第4話:文化祭の準備
文化祭が近づき、教室はいつも以上に賑やかだった。悠真のクラスでは「お化け屋敷」を企画しており、飾り付けや演出の準備が進められている。
悠真はクラスの男子と一緒に、大きな黒い幕を天井から吊るす作業をしていた。脚立の上で悪戦苦闘する悠真を見上げながら、千夏は自分の担当するポスター作りに集中しようとする。だが、目はついつい悠真の方へ向いてしまう。
「悠真、気をつけてね。落ちたら大変だよ!」
「大丈夫だって。ほら、見てろよ」
悠真が得意げに幕を広げようとした瞬間、バランスを崩して脚立がぐらついた。
「わっ!」
「悠真!」
千夏は思わず駆け寄ったが、間一髪のところで俊が悠真を支えた。
「おいおい、何やってんだよ。怪我するぞ」
「サンキュー、俊。ちょっと調子乗りすぎたわ」
俊の手を借りて立ち直る悠真を見ながら、千夏は胸を撫で下ろした。
(本当に、無茶ばっかりするんだから……)
二人きりの時間
その日の放課後、千夏はポスターの仕上げをするために教室に残っていた。クラスメイトが次々と帰っていき、教室には千夏一人になるかと思っていた矢先、悠真が戻ってきた。
「千夏、まだやってたの?」
「あ、悠真。うん、あとちょっとだけ」
悠真は千夏の隣に腰を下ろし、ポスターを覗き込んだ。
「結構凝ってるんだな。これ、全部千夏が描いたの?」
「そうだよ。でも、こういうの得意だから全然平気!」
千夏が笑顔で答えると、悠真は「へえ」と感心したように頷いた。
「千夏って、ほんと器用だよな。俺なんか絵とか全然描けないし、羨ましいわ」
「そんなことないよ。悠真だって、運動も頭もいいし、羨ましいよ」
二人の会話は自然に続いていった。久しぶりに二人きりで話していることが、千夏にはどこか特別に感じられた。
「……ねえ、悠真は文化祭楽しみ?」
「まあ、普通に楽しみかな。でも、こうやって準備してるのが一番面白いかも」
悠真の言葉に、千夏は少し安心した。
(悠真が楽しそうなら、それでいいかも)
その時、教室の窓の外を風が吹き抜け、ポスターの紙が少し揺れた。悠真が手を伸ばして紙を押さえ、千夏も同じように手を伸ばした。その瞬間、二人の手が触れ合う。
「……あ、ごめん!」
千夏が慌てて手を引っ込めると、悠真は不思議そうな顔をした。
「別に謝ることないだろ?」
その無邪気な反応に、千夏は自分だけが意識していることを痛感し、胸が苦しくなった。
(やっぱり、悠真には何も伝わってないんだね……)
俊の気配り
翌日、千夏が図書室で資料をまとめていると、俊が顔を出した。
「お疲れ、千夏。文化祭の準備、順調か?」
「うん、何とかね。俊くんの方は?」
「俺のクラスは模擬店だけど、準備なんてほぼしてないよ。俺も手伝いしてるフリだけだし」
俊が肩をすくめると、千夏は思わず笑ってしまった。俊は普段から豪快な性格だが、こうして気さくに声をかけてくれるところが彼の魅力だった。
「それにしても、お前と悠真、最近いい感じだよな」
「えっ……!」
千夏は慌てて顔を伏せたが、俊は続けた。
「別に隠す必要ないだろ? 幼馴染だからって言い訳にならないくらい、千夏の気持ち、分かりやすいぞ」
千夏はその言葉に何も返せなかった。俊がどこまで本気で言っているのか分からなかったが、彼の言葉は核心を突いていた。
(私の気持ち、やっぱりバレてるんだ……)
俊はそんな千夏の様子を見て、小さくため息をついた。
「ま、焦らずにやれよ。悠真もああ見えて鈍いけど、気付く時は気付くだろうし」
俊の言葉はどこか優しさに溢れていて、千夏は少しだけ気が楽になった。