第5話:文化祭当日
文化祭当日、学校はいつもとはまるで違う活気に包まれていた。教室にはお化け屋敷を待つ生徒たちの列ができ、千夏たちは準備に追われていた。
「悠真、こっちの壁、もう少し暗くした方がいいかな?」
「おう、いいかもな。千夏、そこに吊るす飾り持ってきてくれない?」
「分かった!」
千夏は小道具を抱えながら動き回り、悠真も飾り付けの最終調整をしていた。準備でバタバタしているうちに、気づけば午前の時間はあっという間に過ぎていった。
千夏の努力
昼過ぎ、お化け屋敷の初回が無事にスタートし、千夏と悠真は一息ついていた。控室で顔を合わせると、悠真がポツリと言った。
「千夏、本当に助かったよ。ポスターも小道具も、全部お前のおかげだな」
「そんなことないよ。みんなでやったことだし」
千夏は照れ隠しに笑ったが、悠真の目は真剣だった。
「いや、マジで感謝してる。千夏がいなかったら、ここまでうまくいかなかったと思う」
その言葉に、千夏の胸がじんと熱くなった。
(悠真が私のことを認めてくれる。それだけで、今日の努力は報われた気がする……)
悠真と千夏のすれ違い
昼過ぎになると、他のクラスの展示や模擬店も賑わいを増し、千夏は友達と校内を回ることになった。悠真も俊と共にクラスを離れ、体育館のライブイベントを見に行っていた。
ライブ会場で俊がふと話しかけてきた。
「なあ、悠真。最近千夏とよく一緒にいるよな?」
「まあ、文化祭の準備でな。でも、別に特別なことじゃないだろ」
「本当にそう思ってるのか?」
俊の問いに、悠真は少し戸惑った。
「どういう意味だよ?」
「いや、千夏の気持ちとか、全然気付いてないのかって話だ」
俊の真剣な顔つきに、悠真は一瞬言葉を失った。
(千夏の気持ち? 俊もそんなこと言うのかよ……)
悠真の中に、これまで意識しなかった何かが揺らぎ始めていた。
偶然の再会
夕方、文化祭の終わりが近づいた頃、千夏はお化け屋敷の片付けに戻っていた。廊下で物を運んでいると、ちょうど悠真と出くわした。
「お疲れ、千夏。さっきどこ行ってたんだ?」
「あちこち見て回ってたんだよ。悠真は?」
「俊と体育館でライブ見てた。でも、結局お化け屋敷が一番面白かったかもな」
悠真が笑うと、千夏もつられて笑った。
「ねえ、最後に一緒に回らない? まだ見てないところがあるし」
千夏が勇気を出して誘うと、悠真は少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔で頷いた。
「いいよ。どこ行く?」
二人で校内を歩きながら、教室や模擬店を巡る。普段は周りの友達と一緒にいることが多い二人だが、この時間は不思議と心地よかった。
「そういえば、千夏って文化祭とか好きだったっけ?」
「うん、好きだよ。でも、今日みたいに準備が大変だったのは初めてかも」
「そっか。でも、お前のおかげでいい文化祭になったな」
悠真が笑顔でそう言った時、千夏は思わず足を止めた。
「……悠真、今日は本当にありがとう。私、悠真と一緒にいられて楽しかった」
「俺も。千夏がいてくれて助かったよ」
何気ない言葉のやり取りだが、千夏にとってそれは特別な時間だった。
(この瞬間がずっと続けばいいのに……)
千夏の決意
文化祭が終わり、校舎の明かりが少しずつ消えていく中で、千夏は自分の気持ちと向き合っていた。
(やっぱり私は、悠真のことが好きなんだ。それでも、伝えるべきかどうか分からない)
窓の外に広がる夜空を見上げながら、千夏は小さくつぶやいた。
「……いつか、この気持ちを伝えられる日が来るのかな」
一方、その頃、俊と別れた悠真も同じ夜空を見上げていた。
(千夏のこと、俺はどう思ってるんだろう。俊の言う通り、あいつが俺に……そんなわけないよな)
お互いの気持ちがすれ違いながらも、どこかで交わる瞬間を待っているような夜だった。