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リフレイン・コード -神葬のレクイエム-  作者: 八神綾人
第一章 リフレイン・コード
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第48話『追い詰める者と追い詰められる者 #2』

 気が付くと見慣れない部屋だった。

 壁や柱は少しボロボロで汚い。何処かの家みたいだけど、部屋の隅には蜘蛛の巣が張っていて、床もホコリっぽい。

 人が住んでるのだとしたら汚すぎる。


「――――!」


 声を出そうとしたけど、口に布を詰められていて喋れない。


(苦しい。何で俺はこんな格好に……。手も後ろで縛られてるし、足も――。確かティア姉ちゃんに留守を頼まれてそれから――)


 そんなことを考えていると、玄関が開く音がした。

 その後、誰かが家の中に上がり込んで俺の居る部屋に近付いてくるのが分かった。

 足音が部屋の前で止まると、勢いよく部屋の扉が開かれた。


「くそっ! あのガキ!! また邪魔をしやがって!!」


 部屋に入ってきた男はそう言いながら扉の横の壁を殴った。


「村の中を嗅ぎまわったり、急にいなくなったり、今度はあの無精髭の男まで連れて帰ってきやがった。あいつは一体何なんだ? ……まぁあいつが何をしようとしていても無駄だ。こういう時の為にこのガキを捕まえているんだからな」


 そう言うと、その男は俺を見下ろして不気味に笑った。


 ◆◇◆◇◆◇◆


「何処だ、何処に行った!!」


 カノアは過疎区画を走り回っていた。

 何かを、いや、誰かを探すように人影らしいものが無いか、視界の隅々まで意識を張り巡らせる。

 それは酷く焦った様子で、常に冷静さを保とうとしていた普段のカノアとは対照的だ。

 そんなカノアの元に、一つの人影が近づいてくる。


「やぁカノア君! 君もルカを探してここまで来たのかい?」


 カノアが振り向くとカリオスが息を切らして立っていた。


「この辺りは僕も探したんだけど、見つからなくてね……。もしかしたら村の外に出て行ったかもしれない。一緒に森の方も探しに――」


「……とぼけても無駄だぞ」


「どうしたんだい、そんな怖い顔をして?」


 カリオスの目つきが若干鋭くなる。先ほどまで息を切らしてはずが、随分と整った呼吸でカノアに相対する。


「ルカをどこに隠した」


 カノアのその言葉におおよそを察したカリオスは、カノアに背中を向ける。


「……着いてきな」


 カリオスは背中を見せたまま静かに歩き始めた。


 ◆◇◆◇◆◇◆


『その時、二、三日は王都に泊まりになると言っていませんでしたか?』


『ああ、確かにあの時はそう言ったけど、ホド公爵の所に行った後すぐに追い返されてね。届けるもの届けたらさっさと帰れだって。酷いと思わないかい? 昨日は何とか王都に泊まることが出来たけど、お陰で今朝は日が昇ると同時に王都を出発するハメになったんだ』


 カノアはカリオスの動向から意識を逸らすことなく、先ほど村の入り口で商人と交わした会話を思い返していた。

 やがてカリオスはカノアも見慣れた旧噴水広場まで辿り着いたところで足を止める。


「さぁ、ここで話をしようか」


「わざわざここを選ぶとは、もう隠す気もないんだな」


「さぁ何のことだい?」


「ふざけるな!」


 カリオスのおちょくったような態度にカノアは一瞬怒りを露わにするが、冷静さを欠かぬよう気持ちを落ち着かせる。


「どうしてルカを攫った?」


「やれやれ。どうして分かったんだい?」


「教えてやるさ。だが、まずは俺の質問に答えろ。今日は何日だ?」


「今日? 何日だったかな。覚えてないや」


 カリオスは再びカノアの神経を逆撫でするように言葉を返す。

 だがカノアは怒りそのままに、しかし冷静さは無くさないように落ち着いた口調で会話を進める。


「十六日だ」


「そうか。だけどそれがどうしたんだい?」


「お前は村の曲がり角で俺とぶつかったことを覚えているか?」


「昨日のことだろ? そりゃ覚えているさ」


「お前は大きなミスを犯していたんだ」


「ミス? 何のことだい?」


「昨日曲がり角でぶつかった時、あんたは俺が平原で魔物に襲われたことを心配してくれたな? だが今日が十六日なら、あんたは()()()()()同じセリフを言ったことになるんだ」


 それはループしていたからこそ、気付けた事実。

 何度も繰り返した十六日の()()()()()()()()()、カリオスはカノアが前日に魔物に襲われたことを口にしていた。

 本来一日を一回だけ過ごしていればすぐに気付けたであろう矛盾も、何度もループしている人間には判断が困難になる。


「十六日にそのセリフを言ったことを覚えていないお前には納得がいかない話だろうが、俺はその言葉を聞いているんだ。ルカを攫ったのも、俺たちを襲撃していたのも、お前なんだろ、カリオス!」


 同じ日をループしている人間でも無ければ、神の視点で世界を覗き見ている人間でも無ければ、そのことに気付くことは出来なかっただろう。だが――。


「……ふ、ふふふ。あっはっはっ!」


 カノアに自分が犯人であることを断言されたカリオスは、次第に声を大きくするように高笑いを始めた。


「そうかい、そうかい。そういうことか」


「ルカの誘拐だけじゃなく、襲撃の犯人もあんたで間違いないんだな」


「ああ、そうさ。その通りさ! ……だけど、カノア君、いやカノア。俺からも一つ聞かせてもらおうか?」


 カリオスは引きつったように顔を歪ませた笑いを浮かべると、カノアに決定打を突き付ける。


「お前はさっき俺が十六日に言ったセリフを覚えていないだろうがと言っていたが、お前こそどうして十六日に俺が二日続けて同じセリフを言ったことを覚えているんだ?」


「何? ……まさか!?」


「やっと気が付いたか? 確かにお前の言う通り、俺は十六日に同じセリフを二日続けて言ってしまった。いや、()()()()()()()()()()()()()()()。記憶の確認をするには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからな」


 獲物を狩るように、カリオスは目を細めながらカノアを追い詰めていく。


「一回目の十六日。お前は王都からの帰りに死んだはず。それなのに、何故お前は死んだはずの一回目の記憶を覚えているんだ?」


「そんな……、馬鹿な!!」


「馬鹿なことはないだろ。この世界で記憶を持ち越せる人間が自分一人だとでも思っていたのか?」


 カノアはここに来て最大の見落としをしていたことを突き付けられる。


「何度ループが起きても結果はある程度収束するようになっているが、その過程においては()()()()()が発生してしまうんだ。だがお前はそれじゃ説明が付かないくらい、毎回全く違う行動を取り続けていた。おかげでこっちは散々苦労させられたぞ」


 カリオスは「ひひっ」と引きつったような声を漏らしながら、先ほどよりも一層顔を歪ませた笑顔を浮かべる。


「だけど、お前が記憶を持ち越せていることが分かれば全てに納得がいく」


 カリオスは捕食した獲物をいたぶる様に、ゆっくりとカノアの神経に言葉を突き立てていく。


「さあ追い詰めたぞ、カノア。お前の正体を教えてもらおうか」

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