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三話 暗殺者

 視線を感じると思うようになったのは、いつからだっただろうか、と夜。アーセナル学園寮の一室にて寝る格好ではなく、普段の制服姿に着替えたローゼス・フィルヴィスは思う。


 誰かと一緒にいる時や、こうして寮の部屋にいる時は全くもって感じない視線。ちらちら、と感じるのは一日に何回かだが、その視線には明らかに『悪意』が混じっている。


(こうして何もせず、事態が動くのを待つなんて、フィルヴィス家として────王家の血が流れている者として見過ごす訳には行きません)


 立ち上がり、腰に差している剣を一撫でしてから部屋を静かに出るローゼス。

 自身に流れる王家の血。フィルヴィス家は、公爵の位に位置しており、彼女の国の王家とは従兄弟(いとこ)の関係にあたる。


 そのせいで、幼少期の頃より様々な勢力に狙われ、その度に自身の力で振り払ってきた。

 降りかかる火の粉は自分で払う。そう彼女が決心し、国に伝わる剣術だけでなく、独学ながらも拙い剣技を練習していたのも、もう身近な人が死にそうになるのを防ぐため。


 この学園に被害が出ないうちに、不埒者を倒す。そう意気込み、彼女は寮からバレずに飛び出て、移動を開始するのだった。


「お、リーダー。ターゲットが寮から出たぜ。どうする?」


「追え。約束通り、相手は俺がする。手出はするなよ」

「分かってるって。そういう約束だもんな」


 はーつまんねーーー、と言いながらローゼスが駆けて行った方向を見て、会話をするいかにも怪しい格好をしている三人組。


 夜闇に紛れ、体全体を隠すように真っ黒のコートを着ているため、背丈程度しか確認できない。

 その背後から更に、バレないようにその三人を監視している鳥の目が、怪しく赤色に光っている。


「こいつらか……」


(不審者を発見。ターゲットは恐らく────いや、十中八九舞姫だな)


 その正体は、フィルヴィスが創った自動機械(ゴーレム)の一体。普段はフィルヴィスに操作権があるが、現在は一時的にルカが借り受けている状態にある。


(さて、運が悪いことに場所は反対側か……急ごう)






「ここら辺でいいかしら」


 暫く移動し、ある程度の広さのある広場へと出てきたローゼス。ここならば、例え戦闘が起きたとしても、音が寮まで聞こえることは無いだろう。


「出てきなさい。そこにいることは分かっていますわ」


「へぇ?温室育ちのお嬢さんかと思えば、意外と鋭いとこあるじゃねぇか」


 ローゼスが目線を向けた先から、暗闇から突然現れたかのように姿を見せた三人の男達。少ない光に照らされ、男たちの姿をザッと見たローゼスは、驚きに目を少し見開かせた。


「驚きました……まさか、快楽的テロ集団の混沌の嵐(カオス・ハリケーン)ですか」


「へぇ?俺たちのことも知っているなんて、本当にただの温室育ちじゃねぇな……こりゃ思っているより楽しめそうだ」


「ケッ、いいなぁ。最近、手応えのあるやつ居なくて暇なんだよ俺達も」


「後で相手してやるから我慢しろ。流石に三人で襲ったら殺しちまうからな」


「へーへー。ま、安心して負けてくださいよリーダー。そしたら俺たちが相手しますから」


「アホタレ。まだ青臭いガキに負けるかよ」


「ただ闘うことだけを生きがいにして、金さえ貰えば何でもやる戦闘集団……というのは、どうやら本当のようですね」


「おうそうだぜ。俺達はなぁ、命を懸けた殺り合いが、何より────この、クソつまらねぇ平和な世界より大好きなんだよ」


 真ん中にいた男が、手の甲をローゼスに向ける。そこには、大量の嵐が複雑に入り乱れているマークが手袋に刻印されていた。


「だからよぉ────少し!相手してくれやぁ!」


「っ!!!」


(速いっ!)

 突っ込んできた男に対し、慌てて腰から剣を引き抜いて鍔迫り合いの状態に持ち込む。予想よりも速いスピードに、一瞬だけ脳が慌てたが、冷静に、丁寧に剣を合わせていく。


「いいねぇ!いいねぇ!最高だぁお嬢さんよぉ!」


「くっ……!」


(今まで戦ってきた刺客とは、段違いに力は上……!)


 男が使う武器は、舶刀(カトラス)と呼ばれる、刀身が特徴的に曲がっている刀剣である。見慣れない武器と、性差による出力の違い。このまま戦闘を続ければ、不利になることは目に見えている。


「まだ荒削りだが、他のガキとは違い、お利口さんじゃないなお前。今まで殺った相手よりも、断然に剣の動きが読みにくい」


「っ、私たちが習っている剣術だけでは、貴方のような不埒者に通じないと知っていましたから!」


 決まった動き、決まった呼吸、決まった速度で、決められたように剣を振るい、魅せるために進化した剣術では、殺し合いには圧倒的に不利だ。


 だけど、これは知っている。例え、相手にとって読みやすい動きでも、相手より強ければ何も問題ないことを。


「ふぅぅぅぅ……ギルバート流剣術奥伝────」


「お?」


 幾度の鍔迫り合いを経て、一度大きく男を吹き飛ばしたローゼス。その隙を見て、剣を地面と平行にして構える。


 それは、彼女が『舞姫』と呼ばれる所以となった、剣術を極めた者にしか扱えない術である。


「────舞千鳥!!」


 舞千鳥。ギルバート王国で広く使われている、ギルバート流剣術を極めた剣士にしか使えない技である。


 強力な突きのあと、相手に防御の隙を与えさせずにそのまま間髪入れずに様々な場所から斬りつける。


 その際に、動きを一切止めることはせず、滑らかに重心移動、身体制御をすることにより、速度と威力が加速度的にプラスされていく。


 この技で、ローゼスは幾度も敵を斬り伏せてきた。きっと、今回もそうなる。といったローゼスの自信は────


「はぁぁぁぁ」


「!!」


 ────いとも簡単に、崩れ落ちたのだった。


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