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十七話 決戦前夜

「なんなんですかあの人!信じられません!」


「元々ああいう人だ」


 俺はもう慣れた、とソファから立ち上がり、キッチンへと向かうルカ。


「とりあえず、今日は明日に向けて早く寝ろ。何食べたい?」


「………こうなったらやけ食いですわ!沢山用意してください!」









「………本当にルカが料理を作ってるんですのね」


 もっきゅもっきゅと食卓に並んでいる料理を平らげた後に、感心する目でルカを見るローゼス。


「なんだ?信じてなかったのか?」


「まぁちょっと?あまり、男の人が料理をするって話は聞きませんもの」


「普通ならそうだろうな。だが、何年俺がフリューゲルの世話をしていると思う」


「………お疲れ様ですわ」


 若干疲れた顔をして、机に両肘を置くルカに対し慰めの言葉を掛ける。苦労してるんですのね、と思った。


「………はぁ、風呂に入って今日は寝ろ」


「分かりましたわ」


 事前に場所は教えているので、迷わずに風呂場へと向かうローゼスを見送ってから、ルカは自身に宛てがわれている部屋へと入る。


 部屋は酷く無機質であり、机とベッド、後はタンスだけが置いてあり、目立った置物がない。


 本当に人間が生活してる部屋?と思いたくなるが、特に趣味もないルカにはこれで充分。ベッドへと腰かけ、剣を持った。


(……明日は、恐らくローゼスを巡るゴタゴタが終わる日だ)


 柄を持ち、ゆっくりと剣を鞘から抜く。そこには《《刀身はなく》》、半ばで折られていた。


 これは過去、フリューゲルに拾われてすぐにルカ自身で刀身を折った。それは、もう必要以上に人を傷つけさせないように、自分で課した縛り。


(あのガイアとか言う奴、そこそこの実力はある……きっと、アレも使うことになる)


 起動させるのは、随分と久しぶりの事だ。柄を持つ手に力を入れて、意識を集中させる。すると、折れた刀身がキラリと光り、ゆらりと炎が湧き上がった。


 コン、コン。


「!」


 突如、部屋に響くノック音。一瞬だけ誰だ?と思ったが、現在この家にいる者考えたら、必然的にローゼスであることにはすぐ気がついた。


「どうした?」


「少し、お話しませんか?」


 着替えは、適当にフリューゲルのを用意したルカ。半袖のTシャツと、健康的な白い足が惜しげも無く晒される半ズボン。質素で、フリューゲルが着ていたのを見慣れていたルカであったが、着る人によってこうも違うのかと、思わずそう思ってしまった。


 しかし、当の本人の瞳は不安に揺れている。早く戻って寝ろ、とは言えず体をずらしてから入るように促した。


「不安か?」


「……えぇ。ルカの実力は知っています。ですが、どうしても『もしも』がよぎってしまうのです」


 唯一二人並んで座れるところがベッドのみなので、そこに座り、ルカから切り出す。語ることは、大方ルカの予想通りだった。


「分かっています。ルカがどうしようもなく強いことを。ですが、戦場とは何が起こるか分からないもの。何か不幸なことがあり、ルカがあの男の凶刃の前に倒れることがあると考えてしまえば……とても、とてもとても、眠れるような状態ではありません」


 ルカの手を掴み、向かい合う。二人の瞳が、一瞬重なり、ゆっくりとルカの胸の中に体を預ける。


「安心、させてください。わたくしの騎士様は、どんなことがあろうとも負けることはなく、強い存在なのだと、わたくしに刻みつけてください」


「……そうだな。じゃあ、俺がまだフリューゲルにしか話していない、とんでもなくシークレットな秘密を教えてやろう」


「………それ、言う相手がフリューゲル様しかいないの間違いでは無いですか?」


「そうとも言うな」


「もう」


 くすり、と笑い少しだけ緊張がほぐれる。ルカが、口をローゼスの耳元まで持っていく。


「──────────」


「………それ、本当ですの?」


「あぁ。大マジさ」


「……………」


 ヤベー事聞いちまいましたわ……と思わず冷や汗が流れた。そして、聞いたことで色々なことに合点がいった。


「……でも、それを聞いて今、ものすごく安心しました」


「信じてくれ。君のことは、必ず守るよ」


「信じています……ルカ、将来のことは決まっていなんですよね?この戦いが終わったら、わたくしの護衛騎士なんていかがですか?勿論、終身雇用ですわ」


「はは。それは勘弁」


「もう、いけず」


 笑みが浮かぶ。そのまま目を閉じると、少しもしないうちに、すー、すー、と規則正しい寝息がルカの胸から聞こえる。


「………ここで寝るのか」


 仕方ないな、と言いながらローゼスを持ち上げ、そのまま自身のベッドへ横にする。


「………君の剣は、誰にも穢させない」


 顔にかかった髪をはらい、握られたままの手を強く握る。


 ルカは、平和な世界を掴み取ったのはいいものの、その先を見ることが叶わずに死んでしまい、この世界に転生した。


 無気力なままに生きて、そして出会ったのがローゼスの剣術だ。


 初めて見た時は、衝撃と共に、感動をした。生ぬるい、と自身が下した評価を180度塗り替えた、平和な世界の剣術。


 嗚呼。きっと、前世の世界でも、剣の道はこのように変化をしていっているのだと。


「君は、俺の────俺達の理想だ」


 今、元の世界がどのように変遷して行っているかは分からない。だけど、ルカはローゼスを見て、『あぁなっていればいいな』と強く思うのだ。


 もう、誰も命をかけて戦わなくていい世界。だから、だからこそ、ローゼスにはそのままでいて欲しい。綺麗で、強くて、誰もを魅了する。そんな剣術だけを磨き続けて欲しい。


 本当に、強く、そう思う。

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