十九話 無剣
確かに、ルカと混沌の嵐の根底は似ているのかもしれない。かつては、命のやり取りをすることでしか生を実感出来ないルカは、心のどこかで全力で命のやり取りをすることを望んでいた。だから、フリューゲルとの手伝いで戦闘系の物があれば積極的に関わっていたし、生死の有無も確認していた。
それゆえに、ルカはこの世界をつまらなく、退屈なものだと思っていた。
「おいおい……なんだそれは……」
「────『無剣の一太刀』魔法とやり合うのは初めてか?」
鞘を抜く。折れた刀身から炎が湧き上がり、変幻自在の剣を形成していく。
ゆらり、と沸き上がる炎が、ルカの身体をぐるぐると回り、その先端が龍の顔へと変貌する。
「冗談きちぃぜ……!魔法が使えるのは魔女だけじゃねぇのかよ!」
「残念だな。俺は特別なんだ。まぁ友人風に言うのなら、転生特典というやつだろうな」
「なんだそれはよぉ……」
(あれが、ルカの秘密)
昨夜、話だけは聞いていた。男性なのに魔法が使える。それだけでも目ん玉が吹っ飛ぶくらい衝撃的な話なのに、実際に見ると驚きで声が出なくなる。
(………ものすごくかっこいいですわあれ!どうにかして教えて貰えないでしょうか!)
そして、ローゼスの心の中の男の子が凄まじく刺激されており、目をキラキラと輝かせていた。
「終わりとしようか。この世に別れは告げたか?」
「……へっ、おもしれぇ……おもしれぇなぁ!最高に!!」
だが、こんな状況であろうと、ガイアは笑みを浮かべる。正直、足は今にも倒れそうなくらい震えているし、死への恐怖は消えない。
だけど、それよりも自分よりも強い相手と戦える。そのワクワク感だけで、身体を突き動かす。
「龍よ、敵を食いちぎれ!」
炎の龍が咆哮し、その炎の体を伸ばしてガイアへ噛み付こうとする。そして、それを黙って見ているルカではない。龍と共に走り、その体を剣に見立てて攻撃をする。
「どわっ!あちっ!クソっ!反則だろこんなの!」
「戦場に反則など存在しない。どんな手を使っても勝てばいい────違うか?」
「その通りだわクソッタレが!」
龍を無視してもルカに斬られる。ルカを無視しようとしてと龍に狩られる。二つ同時に意識を向けないといけないため、ガイアの消耗は激しい。
「はぁ……ちっ、クソがっ!」
一度距離をとるために回避とともに前転。その間に、背後に向かって三本投げナイフを投擲する。
それを視認したルカは、出している炎の龍を消し、即座に自分の周りに風を構築してナイフを弾いた。
「はぁ!?炎だけじゃねぇのかよ!!」
(この風……あの時の……?)
感じたことがある風。それは、ローゼスが初めてルカと出会った時に感じたものである。
そう、ルカは普段からこの魔法の剣を使っている。しかし、普段使っているのはこの『風の剣』だけである。
理由は、これが一番殺傷力が低いから。
『いや、流石に鞘だけで風を起こして人体斬るのは無理だよ?』とは後のルカ談である。
バチり、とルカの腕を雷が纏い、剣を振るうとそこからプラズマが射出。地面を走りながらガイアへと迫り、人体では視認できない速さで衝突。
「グッ……ガッ……!」
「終わりだ。その目によく刻め」
そして、また炎の龍に戻り咆哮し、ガイアへと迫る。
「これが、平和のために戦った男が辿り着いた剣だ!!」
「──────!!」
龍がガイアを飲み込み、火柱が天へと登る。
「………終わったか」
それを、偶然別の場所にいたフリューゲルが捕らえており、彼女の足元には、ガイアが言っていた爆弾であろうものが一つだけ転がっていた。
「あぁ、こちらも終わったぞルカ……ふぅ、久しぶりに、疲れたな」
「ルカ!!!」
「ローゼス────っとと」
戦闘が終わり、ガイアを焼き尽くす炎が完全に消え去る。骨さえも焼き尽くされ、灰しか残らずに勝利を確信したところで、ローゼスがルカへと抱きついた。
「良かった……!ほんとうに良かったです……!」
「これで、君を取り巻く現状は落ち着きを見せるだろう」
黒幕の正体は聞けなかったが、ガイアは混沌の嵐の第三席を名乗る程の男だ。今までの下っ端とは違い、恐らくは幹部だと推測できるので、流石に構成員を送るのは躊躇うだろう。
その間に、ローゼスの実家が黒幕を捕まえてくれれば、それで万々歳。ローゼスは狙われることはなくなら、ルカはまたいつもの日常へと戻る。
「信じていました。あなたは、きっと打ち倒してくれると」
戦闘をしている時は、とある瞬間を除いてずっとハラハラしていたローゼス。気が気ではなく、いつルカが怪我をしてしまうか、心配していた。
「だから、これは御礼です」
「……?ローゼス────」
ちゅ、と軽いリップ音。突然のことに、ルカの頭は真っ白となり、いくらなんちゃって悲しき戦闘マシーンのルカでも、フリーズする。
少しだけ背を伸ばして、ルカの頬にキスをしたローゼス。二歩ほど後ろに下がった彼女の頬は、今まで見た表情よりも、ずっと赤かった。
「……わたくしの気持ちですよ、ルカ」
「………………??????????」
(わたくしは、あなたのことをお慕い申し上げます。ルカ)
命を賭けて、自分のことを守ってくれたルカに対し、ようやく恋心を自覚したローゼス。
(………ぜーーーーったいに、逃がしませんから)




