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十二話 おでかけ

「ルカ、お出かけをしませんか?」


「え、ヤダ」


 ざわっ、とまたもやざわつきだす教室内。いつの間にやら、ルカの席の隣がアーノルドからローゼスへとポジションチェンジしているのは誰も触れず(触れられないとも言う)、誰しもが二人の会話を盗み聞きするという状況。


 学園でも有数の美人ということもあり、実質デートのお誘いということで1動揺。更に、ノータイムでそれを断ったことにより、2動揺。


 この会話で、一時期ルカにそっちのけがあるのでは?という噂が流れたのは余談である。


「だいたい君、そんなことできる立場だと思ってるの?」


 テロリストに狙われている身。言外に、休みの日くらい大人しくしとけということを言ったのだが。


「少しは息抜きくらい必要だと思いませんか?」


 しかし、それを分かってなお踏み潰してスルーするのがローゼスクオリティ。ルカは頭を抱えた。


「ダメだ」


「行きましょう」


「ダメ」


「行きましょう」


「おはよう。仲がいいね君たち。何を言い争っているんだい?」


「黙ってろアーノルド。お前も経験者だろ?」


「あー………」


 その一言で全てを察したアーノルド。確かに、アーノルドは過去、ルカに助けられたことがある。内容は言えないが、その事でルカにもフリューゲルにも迷惑を掛けたことがある。


 仕方ない。ここは友達(自称)の肩を持つとするか、とアーノルドは決意した。


「フィルヴィス女史。ここはルカの顔を立てて────」


「殿下?」


「────何でもない。ルカの説得。頑張りたまえ」


「おいコラそれでいいのか王子」


「いいかいルカ。男には、女の子に逆らってはいけない場面があるんだ」


 ローゼスの圧にあっさりと負けてしまったアーノルド。掛けられた言葉は二文字程度ではあったが、それ以上の何かが絶対に含まれていた。


「ルカ……ね?お願い」


「…………だ、ダメなものはダメだ」


 全てが計算され尽くしたかのようなお願い。上目遣いに、少しだけ首をこてんと傾ける。流石のコレにはルカも少しだけ心揺れ動いたが、鋼の精神でそれを拒否。


「ほら、そろそろ授業が始まるぞ。優等生の君は真面目に受けるんだ」


「むー………」


 授業開始の鐘が鳴り、担当教科の先生が教室に入ってくるのと同時に、腕を枕にして睡眠の体制に入るルカ。それを見た先生が一瞬青筋を立てたがいつもの事なのでスルー。


(………どうすれば、ルカを休ませることが出来るのでしょうか)


 トントン、と板書をする振りして、案を頭の中で考えるローゼス。寝ていながらでも、周囲の警戒をしていることをローゼスは知っている。


 一度、授業をサボっているルカに対し、優しくチョップしようとした所、ガッシリとガードされたのも記憶に新しい。


(……なら、一度やったように学園長を通して依頼する?まだ手紙のストックはあるから、やろうと思えばやれますわ)


 この世界における手紙とは、文章を書いて、専用の封に入れると、音声認識で目的地まで瞬間移動するという便利ものだ。それを行使して、ローゼスはその日のうちに実家を通して依頼することができた。


(ですが、あまりそれを多用するのは気が引けますわ。やりすぎて、ルカに嫌われたくは────)


 ピタリ、と机をトントンしていた手が止まる。


(────嫌われたくない?)


 自分でも、思っていたことに疑問が浮かび上がる。


(……わたくし、なぜこのようなことを)


 確かに、ルカは今のローゼスにとって大事な存在だ。でも、その意味は自身に剣技を教えてくれる存在として、である。


(………まぁいいですわ。その理由は、週末のお出かけで確かめればいいだけですもの)


 彼女の中で、既にルカと出掛けることは決定事項。


 問題は、どう誘うか────






「はい、おしまい」


「あぅぅぅ……」


 ────結局、いい案は何も出ず、「わたくしがルカから一本取れたらお出掛けに付き合ってもらいますわ!」と正面から頼み込み、結果は惨敗。


 今日も今日とて、疲れでヘロヘロになり、ぺたんと地面に座り込んだ。


「全く、どうしてそこまで出かけたいんだ?別に、お出掛けなんて今の件が落ち着いてからでも出来るだろ?」


「……だって、ルカがいつ休んでいるか分からないですもの……巻き込んだのはわたくしですけど、それでも……それでも……あなたの心配をするのは悪いのですか……?」


「心……配……?」


 久方ぶりに、聞く言葉である。


『──、お前、いつ寝てるんだ?たまにはぱーっと遊ぼうぜ、ぱーっと。いつ死ぬか、心配になる』


 もちろん、前世の友人から聞いたのが最後である。


 ガシガシ、と頭をかいて何やら考え込むルカ。しばらくして、はーっと長くため息を吐くと、おもむろにローゼスの腕を掴んだ。


「ルカ?」


「────俺の負けだ」


 ポコン、とローゼスが持っていた木剣を、自身の頭に当てる。


「これで一本……明日は、お出掛けだな」


「……!んもう!んもう!」


「全く……俺の弱い言葉をピンポイントに出すお嬢さんだ」


 ぽこぽことルカの胸を叩くローゼス。それを見つめるルカの目は、慈愛に満ちていた。

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