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リフレイン・コード -神葬のレクイエム-  作者: 八神綾人
第一章 リフレイン・コード
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序編 第0話『prelude -The world re'frain itself-』

 みんな死んでいた。

 少年の眼前には黒いオオカミのような獣が群れていて、ひときわ近くの獣は口元から鮮血を滴らせている。


――何を間違えた、何を見逃していた。

 

 絶望が頭の中に反響する。

 つい先ほどまで子供たちを守っていた孤児院のママも、今となっては言葉を発することもなく横たわっている。


――どうして、村の中に魔物が。

 

 少年は思考を張り巡らせるが、痛みが邪魔をする。

 右の腰の辺りは真っ赤に染まり、次第に痛さは熱さに変わっていく。

 その熱さは、腎臓の辺りから喉元まで順番に焦がすようにせり上がってくる。

 やがて喉元を過ぎると息苦しさが赤い塊となって口から溢れ出た。

 

――どうして、こんなことになった。

 

 自分の選択がこの結末を生んでしまったのだろうか。

 少年は今日一日の行動を懺悔するかのように一つずつ思い出す。

 僅かな希望を手繰り寄せるように、出来るだけ正確に、一つずつ。

 

 しかし、状況は考慮する時間を与えてくれない。

 獣の群れに囲まれて満身創痍。一瞬でも気を抜けば、そのまま意識を夜の暗がりに放り出してしまいそうだった。

 

「おーい、大丈夫かー!!」

 

 少し離れたところから、聞き覚えのある村の男の声が響いてくる。


――この声は。


 男の声に合わせ、獣の群れは音も立てず闇夜に姿をくらませた。

 

――こっちに、来るな。

 

 少年はそう言いかけて、もはや言葉を発することも困難になっていることに気が付いた。

 

「うっ、何だこの匂いは!?」

 

 暗がりの中に無数の紅い眼が浮かび上がり、男はそれらが自分を見ていることに気が付いた。

 

「ひえっ! ま、魔物!?」

 

 男は手に持っていた松明を落とし、腰が抜けたようにその場に座り込む。

 地面に転がり落ちた松明は近くにあった血だまりを焦がしながら消火され、その明るさを失った。

 やがて暗闇の中から男の叫び声が聞こえたかと思うと、骨の砕ける音と肉の裂ける音が聞こえてきた。

 

「やはりこうなってしまいましたか。……仕方ないですね」

 

 地面に倒れ込む少年の元に、暗闇の中から一人の男がゆっくりと姿を現した。


――誰だ。


 朦朧とする意識の中、男の顔だけでも見なくては、と少年は視線を上げる。

 男の顔はうさぎのような仮面で隠れており、その仮面にはピエロのような模様が描かれていた。

 

――顔が、見えない。

 

「今夜はおとなしく孤児院で過ごしていれば、死なずに済んだものを」


 これだけの惨劇を目の当たりにして、男はまるで少年たちに非があると言わんばかりに言葉を紡ぐ。


――この声は、老人……?


 口ぶりからして、この老人は少年が孤児院から脱走しようとしていたことを知っていたようにも聞こえる。つまり、この老人が少年たちの行動を抑止するために、この惨劇を招いたとも受け取れた。


――だが、それはおかしい。

 

 少年は残されたわずかな時間の中で、過去の記憶を出来る限り思い起こす。思い出せば思い出すほど、やはり納得出来ない。

 何故なら、


―― ()()()()()()()()()()()()()()()()()のはずなんだ。

 

 孤児院の子供たちや村の人たちも死んでいる。そんなことは起こってはいけない、あってはいけないことなのだ。

 

「さて、私は引き上げるとします。さようなら、カノア君」

 

 老人は周囲に転がる死体を一覧すると、ため息をつき踵を返す。


「――――」


 老人は何か喋っているようだったが、もはやカノアにはその言葉を聞き取ることさえ困難だった。

 カノアは少しずつ闇に紛れていくその背中に向かって手を伸ばそうとするが、指先一つ動かすことが出来ないことで、自身に残された時間の短さに改めて気付く。

 

――ふざけるな。

 

 カノアはひどく呪った。

 去っていく老人を、この惨劇を、この運命を。そして、こんなシナリオを綴った神を。

 

――必ずお前のところに辿り着いてやる。そして――


「お前のことを殺してやる」

 

 最後の灯が燃え上がるように憎しみを吐き出すと、宵闇の中に意識を手放した。

 カノアは、()()()()の死を迎えた。

数ある作品の中から本作をご覧いただきありがとうございます。


この物語は、異世界ファンタジーにミステリーの手法とSFの要素を取り入れた長編小説になります。

読者様の予想をひっくり返し、想像の先をお見せすることを目標としています。

続きが気になると思っていただけましたら、是非作品のフォローをお願いいたします。

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