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一話 平和な世界

 転生をした、と生まれ落ちたと同時にそう感じたのは、前世でまんま似たような経験をした友人を持っていたからなのか……と赤子————今世ではルカと名付けられた赤子はそう思った。


 前世とは違い、あまりにも平和すぎるこの世界に、ルカは少しの退屈さを覚えながらも、平和な世界を享受していた。


 ——あの日、父から勧められて自身で剣を握るまでは。


「ば……バケモノ……!」


「…………」


 血塗れで倒れる、剣技の先生と呼ばれた人物。使用人が悲鳴を上げ、途端に騒がしくなる庭。そして、自分の子供に到底向けるとは思えない————畏れが籠り、怯え切った目。


「……あぁ、なるほどな」


 ————どうやら自分は、この世界では異端らしい。それが、この世界で四年過ごしたルカの自身への存在定義だった。


 その日のうちに、産まれた家を飛び出たルカ。適当に歩き、当てもなく旅を続けること数日間。なにやらモヒカン頭のどことなく世紀末風な見た目をした男たちが、数人掛りで襲っている場面に遭遇。サクッと全員の首を斬り落とした瞬間に、馬車の扉が開く。


「面白いな。まだ子供だというのに、ゴロツキ複数人を軽くのしてしまうとはな」


「……驚いた。そんなに強いなら、別に助けなどいらなかったか」


「いや?こうして少年がこなかったら、私が少年に会えなかったからな。感謝しよう」


 くすくす、と笑いながらルカへと近づく女性。しゃがみ込み、目線を合わせた。


「君に興味が湧いた。どうだ少年。私と一緒に来ないか?」


 そう言い、ルカへと手を伸ばす女性。ルカはその手を————



「ルカ!いい加減起きないか!」


「……」


 パチリ、と目が覚める、随分と懐かしい夢を見ていたなと思いつつ、しぱしぱと目を何回か瞬きをしてから、声の聞こえるほうへ顔を向ける。


 眩しいと思うほどに錯覚してしまうほどに、うるさい金髪。それだけで正体が分かってしまったルカは、げんなりとした表情を見せた。


「出たな王子委員長」


「キミ、いい加減僕の顔を見てその顔をするのはやめないか?」


「俺、お前の事キライだし」


「面と向かって僕にキライなんて言うの、キミくらいだよ」


 そう言って、ルカに苦笑を投げかけるのは、現在ルカが仕方なしに通っている『アーセナル第七学園』で、同級生にあたるアーノルド・クラウスと言う。


 この世界で、一二を争う程の国土を誇る『クラウス王国』の第二王子ともあり、ルカの態度はまぁ不敬である。


 それを許されているのも、アーノルドがルカの実力を知っているからであるが。


「それで?この問題児生徒になんの用かな」


「そろそろ先生が君のことをぶん殴りそうになっているほどに血管が浮き出てるからね……全く、いくら何でも免除されているからと言って、自由過ぎないか……?」


「それが条件だからな。文句があるならフリューゲルにどうぞ」


「……やめておこう。僕にはあの魔女を相手にするのは少し力不足のようだ」


 はぁ、とため息を吐いたアーノルド。それを横目にまたまたルカは目を閉じようとするが、ペシッと頭をはたかれた。


「せめて、起きて見学でもしたらどうだい?ほら、噂をすれば────『舞姫』の登場さ」


「……………」


 ざわざわ、と訓練所にいる生徒達がほのかに騒がしくなり、誰もが剣を振るうのを止める。


「流石にやる気のない君でも、彼女を見れば少しは剣を振るいたくなるんじゃないか?」


「………逆効果なんだよなぁ」


 アーノルドの言葉に、聞こえないように返すルカ。彼女の事は、よく知っている。


「よろしくお願い致します」


 彼女の相手はおらず、ただ一人で剣を振るうのみ。しかし、剣を抜き、決められた動きを繰り返すその『型』は、相手がいるように錯覚をさせる。


 剣閃、足運び、目線の動かし方。太陽の光が透き通るような銀髪でさえ、型の一部と錯覚してしまうほどに美しく、見たものを魅了させる。


 それは、戦いの中で生きることしか知らなかったルカでさえ、感嘆の息を吐いてしまうほどに。


 しかし、それを見ることで、ルカは更に自分の異質さを感じてしまう。これが、平和な世界で変化をし続けてきた()()なのだと。


「やっぱり、この世界は眩しすぎる」


 人を殺すために振るってきたこの剣には、彼女のように人を魅了する────ルカ風に言うのならば、生ぬるい剣術モドキは習得する気が起きない。


「ありがとうございました」


 ぺこり、と舞姫────ローゼス・フィルヴィスが頭を下げると、割れんばかりの拍手が巻き起こる。それを横目に、音もなくルカは立ち上がると、その場を後にした。


「やはり、彼女の剣技は美しいな。なぁ、ルカ────あれ、いない……」


 700年程前、この世界は寝ても覚めても戦争ばっかりしていたのだと言う。


 弾圧されてきた国民と、搾取していた王族達により、世界中を巻き込んだ大戦争。後に、『アーセナル革命』と名付けられたその時代でなら、ルカは一騎当千の実力を誇り、英雄として讃えられただろう。


(やっぱり、産まれた時代を間違えたんだろうなぁ……)


 しかし、戦いの中でしか生を実感できないルカは、この世界を息苦しく感じさせるのであった。


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