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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第五章 うちの村だけは幸せであれ

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第108話 待機

 ダリアンデル地方南西部は、西の沿岸部に幾つかの良質な港湾都市を持ち、さらにはダリアンデル地方の外と平原で繋がる南端地域と隣接していることもあり、交通流通の要地として繁栄を遂げてきた。東西に通る街道、その周辺地域を中心に発展してきた。


 そんな南西部の情勢が一変したのは、聖暦1047年の晩春のこと。海を越えて西の方にあるノーザーランドより軍勢が襲来し、港湾都市をひとつとその周辺を征服した。ノーザーランド人の中でも、彼らの信仰するラクリナレス教を殊更に絶対視する純粋派と呼ばれる一派が、故郷を追われるようにして、なおかつラクリナレス教徒で世界を満たす聖戦に臨むため、ダリアンデル地方を自分たちの新天地と見込んで入植を開始した。

 それから三年をかけて、純粋派ノーザーランド人たちは故郷ノーザーランドから同胞を呼び寄せて数を増やしながら、支配域を広げた。元々の住民であるダリアンデル人の領主層を駆逐し、民を虐殺し、あるいは捕らえて改宗を強制した上で奴隷化した。ラクリナレス教徒のみが人間として生存を許されると考える彼らと対話を為す余地は、ダリアンデル人にはなかった。


 そして、聖暦一〇五〇年の春。純粋派ノーザーランド人が南西部の過半を征服した頃、危機感を募らせていたダリアンデル人の一部が立ち上がった。ダリアンデル地方南東部の西側、ダリアンデル地方全体で見てちょうど中心の辺りに位置する新興国家アルデンブルク王国の主導により、連合軍を結成して純粋派ノーザーランド人を打倒する動きが起こった。

 ダリアンデル地方南西部のうち未だダリアンデル人の社会が残っている地域の領主たちと、南東部と北東部の各勢力が参加することとなったこの連合軍は、三月の下旬より南西部の東側に集結を開始。小領主ミカ・ヴァレンタインも、自領が属するノイシュレン王国の軍勢の一員として、手勢を率いてこの集結地点に向かった。

 ミカの率いるヴァレンタイン軍は、義父パトリックの率いるヒューイット軍と共に、四月の初頭には集結地点へと到着。野営地の中でも他のノイシュレン王国領主たちの手勢が集まっている一角へ天幕を並べ、連合軍の集結完了まで待機に入った。


「それにしても、暇ですよねぇ。訓練をするほかは、こうして皆でお喋りするくらいしかやることがないですし」


 到着から数日が経ったある日の夕方。見知った領主たちと焚き火を囲みながら、ミカは気の抜けた顔で言った。

 参戦する各領主家の手勢が到着するのを待つばかりの日々は、退屈だった。戦闘を想定して家臣や民兵たちと陣形訓練をしたり、彼らの補佐を受けつつ連射式クロスボウやバリスタの操作をする訓練をしたりすれば時間はある程度潰れるが、気力や体力、ミカの場合は魔力も消耗し過ぎてはよくないため、そうした訓練も朝から晩までするわけにはいかない。

 となると、残りの時間は家臣や民兵たちと語らったり盤上遊戯などをしたりして遊ぶか、こうして友人と言える領主たちのもとを訪ねて雑談に興じるか、それくらいしか選択肢がない。


「卿はまだいいではないか。念魔法使いとして、大きな天幕の設営やら重い物資の運搬やらで頼られることがあるのだから」

「そうよ。暇を潰して感謝もされて、ちょっとしたお礼までされるなんて羨ましいわ。それも魔法使い様の特権ということかしら」


 ミカのぼやきに答えたのは、ヴァレンタイン領の東に領地を持つピエール・フォンタニエと、かつてミカに敗北したレイモンド・ハウエルズを打倒して家督を手にした当代ハウエルズ卿。焚き火を囲んでいる他の領主たち――かつてモーティマー家の軍勢に立ち向かった際に共闘した者や、ピエールの主催した詩を詠む集会に共に参加した者などが、そうだそうだと同調する。


「まあ、確かにそうですけどぉ……どの仕事も大して時間は潰れませんし、結局は皆さんとそんなに変わらないですよぉ」


 昼間はそれなりに暖かいが、夜が近づけば冷え込む日も多い春。焚き火の熱を心地よく感じながら、ミカはため息交じりに言う。

 バリスタやカタパルトといった大型兵器を分解して持ち込んでいるユーティライネン侯家をはじめ、ノイシュレン王国の候家やときには王家からも念魔法を用いた力仕事を頼まれるミカは、手間賃を兼ねて高い酒やら新鮮な肉やらを受け取っている。ミカはそれを家臣や民兵たちと分け合い、おかげでヴァレンタイン軍の野営はなかなか快適で贅沢なものとなっている。


「おーい皆ぁ!」


 そのとき。明るい声を発して手を振りながら近づいてきたのは、ミカの友人と呼ぶべき領主ローレンツ・メルダースだった。ミカのみならず自領周辺の領主たちと良好な関係を築き、最近はユーティライネン家との付き合いも深めている社交的な有能領主は、人好きのする笑みを浮かべながらミカたちの輪に加わる。ミカの隣に腰を下ろし、ふぅ、と息を吐いて焚き火に当たる。


「メルダース卿、お帰りなさい。また何か新しい情報が集まりましたか?」

「ああ、もちろんだとも。今回の話はただ暇潰しになるだけでなく、なかなか有益なものだぞ。愉快な話とは言えないがな」


 ミカが尋ねると、ローレンツは頷きながらそう言った。社交的な彼は暇潰しがてらに野営地の中を歩き回り、余所の勢力の領主たちや、軍勢への補給を担っている各家の御用商人たちににこやかに近づいては雑談し、色々な情報をミカたちのもとへ持ち帰ってくれている。


「野営地に出入りしている商人たちだが、彼らは単に補給を担うだけでなく横の繋がりを作って情報交換もしているようで、結果として彼らの話を聞いているうちに、この連合軍の全容も見えてきた……噂によると、参戦を決めた各勢力の兵力集めの熱心さには差がある。北東部の連中が援軍の頭数を出し渋っているのは既知のこととして、その他の陣営も、人口に対する動員兵力の規模にかなりの差がありそうな様子だ」


 人付き合いを得意とするローレンツは、話をするのも上手い。彼の語る興味深い話に、ミカたちは聞き入る。


「残念ながら、我らがノイシュレン王国は熱心な部類とは言えないな。十万を超えるとも言われる人口から考えると、全力を出して動員しているとは言い難いようだ。王家や侯家は大動員と言うべき兵力を伴っているが、中小領主家に関しては、明らかに兵力を出し惜しみしている家も多いらしい。そして南の同盟勢力……御三家同盟と言ったか? あの連中も、あまり兵力を出すつもりがないらしい」


 ダリアンデル地方南東部の南側に勢力圏を持ち、ノイシュレン王国とアルデンブルク王国と並んでいる第三勢力は、ランゲンバッハ家をはじめとした三つの大領主家による同盟に他の中小領主家が従属するかたちをとり、自分たちを「御三家同盟」と称している。

 人口規模としては南東部で最も小さく、そのため戦力として大きな期待を持たれているわけではないが、とはいえその御三家同盟も兵力を出し惜しみするというのであれば、一人でも多くの兵力が欲しい連合軍としては喜べない話だった。


「一方でアルデンブルク王国は、地勢的に純粋派ノーザーランド人の脅威をより大きく感じているのか、かなり気合の入った動員を為すようだ。人口ではノイシュレン王国より一回り以上も少ないはずだが、動員兵力ではこちらを上回りそうな様子らしい。そして南西部領主の生き残りたちに関しても。彼らの方は、現実的な限界に近い動員を為すつもりらしい……以上が、連合軍の各陣営の実情だ。あくまで推測だがな」

「……予想はしていたけれど、なかなか足並みが揃わないものね」


 ローレンツが語り終えると、ハウエルズ卿がため息交じりに言った。


「まあ、未知の規模の大戦となる以上、結果もどうなるか読めないですし、そこまで追い詰められてないうちから全力を投入して致命的な損害を負うのは皆怖いんでしょうけど……多分、僕たちはノイシュレン王国領主の中では真面目に動員した方ですよねぇ」

「我々はノイシュレン王国でも西の国境地帯に領地が近く、他の地域の領主たちよりも危機感を募らせているからな。王国領土のもっと東側に自領があったらならば、私もこれだけの動員を為したかは分からない」


 ミカの言葉に、ピエールが複雑な表情で答える。フォンタニエ家は今回、およそ五百人の人口に対して二十人もの兵力を動員している。


「加えて言えば、東の方に暮らす領主ほど、この南西部の集結地点まで手勢を連れていく負担が大きいという事情もあるからなぁ。その点は彼らに同情するが……動員人数が各領主家の裁量に任されているために、いざノイシュレン王国として軍勢を集める際に規模が安定しないことは、今後の大きな課題だろうな。解決方法は王家や侯家の方々がお考えになることだが」


 ローレンツが腕を組みながら言い、一同もそれに同意を示す。

 ミカやローレンツなどは政治的な存在感を高めているとはいえ、それでもこの場で語らっている者たちは皆、中小領主の部類。自分たちにできるのは自家の力の範囲内で状況に対応しようと奮闘することだけであり、国全体、ましてやダリアンデル地方全体に影響を及ぼす行動などできない。


 その後も皆で焚き火を囲んで雑談を交わしながら、時間は過ぎていく。

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