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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第四章 新たな時代

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第99話 気になる噂(ダリアンデル地方全体地図あり)

最新の情勢を反映したダリアンデル地方の全体地図です。

茶色の線は山脈、青い線は河川、グレーの線は各地域の大まかな境目(厳密な境界線はなし)です。


挿絵(By みてみん)

 聖暦一〇四七年の夏。建国から数か月が経ったノイシュレン王国の社会は平穏を保っていた。建国前に反逆や対立の芽が摘まれたおかげもあり、大きな騒動もなく安定していた。

 王国領土の西端の一角に位置するヴァレンタイン領も、平和そのものだった。生活は王国成立の前から何ら変わることなく、ミカは家臣や領民たちと共に、領地のさらなる発展を目指して日々の仕事に邁進していた。


「ミカ様、アーネストさんが帰ってきました」


 ある日の午後。屋外で念魔法を活かしての家屋建設に勤しんでいたミカは、傍らに付き従っているディミトリの言葉を受け、東を振り返る。すると確かに、御用商人アーネストの乗る荷馬車がエルトポリからの帰還を果たし、村へと入ってくる様が見えた。


「おー、本当だ。今回も無事に帰ってきてくれてよかった」


 建設作業も一段落したところだったので、ミカはディミトリを連れ、アーネストを出迎える。長い移動を終えた彼に労いの言葉をかけ、そのまま共にヴァレンタイン城へ向かう。

 広間に通されたアーネストは、今回のエルトポリ訪問によって得た情報の報告を始める。


「最新の情勢について、いくつか重要な情報を得てまいりました。まずは、西のアルデンブルク王国に関してですが……モーティマー家を傘下に加えたそうです」


 アーネストの言葉に、ミカは片眉を上げて驚きを示す。

 モーティマー家は、ユーティライネン家の勢力圏から見て北西に領地を持つ大領主家。今よりおよそ三年前、家督争いによる困窮を理由に掠奪の軍勢を差し向けてきたが、ヴァレンタイン家やメルダース家をはじめとした各領主家の連合軍による激しい抵抗を受け、当主ベアトリス・モーティマーの目論見は失敗に終わった。

 帰路で自領周辺の中小領地からの掠奪を敢行したことで、一時の困窮を乗り越えることはできたものの、その蛮行のせいで周辺の中小領主家から警戒され、以降は孤立状態にあるという話を、ミカは後日談として聞いていた。


「孤立していたモーティマー家としては、アルデンブルク家の支援を受けることで苦しい状況を打破することを狙ったのでしょうが、その試みは上手くいったようです。モーティマー領を自国に取り込んだアルデンブルク王が、その周辺の中小領地にもアルデンブルク王国に与するよう求めたそうで、半ば脅された各領地は次々にアルデンブルク家の支配下に入ったとのことです。抵抗した領主家もあったそうですが、アルデンブルク家から兵を借りたモーティマー家によって容易に叩き潰され、その領地はモーティマー領に併合されたそうです」

「……モーティマー領を取り囲んで睨み合っていた中小領主家も、アルデンブルク家の支配下に入れられた以上、そのアルデンブルク家が兵を貸してまで庇護してるモーティマー家と今後表立って対立することはできない。これであの地域の緊張状態は強制的に解消されたわけか。周りの領主家に警戒されっぱなしの状況から脱した上に、アルデンブルク家の庇護と新たな領地を得たモーティマー家は、大領主家として見事に復活したね」

「まさしく仰る通りの話がエルトポリでも語られておりました。モーティマー家はアルデンブルク王国の重要な大領主家として、今後はますます力を増していくと商人たちから予想されているようです。それに伴ってアルデンブルク王国自体もさらに強くなるだろうと」


 モーティマー家からすれば、アルデンブルク王国という大きな枠組みに下ることで、力が衰えている状況から脱却できる。アルデンブルク家からすれば、新たに一地域を王国領土に取り込むことができる上に、モーティマー家という強い駒を得ることができる。両家にとって利益の多い取引だったことだろうとミカは想像する。


「これでアルデンブルク王国は、ダリアンデル地方南東部の西側一帯をほとんど全部征服したことになるわけか。単純な人口規模で見れば、もうノイシュレン王国に大きく見劣りしないね……武力を頼りに国を作るって聞いたときはどうなるかと思ってたけど、何だかんだでディートリヒ・アルデンブルク殿も上手くやってるよねぇ」


 一度だけ直に会った、勇ましさと狡猾さを内包した食えない男の顔を思い出しながら、ミカは腕を組んで言う。

 アルデンブルク王国がダリアンデル地方南東部の西側一帯を支配するとなれば、その人口はおそらく七、八万にもなる。人口十万に届くと言われるノイシュレン王国には敵わないとしても、人口数百から数千程度の領地が並び立っていたこれまでの時代から考えれば大した勢力と言える。


「南の方はどんな様子なの?」

「特に大きな動きがあったとは聞こえておりません。引き続き大領主家が周辺の中小領主家を傘下に取り込んでいるそうですが、建国宣言などはなされていない様子です」


 ノイシュレン王国の南西では、以前ユーティライネン家の勢力圏と争ったランゲンバッハ家をはじめ、いくつかの大領主家が同盟のようなものを組んで動いている様子だという。それらの家々が周辺の中小領主家を正式に従えたら、そこにも人口数万程度の勢力が誕生することになる。


「まあ、こっちの王家や侯家と違って、元々仲が良かったわけでもない大領主家の同盟なら、そう簡単に王を立てて国を作ることは難しいよねぇ。領主家が寄り集まって自衛を為すための枠組みっていう意味では、こっちの国と内実は大差ないだろうけど」


 この南の大領主家同盟については、規模拡大にも限界があるため、ノイシュレン王国からはそこまで危険視されていない。むしろ、ダリアンデル地方南端の大領地群とノイシュレン王国が直接境界線を接しないための緩衝地帯に利用できると見なされ、放置されている。

 今後ダリアンデル地方南東部には、東のノイシュレン王国、西のアルデンブルク王国、そして南の大領主家同盟の三つが並び立つものと予想されている。互いを仮想敵と見なすべき関係性だが、それぞれ誕生したばかりで未だ余裕がない上に、ダリアンデル地方北東部や南西部、南端の大領地群なども警戒しなければならないため、当面は大きな争いが起こる見込みはない。


「ダリアンデル地方北東部や南端地域の情勢については、引き続き大領主たちの勢力争いがくり広げられているものと思われます。情勢が落ち着いて勢力図が安定するまでには、今しばらくかかるようです」

「そっか……つくづく僕たちは幸運だったと思うよ。ノイシュレン王国っていう大きな枠組みがいち早く成立して、しかもヴァレンタイン家はその中で有利な立ち位置を得られたんだから」

「はい、まったくもって同感です」


 いくつもの領主家がまとまる動きを見せているのはこのダリアンデル地方南東部だけではなく、北東部でも主要な大領主家が国を作ろうとしたり、同盟を築こうとしたりする動きが見られるという。ただしいずれも、ノイシュレン王国を成立させようとしたサンドラの立ち回りと比べれば力任せであったり手探りであったりするようで、こちらのようにすんなりと勢力図が定まることは難しい様子。

 また南端の大領地群では、南の隣国の支援を受けている大領主家に対し、その他の複数の大領主家が手を組んで対抗する動きを見せているらしく、情勢は混迷しているという。さらに遠い地――ダリアンデル地方北西部や南西部に関しては、距離があるために情報があまり届かないものの、こちらと似たような情勢であると見られている。

 もはや時代がその場で足踏みをすることはないと思われる現状において、成立したばかりの未完成なものとはいえ、国という集団防衛の枠組みを手に入れた自分たちは恵まれている。そう思いながら、ミカは安堵の息を吐いた。


「それとひとつ、気になる噂が……ダリアンデル地方南西部の、西端の港湾都市で、何やら大きな騒動が起こったそうです。何でも、海を越えた西の地に住むノーザーランド人が、大挙して襲来したのだとか」


 ノーザーランド人。内陸部の人間であるミカも、ダリアンデル地方を訪れる主要な異民族のひとつとして、その名前だけは聞いたことがあった。


「それはまた凄い話だねぇ。都市を襲えるほどの規模で異民族が来たってこと?」

「はい。その港湾都市は奇襲を受けて陥落してしまい、住民や滞在していた商人のほとんどが殺されたそうです。逃げ延びた僅かな生存者が広めた噂では、ノーザーランド人の軍勢の規模は数百とも、数千とも、数万とも言われております」

「あははっ、数万はさすがに誇張されてるだろうね。そんな大軍、古の帝国でもなければ動員できないだろうし」


 ミカが苦笑を零すと、アーネストも同じ表情で頷く。


「私もそう思います。他の商人たちも同じ見解のようです。ただ、都市が陥落したとなれば、千人規模の軍勢が現れたのは本当だろうと言われています。おまけに、そのノーザーランド人の集団はただ襲撃と掠奪を行うだけでなく、陥落させた都市にそのまま居座っているらしく……」

「……千人規模でやってきたのなら単なる掠奪行とも思えないし、もしかしたらダリアンデル地方に住み着いて、自分たちの支配域を築くつもりなのかもね」


 沿岸部では昔から、異民族による小規模な襲撃などは度々行われているという。しかし、それらは掠奪を目的とした海賊行為のようなもの。そうではなく、もっと組織的で大規模で、土地の占領と定住を目的とした襲撃となれば、事の重大さは変わる。


「西の沿岸部の話なら、こっちに影響するのはまだずっと先のことだろうけど……今のうちから注意しておかないとね」

「はい。どうやらユーティライネン家もこの件に注目しているそうで、ユーティライネン閣下は傘下の商人たちに重点的な情報収集を命じられたとのことです」

「となると、何か重要な情報が入ったらこっちにも回ってきそうだねぇ」

「おそらくそうなるかと。私もエルトポリに赴いた際は、努めて最新の情報を集めます」

「うん、よろしく頼むよ」


 頼れる御用商人に微笑を返しながら、ミカは思案する。

 今はまだ、ノイシュレン王国にもこのヴァレンタイン領にも直接の関係のない話題。しかし年単位で見れば、噂されているノーザーランド人勢力が王国の存続を脅かす可能性もある。

 これから注視すべき事項として、ミカは今回の噂を頭の片隅に留め置く。

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