第9話: 心の確信
季節はゆっくりと冬に向かい始めていた。空気は冷たく澄み渡り、校庭の木々も色づき始めている。悠真と千夏の関係は、微妙なバランスの中で少しずつ変化を遂げていた。
悠真は以前よりも千夏を意識するようになり、彼女が何気なく発する一言や仕草に心が揺れることが増えていた。一方で千夏は、自分の告白が二人の関係に微妙な変化をもたらしたことを感じつつ、相手を無理に急かすことなく、静かにその時間を楽しんでいた。
冬の訪れと二人
ある日、学校で体育の授業が終わり、クラスメイトが寒さに震えながら教室に戻ってきた。悠真と千夏もその中に混じっていた。
「寒いねー、もうすぐ冬だね」
千夏が手をこすり合わせながらつぶやくと、悠真はふと彼女の手元に目をやった。
「手、冷たいだろ?」
悠真が思わず口にすると、千夏は少し驚いたように目を丸くした。
「うん、ちょっと冷たいけど、平気だよ」
そう言いつつも、千夏の頬がほんのり赤く染まる。悠真は自分が無意識に気を遣っていることに気付き、少し照れ臭そうに目をそらした。
(こんな風に千夏を気にする自分がいるなんて……前なら考えもしなかったのにな)
教室に戻る途中、ふと千夏が振り返って言った。
「悠真は寒さとか平気そうだよね。なんか、いつも強そうな感じだから」
「そんなことないよ。俺だって寒いし、弱いところもあるよ」
悠真の思わぬ返答に、千夏は優しく微笑んだ。
「そっか。そういうところ、悠真らしいかも」
その一言に、悠真の心が少しだけ暖かくなるのを感じた。
俊の視点
俊は教室の隅から二人のやり取りを見ていた。千夏が悠真に自然と笑顔を向ける姿、そして悠真がそれに気付かないふりをしながらも意識している様子。
(お前ら、もう少しで何か変わりそうだな)
俊は静かに席を立ち、廊下に出た。彼の中には少しの寂しさと同時に、幼馴染である二人の幸せを願う気持ちがあった。
(俺にできることは見守ることだけだ。それでいいんだよな)
冷たい廊下に差し込む夕日を見つめながら、俊はそっとため息をついた。
雪の予感
その翌日、天気予報では初雪の知らせが流れていた。千夏はわくわくした様子で悠真に話しかけた。
「ねえ、明日雪が降るかもしれないんだって!」
「雪か……今年はまだ早い気がするけどな」
悠真は淡々と答えたが、千夏の目が輝いているのを見て、自分も少しだけ楽しみになっていた。
「もし雪が降ったら、一緒に歩こうよ。放課後、またここで待ってるから!」
千夏の無邪気な提案に、悠真は少し戸惑いながらも頷いた。
「わかった。もし本当に降ったらな」
雪と二人
翌日、予報通り小さな雪が舞い始めた。放課後、千夏は校門の近くで悠真を待っていた。彼が現れると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「本当に降ったね!」
「ああ、意外と当たるもんだな」
二人は並んで歩き出した。雪が静かに降り積もる中で、千夏はふと立ち止まり、悠真を見上げた。
「ねえ、覚えてる? 小さい頃、初雪の日に一緒に雪だるまを作ったこと」
「ああ……あったな。確か、お前が途中で手が冷たくなって泣き出したんだよな」
悠真が思い出しながら笑うと、千夏もつられて笑った。
「そうだったね。でも、悠真が手を温めてくれて、それで最後まで作れたんだよ」
千夏の言葉に、悠真は少し驚いたような表情を浮かべた。
「そんなこと、俺は忘れてたけど……」
「でも、私は覚えてるよ。悠真はいつも私のことを助けてくれてたんだから」
千夏の言葉が静かに胸に染み込む。悠真は少しだけ目を伏せてから、小さな声でつぶやいた。
「俺、お前のことをもっと大事にしなきゃいけないのかもしれないな」
その言葉に千夏の心は大きく動いたが、彼女はあえてそれ以上何も言わなかった。ただ、悠真と一緒に雪の中を歩く時間を噛み締めていた。