上で、複数方向から兵を前進させてこちらの陣地を包囲しようと試みる。敵ながら巧みな指揮だった。


「ヴァレンタイン卿! これは少々危険な状況かと!」

「ですね、近づいてくる敵を潰さないと……肉体魔法使いの諸君は、兵士十人を連れて街道に降りてください! 敵が街道を進むのを防いで!」


 ミカの指示を受け、街道西側の斜面から陣地へ帰還していた肉体魔法使い数人が、敵の前進を阻むために十人の兵士と共に街道へ降りていく。


「それと、アランさんは事前の作戦通り、三十人を連れて左翼側へ回ってください。敵が斜面を上って回り込んできたら迎撃を!」

「了解です! いざとなったらジョンを暴れさせてやりますよ!」


 アランは答え、バリスタ射撃の補佐をしていた部下たちと、弓兵やクロスボウ兵に加えて白兵戦力まで伴いながら移動していく。身を伏せていたジョンものそりと起き上がり、バリスタを背負ったまま、その重さを苦にする様子もなく主人についていく。

 こうして左右に回り込もうとする敵兵への対処を定めた後、ミカ自身は、正面から迫りくる敵兵と、今もなお矢を放ってくる敵弓兵部隊の迎撃に臨む。

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