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リフレイン・コード -神葬のレクイエム-  作者: 八神綾人
第一章 リフレイン・コード
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第15話『コンシデレーション・ライク・ラメンタービレ #2』

「まずは現状整理から始めるか」


 カノアは、自分の置かれている状況を整理をしながらゆっくりと歩みを進める。

 大きく分けると、現在整理すべき事象は三つある。


 一つ、この世界について。


「この世界は自分が居た日本とは別の世界の可能性が極めて高い。そして何かしらの理由があって日本から転移した。ティアは俺のことを人体実験の被害者だと言っていたが、その場合日本での記憶については偽の記憶である可能性が高くなる。だが、森で目覚めた時に着ていた学生服は日本でも着ていたもので、この世界では同様の衣類を着ている人間には出会っていない。そう考えると実際に自分が日本に居た記憶は本物である可能性が高くなる」


 二つ、街道での襲撃について。


「街道で最初に襲われた時はティアに似た少女を見た。そして昨夜ははっきりと姿を見ていないが、あの場所に誰かが居たことは間違いない。そして昨夜、魔物に追いかけられながらも迫った時、その人物は逃げも隠れもしなかったことから襲撃と無関係であるとは言い難い」


 一回目と二回目で見た人物は同一人物か、襲撃とどう関係しているのか。仮説を立てるにも情報が少ない。


「そもそも、襲われる理由自体が不明だ。ティアの言う通り俺が人体実験の被害者だとすれば、回収に来たとも考えられるが……」


 そしてカノアは、残る三つ目の過去に戻る現象についての整理をする。


「現象は二度あって、どちらも死んだ後に起きている。一度目は夜の森で、二度目は夜の街道で。昨夜も襲われはしたが、ティアが助けてくれた今回は過去に戻っていない」


 結局、何かを確定させるにはいずれも情報が全然足りていないという結論に達する。

 カノアはため息をつき、顔を上げた。

 頭の中で色々考えながら歩いていたこともあり、カノアは道を曲がった先で人にぶつかってしまった。


「おっと、大丈夫かい?」


 倒れそうになったカノアを、ぶつかった男が支える。


「すみません、少し考え事をしていて」


「おや? 昨日魔物に襲われたって聞いたけど、もう怪我は大丈夫なのかい?」


 カノアが顔を上げると、先日村の入口で見た男だった。


「ええ、孤児院のママに看病してもらったので、だいぶ良くなりました」


「そうかいそうかい。流石ママだ」


 ママの名前を出すだけで納得してもらえる辺り、この村でのママの信頼は厚いものらしい。


「君も色々と大変な思いをしたかもしれないが、この村はみんな助け合って暮らしている。特に孤児院の子たちは心に傷を負っている子も多いから、村のみんなも自分の子供のように接しているんだ。きっと君のことも助けてくれるから、色々な人に声を掛けてみると良いよ」


「ありがとうございます、カリオスさん。自分も村のために出来ることは手伝います」


「ははっ、良い心がけだね。村長が聞いたら泣いて喜ぶよ」


 ◆◇◆◇◆◇◆


 カノアはカリオスとの会話を終えると、村の入口の方まで歩いていた。

 村の入り口の外には、雨や風を防ぐための幌が掛かった大きな馬車が止まっており、そこで村長が誰かと話をしているのが見えた。


「こんにちは、村長」


 カノアは村長に話しかけ、一緒に居た男にも軽く会釈をする。


「ん? おお、おぬしは最近孤児院に来た。えー、名前は何だったかのう?」


「カノアです。色々とお世話になっていますが、改めてよろしくお願いします」


「ほっほっほっ。感心感心。礼儀がしっかりしておるのう。わしはお前さんみたいな子は好きじゃよ」


「ところで村長はここで何を?」


「おお、そうじゃそうじゃ。実はこやつから色々と買ったんじゃが、村の中に運ぼうとしたら危ないからダメだと止めよるんじゃよ」


 村長と一緒に居た男は旅の商人だった。村長の横には、商人から買ったという生活品などが入った大きめの木箱が置かれていた。


「いつもこの村にはお世話になっているから今日も色々と仕入れてきたんだ。そしたら村長さん全部買うって大盤振舞さ。私としてはありがたいけど、流石にこの量だと私一人では運べないし、この馬車は大きいから村の中まで荷物を載せて入ることもできない。そんな話をしていたら、村長さんが一人で運ぶって言い出すから止めたところだったんだよ」


 村長は元気ではあるが腰が曲がっており、確かに重たいものを持たせられる様子ではなかった。


「何を抜かすか。わしじゃって若い頃は冒険者として野山を駆け回り、魔物をちぎっては投げ、ちぎっては投げ」


「ええ、ええ、分かりましたから。どうです? せっかく若いのが来たのであれば任せてみては? 最近村に来たのであれば、村長のお眼鏡にかなうか見て差し上げるのも良いではないですか」


 商人は村長の機嫌を損ねないようにそれとなくカノアに話を振ると、村長の目に触れないようにカノアに申し訳なさそうな仕草を見せる。


「ええ、構いません。自分もこの村のために出来ることは手伝いたいと思っていたところです」


 カノアは状況を察し、自らも荷物運びに志願する。


「ふむ、おぬしがそこまで村のために働きたいというのであれば、今回は仕方あるまい。わしの怪力は今度見せることにするかのう」


 村長は肩を回しながら、満更でもない様子でカノアに荷物を譲る。


「それじゃあカノア君。私が片方持つから反対側を持ってくれ」


「ええ、分かりました」


「そうしたら、わしは馬車を見ておいてやるかのう。もしこの馬が暴れ出したら、その時こそわしの剛腕が大地を揺るがすときじゃ」


 馬が暴れたときに大地を揺らして何が解決するのかは分からないが、ひとまず村長はおとなしく待っていてくれるらしいので、カノアは商人と一緒に村の中に荷物を運び始めた。

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