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六話 特訓

 ストーカーじみた追跡と、実家の力もフルに使い、拒否権を与えずにルカの弟子となったローゼス。その日の放課後より、誰にも見つからないように『人を殺すための剣技』を身につけるための特訓を始めたのだが────


「はっきり言おう。君の剣は、綺麗すぎて向いていない」


「あぅぅ……」


 ────舞姫と呼ばれるほどに、綺麗な剣術にどうしても引っ張られてしまい、全くもって意味が無いのである。


「いや……まぁ分かってはいたが、流石にここまでとなると……ねぇ?」


「はぐっ……!」


 グサリ、と胸に大きな一撃を貰ったローゼスは、胸を抑えながらよろよろと座り込んだ。


 時に、度々二人が言う『剣術』と『剣技』の使い分けなのだが、この世界で言う剣術の定義とは、『人を最低限傷つけず、いかに人を魅了するかに進化した剣技』という分別になる。


 簡単に言えば、『剣術』は人の命を奪わないもの。『剣技』が、どんな手でも人の命を奪うために特化したものということになる。


(いやぁ……流石にこれ無理では?)


 前世では、弟子をまともに取ったこともないルカ。いかに剣鬼だのなんだの呼ばれていようが、指導力はゼロに近い。


「ふっ……く、くく……師匠……随分と容赦がないのですね……」


「君、そういうの嫌いだろ?お世辞とか」


「当然ですわ!」


「復活した」


 しゅたっ!と立ち上がり右手を胸に当て、左手を腰に当てる。


「わたくしは、栄えあるフィルヴィス家の長女!昔から刺客ロリコン貴族クズ野郎に揉まれ、襲われてもタダでは起きない女ですわ!」


「どうした急に」


 突如として、いつものイメージからは似つかわしくない言葉が出てきたことについついツッコミを入れてしまったルカ。うん、まぁ、ストレスでも溜まってるのかなと思い、一旦気にしないことにした。


「剣技レベルは赤ちゃんだけどな」


「はうぅ……」


 バタっ、とまた座り込んだローゼス。やれやれ、と頭をかいてさてどうするかと考える。


 フィルヴィス家からの依頼内容は、ローゼスの剣の腕を育てながら、刺客から守りきること。


 期限は、フィルヴィス家がローゼスを襲うように仕向けた黒幕を見つけ、混沌の嵐(カオス・ハリケーン)への依頼を撤回させるまで。依頼書の一番下には、『我が自慢の娘を頼む』と、めちゃくちゃ筆圧が強い字で書かれていた。


(唯一の救いは、赤ちゃんレベルではあるが、独学で剣技を身につけようとしていた所か)


 剣術と剣技の割合を表すのならば、9.9割と0.1割というクソみたいな比率ではあるが、まぁこれくらいならば何とか……何とかなるかなぁ?と思いつつ、ハートブレイク中のローゼスへと声を掛ける。


「ローゼス。立て」


「はい」


「とりあえず、君には技術とかそういうのの前に、人体の急所を身体で覚えてもらう」


「身体で………一体どうやるんですの?」


「今から君を、殺気で斬る」


 超一流の剣士は、殺気だけで人を斬ったように幻視させることが出来る。


 柄を持ち、軽く足を広げてスタンスを取る。意識を切り替えるため一度目を閉じて────


「っ!?」


 ────瞬間、ローゼスは自身の体が細切れになったのを感じる。目や首、心臓と様々な場所を斬られ、突かれたように感じたローゼスは、勢いよく後ろに飛んだ。


「はぁ……はぁ……かひゅっ」


(つ、付いてます……手も、首も……ちゃんとある……)


 座り込み、心臓に手を当てると、普段よりも何倍もの速さで鼓動を打っているのを感じる。


 今、間違いなく、ローゼスは擬似的な死を感じることが出来た。


「何が見えた?」


「はぁ……わたくしの身体隅々まで、切り刻まれる所が見えました」


「そこが、俺の経験からによる、人を効率的に殺すことが出来る急所だ。今のを踏まえて、俺に打ち込んでこい」


「わたくしの師匠は、意外と鬼畜なようですわ……」


 大きく深呼吸をして、未だに震える足を、何とか奮い立たせる。


「────参ります!」


 そうして、二人の訓練が、夕焼けが落ちる頃まで続く。その間にも、ルカはローゼスにダメ出しをしまくり、ローゼスの自信はポッキリと折れてしまったとさ。


「まぁ一日だとこんなもんか……大丈夫か?」


「こ、これが大丈夫なように見えまして……?」


「うん。全然見えないね」


 疲れと、一撃も与えられないその悲しさから、ぐでーっと地面にうつ伏せに倒れるローゼス。あんまり、貴族の淑女がしてはいけないような体勢になっている。


「で、ですが……何やら充実感も感じますわ……わたくし、新たな扉を開きかけたような」


「うん。その扉は今すぐ閉じた方がいい」


 アブナイ方向へと行きかけるローゼスを、言葉で止める。ふ、ふふ……と怪しげに笑いだしたローゼスを、一旦放っておいて思考に潜る。


(結構ズタボロに言ったから、多少は良くはなってる……だけど、相手が俺ということでどこか躊躇いも感じているな)


 悪者相手だったら、恐らくもうちょっとマシになっているであろう剣技。やはり、課題は慣れか……と目標を見据える。


「ローゼス」


「はい」


「週末。予定は空いているか?」


「週末……?もちろん、空いておりますが……はっ!?」


(も、もしかして、おデートのお誘いかしら!?ちょ、ちょっと早いのではなくて!?それは、も、もう少しお互いのことを知ってから……)


(なんか物凄い勘違いをしている気がする)


 急にわたわたとし始めるローゼス。眺めている分には面白いが、残念な勘違いはそうそうにぶった斬る。


「一番は、やはり何かを殺すことに慣れることだ。週末、魔物退治と行くぞ」


「…………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「……なんでそんな残念そうなんだ」


「別に、ですわ」


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