雑魚ゴブリンしか召喚出来なくてパーティーを追放された俺、ダンジョンの奥底で召喚士を召喚出来る様になったので最強の冒険者として気ままに生きる〜召喚した召喚士は、神話級モンスターを召喚出来る様です〜
「ルイド、お前をこの永劫の剣から追放する」
「……えっ?」
酒場にて、突如パーティーのリーダーであるヴァルトからそう告げられた。
「召喚士は珍しい職業だから置いておいたが……流石にお前は弱すぎる」
「そうねー、召喚するのがいつも雑魚モンスターのゴブリンじゃねぇー」
魔法使いのユミルも、ヴァルトに同意する。
「えっ、ちょっと待てよ……俺結構色々援護して来たと思うんだけど?」
「おいおい何言ってんだおめぇ? むしろ俺らがお前をキャリーしてただろ」
戦士のギリダスが足を机に乗っけながらそう言って来た。
「ギリダスの言う通りよ! というか! あのゴブリン共が邪魔な時もあったしー!」
「あっ、あれはお前が無茶してモンスターと危険な距離になりかけたから――!」
「はぁー? 言いがかりはやめてよルイド!」
ユミルが背もたれに勢いよく寄りかかる。
「ルイド、ユミルはちゃんと攻撃魔法と回復魔法をしてくれている。そしてギリダスは俺が仕留めきれなかったモンスターを倒したりしてくれるなどのカバーをしてくれている。だがお前は俺らの邪魔をするゴブリンを召喚するだけ。追放するのは当然だろう」
「っ……この話……マジなやつなのか……? ドッキリとかじゃなくて……」
「大マジだ」
「さっさと出ていきなさいよ」
「シッシッ」
あっ、これ本当にガチなやつだ。
「そんなっ……!」
ショックで力が抜けて膝に手をつくと、視界が歪んで涙が手の甲へ零れ落ちた。
「うわ、コイツ泣いちゃったよ」
「えー、私らが悪者みたいじゃーん」
「チッ、周りが変な誤解するだろ。早く行け」
涙を拭き、無言で席を立って酒場の扉を開ける。
「やぁーっとお荷物がいなくなった」
「これからは、また新たな仲間でも探しながら旅をするとしよう」
「さんせぇーい!」
酒場から三人の楽しそうな声が聞こえて来た。
人を追放したばかりなのに……何でそうテンションを変えられるんだ……!
ふつふつと心の中で怒りが込み上げてくる。
「すぅー、はぁー」
深呼吸して、俺はその怒りを鎮めた。
「取り敢えず、これからどうするか考えよう」
懐から冒険者カードを取り出す。
『名前:ルイド・アッカーサー
Lv:15
職業:召喚士
冒険者ランク:D
所属パーティー:永劫の剣
HP:100/100
MP:150/150
スキル:【召喚 (ゴブリン)】消費MP:10』
パーティーから追放されたから、まずは冒険者ギルドに行って、冒険者カードの所属パーティーの部分を無所属にしないと……。
「……ううっ」
皆んな、旅の道中あんなに優しかったのに……。
また悲しさが込み上げて来たが、涙を堪えて冒険者ギルドへと向かった。
「あの」
「はい、何でございましょうか?」
受付嬢が上目遣いでそう質問してくる。
「冒険者カードの変更をお願いします」
「かしこまりました。どの部分を変更なさいますか?」
「その……所属パーティーの部分を……む、無所属に……」
「……かしこまりました」
気まずい! すっごい気まずい!
「冒険者カードを頂いてもよろしいでしょうか?」
「あっ、はい!」
冒険者カードを渡すと、受付嬢が少し驚いた表情をした。
多分、所属パーティーの部分を見たのだ。
俺が所属していたパーティーである〝永劫の剣〟は、最近冒険者界隈でかなり有名になってきているパーティーなのだ。
勇者に近い力を持つと謳われる天才剣士ヴァルト・ラージェスト。攻撃と回復魔法が出来る最強魔法使いユミル・ヴァーン。そしてどんな武器でも扱える器用な戦士ギリダス・レパーロ。
もう有名になる事間違いなしのこのラインナップの中に、俺がつい先程までいたのは奇跡としか言いようが無い。
まあ、何であのパーティーに入れたのかはさっきヴェリトに直接言われたのだけれど。
取り敢えず、そんなパーティーから追放されてきた人を見るのは珍しかったのだろう。
受付嬢はカードを見ながら奥に行って、数分後ちゃんと所属パーティーの部分が無所属になった冒険者カードが帰ってきた。
「ありがとうございました」
「またのお越しを、お待ちしております」
受付嬢に対してお辞儀をし、冒険者ギルドの外に出る。
もう一度冒険者カード取り出し、無所属の部分をマジマジと見る。
「……ふぅー、これからどうしようかな」
追放されちゃった訳だし、取り敢えずお金を稼がないと……。
「ダンジョン……にでも行くか」
ダンジョンとは、この世界にある謎の構造物だ。
中には危険なモンスターが沢山いたり、物凄く危険なトラップがあったりするが、貴重な鉱石が採れたりなどかなりの需要がある場所だ。
「ここから近いダンジョンは……確か東の方のダンジョンか……」
じゃあまずはそこに行って今後の生活費を稼ぐとしよう。
そして俺は、東のダンジョンへと向かうのだった。
◾️ ◾️ ◾️
「……ここか」
ダンジョンに着き、少し周りを見てみる。
「意外と人いないんだなぁ」
そんなに人気の無いダンジョンなんだろうか?
まあ、それならそれで良い。
モンスターやアイテムの取り合いにならないし。
「取り敢えず、三層くらいまで行くかー」
ダンジョンには層があり、深くなるにつれどんどんモンスターも強くなっていく。
もちろん、強いモンスターを倒せば手に入る経験値が多くなるし、深ければ深いほど希少なアイテムが手に入りやすくなる。
因みに、このダンジョンは八十五層まで確認されているそうだ。
それ以上はモンスターが強すぎて確認出来ていないらしい。
まあ、俺には関係ない話だ。
何故なら……
「うわぁぁぁ!?」
『クェーッ!』
一層目のちょい強モンスターで苦戦するからである。
「しょっ、【召喚】!」
地面に魔法陣が描かれて、緑色の肌をしたゴブリンが、ボロそうな棍棒を持って魔法陣からスゥーっと出てきた。
『ギギィッ!』
『クェーックェーッ!』
ゴブリンが棍棒で鳥のモンスターを倒す。
ふぅ、危なかった……。
側には一体のゴブリンの死体。
そう、今召喚したゴブリンは二体目である。
前代ゴブリンは、召喚してすぐにこのモンスターに頭を突かれて死んでしまった。
「一層でこれか……まあ、三層でも何とかなるだろ」
流石に先ほどのゴブリン君の様な即死はあまり無い。
あったら俺はもっと早くパーティーを追放されている筈だ。
因みにだが、俺はMPが最大150ある。
そして【召喚】一回につき消費MPは10なので、あと十三体召喚する事が出来る。
このくらいの数がいれば、三層でモンスターを討伐する事くらいは出来る。
「よし、さっさと行こう!」
二層目は猛ダッシュで突破し、三層目に入る。
『ゲゲゲッ!』
おっ、ここで遂にゴブリン達と遭遇か……!
持ってる武器も鉄の剣だし、俺のゴブリン達じゃ敵わなさそうだ。
「【召喚】!」
『ギギギッ!』
なので、俺も参戦する!
腰の短剣を抜き、逆手に持つ。
これが俺にとっての構えなのだ。
そして敵ゴブリンを回り込む様にゴブリンと共に攻める。
『ギギッ!?』
召喚したゴブリン君には悪いが、ゴブリンは馬鹿なのでこうやって回り込むと、どっちを攻撃したら良いか一、二秒程考えるので、その隙に攻撃を行う。
『ギギェァーッ!』
ゴブリンの首を短剣で斬り裂き、ちゃんと倒せたか肩越しに確認する。
ドサッ、とゴブリンが地面に倒れた。
「よし、倒せた!」
素材をポーチに入れて次へ進む。
モンスターの素材なんかのダンジョンで取れる物は、冒険者ギルドに持って行けば換金して貰えるのだ。
ゴブリンの耳とかは……一つ15ベジナとかで売れる。
因みにベジナとはこの世界の通貨の事だ。
『ギギギギィー』
おっ! 次のゴブリンが来た!
またゴブリン君と共に回り込んで攻める。
「いやぁー、意外といけるなぁー」
この調子ならば、案外ゴブリンを沢山召喚せずともモンスターを倒しまくれるかもしれない。
『『ギャッギャッギャッ』』
今度は二体同時か……。
問題ない。
だってこいつら、二体いても先程の回り込む攻め方をするとどちらを攻撃するか迷うんだ。
ゴブリン君には本当に悪いが、馬鹿過ぎる。
「おらっ!」
片方ゴブリンの首を斬り裂き、もう一体の方はゴブリン君が注意を引き付けていてくれたので、背後から首を斬って仕留める。
「ありがとうゴブリン君!」
『ギギィ!』
【召喚】で呼び出したモンスターは、普通のモンスターよりも知能が高い。
なので、このくらいの受け答えはできるし、ゴブリン君が仮に敵二体に回り込まれる攻撃をされても、どちらを攻撃すればいいか一、二秒考えたりはしない。
『『『『ルギャギャギャギャギャ』』』』
よ、四体!?
「逃げるぞ!」
『ギィ!』
四体同時は流石にマズイ。
囲まれでもしたら、一貫の終わりだ。
『『ギッギ』』
「なっ!?」
進行方向に二体!
くそ、戦うしかないか。
「【召か――」
【召喚】と唱えようとした途端、地面が光りだした。
ゴブリン達が不思議そうな顔でこちらを見つめる。
「これは――ま、まさか!?」
転移型トラップ!
マズイマズイマズイ! 変な所に送られたら本当に洒落にならない!
「だっ、誰か助け――!」
しかし、周りに誰もいないこの状況で、誰かが助けに来てくれるはずも無く、俺は転移させられてしまうのだった。
◾️ ◾️ ◾️
「……ここは……?」
全く見たことも無い場所に転移させられてしまった。
というか、こんな壁の色をした階層なんて聞いたこともない。
『グオアァァァァァァァ!』
『ギシャェェェェェェ!』
「!?」
な、何だ今の鳴き声は!?
めちゃくちゃ野太い声だった……。
絶対に相当強いモンスターだろう。
あっちの方向には行かないでおくとしよう。
「ひとまず、どうやって上に戻るか……」
自分が今何層目に居るのかすら分からないから、あとどのくらいで地上っていうのが出来ないの精神的にキツイなぁ……。
だが、移動しないことには始まらないし、取り敢えずこの階層を探索してみよう。
「【召喚】、【召喚】」
自分の護衛用に二体のゴブリンを召喚する。
二体もいれば、上下の方向以外からの攻撃から守ってくれるだろう。
「そういや置いてきちゃったゴブリン君は大丈夫かなぁ……」
生きてくれているといいのだが。
まあまず自分が生き残らないと何だけどな!
「それにしても、本当に何層目なんだここは?」
ダンジョンは、とある部分を境に、壁の色が変わる。
その変わるまでの部分を、俺らは上層とか、中層とかいう感じで呼んでいる。
俺が先程までいたオレンジに近い赤色の壁をした所は、上層に当たる部分だ。
だが今は……暗めの黄緑色の壁だ。
だが、先程も言ったようにこんな壁の色は聞いたことがない。
つまり……
「もしかして、俺未到達階層に来ちゃった?」
未到達って事は、冒険者ランクがSの人ですら行けなかった場所って事だよな?
…………俺、想像以上にピンチじゃね?
『グガガガギゴグガガァァァ!』
「うおっ!?」
横から猛スピードで突っ込んで来たモンスターを、既のところで避ける。
『ギガガグゲ……』
巨大なカメレオンの様なモンスターが、涎をダラダラと垂らしながらこちらに顔を向ける。
目がビクビクと動いて、色んな方向を見てからこちらを見据える。
『ギギッ!』
『ギギギッ!』
ゴブリン君達が俺の前に立って棍棒を構えた……が、デカカメレオンにとってはそんなの何でもないようで、一瞬にしてゴブリン君達は吹っ飛ばされて、壁にぶち当たってぺちゃんこになった。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
無理だ! あいつには勝てない!
絶対に死ぬ!
デカカメレオンがいる方向とは真反対に必死に走る。
『ゲガギグゲゲェ!』
変な鳴き声を上げ、後ろからデカカメレオンが猛スピードで追いかけて来た。
「【召喚】! 【召喚】! 【召喚】! 【召喚】! 【召喚】! 【召喚】! 【召喚】!」
無我夢中で【召喚】を発動し、計七体のゴブリンが召喚された。
『ギギッ――』
一体のゴブリン君が、召喚された瞬間に、デカカメレオンがピャッと伸ばした舌に捕まり、食べられた。
『プゥウェ!』
不味かったのか、地面にペッと吐き出される。
「くっ、くそ! 【召喚】! 【召喚】!」
さらに【召喚】を二回発動した事により、ゴブリンの合計数は八体となった。
もう一体召喚出来なくは無いが、MPが尽きると数時間は気絶してしまう為、今ここでやるのは自殺行為だ。
つまり……この八体で何とかするしかない。
「行くぞ皆んな!」
『『『『『ギギィー!』』』』』
短剣を抜き、構える。
『ガガガガゲゲゲ!』
デカカメレオンが俺を狙って舌を伸ばして来たが、幸い少し距離があったので見てから避けることが出来た。
「あっぶね!」
ゴブリン君達が舌を戻すまでの間に攻める。
だが、デカカメレオンが舌で薙ぎ払いを行ったため、ゴブリン君達が吹っ飛ばされる。
「1、2、3……よしまだ全員生きてる」
死者がいなくて良かった。
この状況での死者は本当にキツイ。
『ゲゲゲゲゲゲゲゲ!』
デカカメレオンが鳴いたその瞬間――姿が消えた。
「なっ!?」
『ギギッ!?』
どこからか出てきたデカカメレオンの舌によって一体のゴブリン君が引っ張られ、捕食された。
『プゥウェ!』
そして上の方からゴブリン君が吐き出されて、ボトリ、と落ちてきた。
「嘘だろ……」
無理だ。
ゴブリン七体で、あんなヤツに、勝てるわけが無い。
くそっ、なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!
『プゥウェ!』
また一体、ゴブリン君が食べられて吐き出された。
残り六体。
どうする、どうやってあいつから逃げる?
……いや、逃げる方が駄目だ。
地形も何もわからない場所で逃げまわれば、相手が有利な場所に誘導されてしまうかもしれないし、何よりアイツの方が速いからすぐ追い付かれる。
つまり……戦わないといけない。
行けるか? ゴブリン君六体だけで。
『ギギッ』
俺を見て、一体のゴブリンがそう鳴いた。
まるで「大丈夫だ、やれる」とでも言うような声で。
ふぅー、と息を吐いて、気分を落ち着かせる。
ゴブリン君の言うとおり、大丈夫だ、やれる。
「やるぞ!」
決意を固めてそう言った。
『ガガゴゴギガゲェ!』
短剣を握り直す。
周りを注視し、いつでも攻撃できるようにする。
「……そこだッ!」
ゴブリン君達と共に攻める。
『ギェギェ!?』
そう、デカカメレオンの擬態は完璧では無い。
一秒未満ではあるが、ズレが起きるのだ。
つまり、少しだけ動いている壁を攻撃すれば、ヤツはそこにいる。
『ギェーッ!』
舌が物凄いスピードでデカカメレオンの口から飛び出す。
「ふっ!」
それをギリッギリのところで躱す。
間違いなくあと3cmほどズレていたら当たっていた。
「行けぇぇえー!」
ゴブリン君達が棍棒でデカカメレオンをポカポカと殴る。
『ガ、ガギゲェ……?』
ゴ、ゴブリン君達の攻撃が弱すぎてデカカメレオンが困惑してる……!
「おらぁ!」
困惑している隙に短剣でデカカメレオンを斬りつける。
『ガガガガガガガガガギギギギギグゲゲゲゲゲゲゲゲゲェェェェェエエエエエ!!』
攻撃された事により激しく怒り狂ったデカカメレオンの攻撃をバックステップで避け、まだ暴れているデカカメレオンを見て、攻撃が当たらないように接近して再度斬りつける。
『ギガグゴゴギギギガゴゴグゴゴゲゥガガガガガガァァァァァ!』
数体のゴブリン君達が攻撃に当たったが、俺らを狙った攻撃ではなくただ暴れているヤツの攻撃なので死にはしなかった。
が、恐らく骨折したりしている。
「大丈夫かゴブリン君!?」
『ギギィ!』
右腕がグニャとなったゴブリンが元気良くそう返事してくれた。
絶対痛いだろうに……。
だが、それでも大丈夫だと言ってくれたんだ。
それに応えなければ。
「棍棒を捨てて、鋭利な石を持って攻撃するんだ! デカカメレオンの攻撃に当たらない様に気を付けてくれ!」
『『『『『ギギィッッ!』』』』』
ゴブリン達がデカカメレオンに対して棍棒を投げつけ、近くの鋭利な石を拾う。
そして暴れるデカカメレオンの攻撃を掻い潜り、鋭利な石で体を斬りつけた。
『ゲガグゴゲガギグゲギグゲガゴォォォォォ!』
実は意外とゴブリンって身体性能高いんだよな。
ただ頭が悪すぎるってだけで。
「ナイスだ皆んな!」
俺は怒り狂ったデカカメレオンの尻尾の攻撃を避け、揺れまくる背中によじ登ってジャンプする。
『グゲガギゲ!』
顔をこちらに向けて、舌を伸ばそうとしてくる。
「くっ……!」
だがその時、横から石が飛んできてデカカメレオンの目にブッ刺さった。
『ゲェェェェェェェェェ! ギガグゲギゴゴグゴ……!』
短剣を頭上に構え、激痛に悶え苦しんでいるデカカメレオンの脳天に向かって突き刺す。
「おらぁぁぁ!」
力を更に込め、デカカメレオンの硬い皮膚に刃が刺さっていく。
『ゴガゲグゴゲガギゴグゲガギガゲギィィィィィィィィ!』
ド、ザッ、という音と共にデカカメレオンが倒れる。
「はぁ……はぁ……やった……のか……?」
足で何度か蹴り、死んでいる事を確認する。
「よっ……しゃぁぁぁぁぁ!」
『『『『『ギギィィィィィ!』』』』』
倒せた! 倒せたんだ! 未到達階層のモンスターを!
「やったなゴブリンく……ん……」
ボタボタと、ゴブリン君達の血が垂れる。
「あ……あ……」
周りには、戦闘音に釣られて来たのであろう大量のモンスター。
そいつらが、ゴブリン君達の心臓を貫いていた。
『ゲギギャギャギャギャ!』
『ガギゴゲギガギゴゲェェェェ!』
死んだゴブリン君達の死体を嘲笑うの様な鳴き声を上げる。
「じゃあ……さっきの……鳴き声は……」
喜びの歓声なんかじゃなく……心臓を貫かれた事による悲鳴……。
「うあああああああぁぁぁぁぁああああああ!」
『ゲゲゲッ♪』
嘲笑いながらジリジリと距離を詰めて来るモンスター達。
くそ……俺は、ここで……死ぬのか?
召喚はもう出来ない。
つまり、為す術が無い。
ギュッと目を瞑り、死を覚悟したその時――
『レベルが、50になりました。スキル【召喚 (召喚士)】を獲得しました』
と声が聞こえた。
「っ! マジかよ今か!?」
今の声は先程の様にレベルが上がったり、なんらかのスキルを獲得した時に聞こえる声だ。
いきなり過ぎて何て言っているか聞き取れなかったから、急いで冒険者カードを見る。
『名前:ルイド・アッカーサー
Lv:50
職業:召喚士
冒険者ランク:D
所属パーティー:無所属
HP:350/45
MP:400/10
スキル:【召喚 (ゴブリン)】消費MP:10 【召喚 (召喚士)】消費MP:10』
しょ、召喚士を召喚? どういう意味だ?
『ギゴロロロロロロロロロロロロロ』
『グップォァラパァッポゥォォ』
『ジャグウェェェェルチョロルレレレレレ』
あぁーくそ! もうこれに賭けるしかない!
ゴブリン君を召喚しても一瞬でもやられるのは目に見えてるし!
この状況を打開出来るスキルであれ!
「【召喚】!」
そう唱えた瞬間、ドクン、と心臓が跳ねた。
「かはっ……」
しまった……MPを使い切ってしまった……。
細くなった視界に光り輝く白い魔法陣が見えるが、瞼がどんどん重くなっていき、俺はそのまま目を瞑ってしまった。
◾️ ◾️ ◾️
「…………んん……」
あ、あれ? 生きてる?
俺未到達階層のモンスターに囲まれてたよな?
……あっ、天国かここ。
そうだよな。というかなんか後頭部にもちもちした感覚があるし、恐らく雲の上にでも寝っ転がっているのだろう。
よし、取り敢えず起き上がって天国を見てみるとす――
「お目覚めになりましたか?」
「!?」
知らない人の声に俺は思わず飛び起きる。
ぱっちりと開いた視界にはあのダンジョンの壁があった。
すぅー、はぁー……もしかして俺死んでない?
というか今のは誰だ?
ゆっくりと後ろを振り返る。
そこには……
「? どうかなされましたか?」
金髪でサラサラな髪、くっきりした目、長いまつ毛、ふっくらとした唇に、体は完璧に近い……いや、完璧過ぎるボンキュッボンの、所謂絶世の超絶美女が正座して俺のことを見上げていた。
「……どちら様で?」
そう言うと、彼女は立ち上がって履いているロングスカートの汚れをパンパンと払い、端を持ってお辞儀をした。
「自己紹介が遅れました。私は貴方様に召喚された召喚士の、エリシアと申します」
えっ、今彼女、俺に召喚されたって言った?
「君を……俺が、召喚したの?」
「その通りでございます」
マジか。
「それで……ルイド様」
「あっ、はい」
自分が召喚した人な筈なのに、敬語になってしまう。
あと様付けで呼ばれるのなんか凄いむず痒い!
「私は何をすればよろしいでしょうか?」
「な、何って言われてもなぁ……」
取り敢えずこのダンジョンから出ることかな。
ヴァルト達に復讐したいとかいうのは無いし……。
「このダンジョンから出る手伝いをして欲しい」
「かしこまりました」
「あっ、あと、タメ口で良いよ」
「それはいけませんルイド様! 貴方様は私の召喚主様なのですから!」
「え、えぇ……」
意思は固そうだ……仕方ない、慣れるしかないか。
「それで……えぇーっと……」
「?」
マズイ! こんな美人と話した事ないから心臓バックバクだ!
「ど、どうやってここから出たら良いと思う?」
「そうですね……やはり、上に行く為の階段を見つけるしか無いんじゃないでしょうか?」
「だよねぇ……」
すぅー、はぁー、と深呼吸する。
少しだけ気分が落ち着いて、心臓の鼓動がゆっくりになった。
「よし、取り敢えず、一緒に上に行く階段を探してくれるかい?」
「もちろんです!」
エリシアが俺の横に付く。
……そういえば、俺を囲んでいたあのモンスター達はどこへ行ったんだ?
「なあ、エ、エリシア」
「何でしょうか?」
「俺らを襲っていたモンスターはどうなったんだ?」
「あぁ、それならあの子が全部倒してくれました!」
……あの子が全部倒してくれました?
え、どういう事だ?
エリシアが指差す方向を見る。
「!?」
く、暗闇に、何かいる!
よく目を凝らしてその何かを見ようとする。
『ガルルルルル』
「ご紹介します! キマイラのキーちゃんです!」
『グオオオオオオ!』
キ……キマイラ……?
きまいら……?
……確か、神話級のモンスターじゃなかったか?
『グルルル……クゥーン』
「!?」
キーちゃんが俺の顔に頰をスリスリとしてくる。
えっ、何この子可愛いっ!
じゃなくて、何でエリシアがキマイラなんかを……。
……そういえば、紹介するって言ってたよな?
「なあエリシア」
「何でしょうか?」
「このキマイラって……君が召喚した召喚獣だったりする?」
「はい! 私の召喚獣です!」
やっぱエリシアの召喚獣だったぁぁぁ!
嘘だろ!? 神話級だぞ!? 世界でも目撃例がほぼ無いモンスターだぞ!?
「何でキマイラなんかを召喚出来るんだ?」
「まあ、私の修行の成果と言ったところですかね……」
普通、修行したところでキマイラなんて召喚出来ないんだが……。
「す、凄いな……」
「お褒めに預かり光栄です!」
キーちゃんが更に強く俺に頰を擦り付ける。
「うおっ」
「こらキーちゃん! ルイド様が困ってますよ!」
『クゥーン』
キ、キマイラ……何だよな……?
「キーちゃんが申し訳ありません」
「いやいや、別に気にしてないよ。むしろ可愛かった」
『ア゛ア゛ォン!』
キーちゃんは嬉しかったのかぴょんぴょんと跳ねながらそう吠えた。
「ありがとうございますルイド様。それでは、このダンジョンから出ましょうか」
「そ、そうしようか」
『アァオン、アァオン』
俺に体を擦り付けて来るキーちゃんと、それを少し心配そうに見つめるエリシアと共に、俺らはダンジョンを歩き始めるのだった。
◾️ ◾️ ◾️
「行って! キーちゃん!」
『グア゛ア゛ォン!』
『ギルロギィ!』
俺らはあの後、何層か上に登った。
そしてやはり、キーちゃんが強すぎる。
大体のモンスターはキーちゃんによって蹴散らされる。
「ありがとうキーちゃん!」
『ア゛ォォン!』
キーちゃんはそう鳴きながら他のモンスターを倒す。
「こっちだ!」
「はい!」
だがキーちゃん達だけに戦闘を任せるのは何と言うか申し訳ない。
そこで、俺は出来る限りキーちゃんの援護をする事にした。
永劫の剣にいた時にひたすら援護してたからな。
そういうのには慣れてる。
『グオオオ!』
『ヌンジュ!』
エリシア達を有利なポジションまで移動させ、モンスターを倒して貰う。
そして、また上の階層に続く階段を見つけて、登る。
これの繰り返しだ。
「上への階段見つけた! こっち! 早く登って!」
「行きますよキーちゃん!」
『グアアア!』
キーちゃんが俺らを咥えて背中に乗せる。
この方が移動速度も速い。
あと、めっちゃ快適。
超フサフサで、超気持ち良い……。
「ルイド様、次の層に着きましたよ」
「あ、あぁ、ごめん」
もっとフサフサを堪能したかった……。
「よいしょ」
キーちゃんから降りて、辺りを見回す。
「まだ色は変わらないか……」
「そうですね」
「エリシア、今が何層目とか分かる?」
「申し訳ありませんルイド様。分かりません」
「そうかぁー」
まあそうだよなぁ。
エリシアは俺があの階層で召喚しただけだし、これで分かってたら何で分かってるんだ? ってなるし。
「そういえばルイド様」
「ん?」
「レベルは幾つになりましたでしょうか?」
「えーと……」
懐から冒険者カードを取り出して見てみる。
「……ごめんエリシア」
「はい?」
「これ壊れちゃったっぽい」
「見せて貰っても?」
「良いよ」
エリシアに冒険者カードを渡す。
「……ルイド様、この冒険者カードは壊れていません」
「いやいやいやいや、レベルのところ見て!?」
「…………8959……ですね……」
「そう! 8959! 壊れてるじゃん!」
「ルイド様、落ち着いて下さい」
「……すぅー、はぁー」
深呼吸をすると、少し頭がスッキリした。
「……壊れてないって、どういう事?」
「単純な事です。このレベル8959が、今のルイド様のレベルです」
「で、でも俺、あれ以降一匹もモンスターを倒してないよ?」
「キーちゃんが倒してくれてますから」
「キーちゃんがモンスターを倒したら、俺のレベルが上がるの?」
「正確には、キーちゃんがモンスターを倒し、キーちゃんのレベルが上がると、まずキーちゃんの召喚主である私のレベルが上がります。そして次に、この私の召喚主様であるルイド様のレベルが上がります」
「つまり、キーちゃんがモンスターを倒すと、俺らにも同じ量の経験値が来るって事?」
「そういう事です」
なるほど。だからそんなにレベルが上がっていたのか。
「何で俺それを知らなかったんだろう?」
「ルイド様は私を召喚する前はゴブリンを召喚していたのでしたよね?」
「ああ」
エリシアには、何故俺がこんなダンジョンの奥底に来る事になったのかを話してある。
「ルイド様がゴブリン達を召喚していた時は、基本ルイド様が止を刺していらしたそうなので、気付けなかったのではないでしょうか?」
「あぁーそうか」
なんかそう言って貰えて少し気分が軽くなった。
「ありがとう」
「いっ、いえいえ、お礼を言われる程の事では……」
『……グルッ』
キーちゃんがエリシアの背中をグイッと押す。
「ひゃぁっ!? キ、キーちゃん何するんですか!?」
『グア゛ア゛ォン』
なんか、私も混ぜろと言っている様な感じがした。
「ごめんごめんキーちゃん」
『クゥーン』
ワシワシとキーちゃんの顎を撫でる。
『リジョモ』
「「!」」
前の方から泥の様な見た目のモンスターが現れた。
目は無く、というか顔にあるべき物が何も無い。
のっぺらぼうのようだが、泥で顔に沢山の皺を作っている。
正直言って、トラウマになりそうな見た目だ。
「キーちゃん!」
『グガア゛ア゛ア゛!』
キーちゃんが吠え、泥のっぺらぼうに向かって突撃する。
俺も短剣を抜いて構え、辺りを見回す。
他に泥のっぺらぼうは……二体!
「よっ!」
キーちゃんが一体の泥のっぺらぼうを倒すのに合わせて、俺はもう一体の方の泥のっぺらぼうを攻める。
『ビリュゥペ!』
泥のっぺらぼうの首? を斬り裂き、後ろに飛び退く。
「よしっ!」
レベルが8959まで上がってるなら、この階層のモンスターとも渡り合えるかもと思ってやってみたが……意外といける、かも?
まだ実感が湧かない。つい数時間前までは、俺は間違いなく淘汰される側だったのに、今では逆に、淘汰する側だ。
いやまあまだ俺より強いモンスターがこの階層にいるかもだし、俺が淘汰する側って言うには少し早い気もするが、どちらにせよ、前より全然マシだ。
『リュグペモォ』
さて、残りはもう一体だけだ。
『グルゥァア゛ア゛ア゛ォン!』
キーちゃんがそう大声で吠え、泥のっぺらぼうに突っ込んで喰い千切った。
『ドゥルグルゥプェッェェェェ!』
泥のっぺらぼうはその場で完全に泥になった。
「ふぅ、何とか行けたね」
「流石ですルイド様!」
「ありがとうエリシア」
『ア゛ァォン!』
「うふふ、キーちゃんもよく頑張りました」
『アァァォォォン』
エリシアがキーちゃんを撫で始めた事によって、殺伐としたダンジョン内が少しだけほんわかとした空気になった。
それにしても凄い光景だよな。
絶世の超絶美女が神話級モンスターであるキマイラを撫でてて、そのキマイラもまた顔をスリスリさせてるっていう……。
もうなんて言うか絵画を見てる様だ。
「? ルイド様、どうされました?」
「あぁいや、何か絵画みたいだなぁって」
「えっ、あっ、ありがとうございますルイド様」
『アァォン!』
「キ、キーちゃんもありがとうございますって言ってます」
『アォン!』
「そうかそうかー。よしよしよしよし」
『クゥーン……』
可愛いっ。
「それじゃあそろそろ移動しましょうか」
「うん、そうしよう」
俺らはキーちゃんに乗り、上の階層に続く階段に向けて走り始めたのだった。
◾️ ◾️ ◾️
「……んんっ……」
「あ、起きた?」
「はい、おはようございます。ルイド様」
あれから、多分五日が経った。
太陽に光を浴びていないので正確に何日経ったのか分からないのだ。
何層登ったのかも……覚えていない。
百層目を超えてから覚えるのをやめた。
『アォン……』
「キーちゃんもおはよ」
『クゥーン』
俺は立ち上がり、お尻に付いた汚れをパンパンと手で払う。
「それじゃあ、今日も行こうか」
「かしこまりました」
『ア゛ァォン!』
エリシア達も立ち上がって、ダンジョン内を歩き始めた。
「ルイド様」
「ん?」
「その……大丈夫なのですか?」
「あぁ、大丈夫大丈夫」
何が大丈夫なのかというと、俺は見張りとしてずっと起きていたのだ。
エリシアは「召喚主様にそんな事させられません!」と言っていたが、夜更かしは女の敵、と言うので何とか寝て貰った。
まあ、この様な見張りはこの五日間で交代交代でやって来てはいたのだ。
ただ、それをエリシアかキーちゃんがずっとやっていたので、今回は俺にやらせて貰ったという感じだ。
「だ、だとよろしいのですが……」
エリシアの心配そうな顔になんか凄く罪悪感を感じた。
「エリシア、ありがとうな」
「えっ?」
「心配してくれて」
「……〜〜っ!? おっ、お気になさらず……」
『……』
なんか、キーちゃんが「ほぉ〜ん」という様な顔でこっちを見てくる……。
『アォン』
そして俺の背中を鼻で押して来た。
「ちょっ、何だよキーちゃん」
『……アォン』
「ほらほら、よしよしよしよし……」
そんな会話をしていると、上に続く階段を見つけた。
「あった、階段だ」
「では登るとしましょう!」
『アォォン!』
幸いな事に近くにモンスターはいなかったので、登るのを邪魔されたりはしなかった。
「よし、登れた」
「モンスターがいなくて良かったですね」
「本当にね」
前に、登っている最中にめちゃくちゃデカいコウモリが何十匹も襲って来た事があった。
あの時は急いで登ったので何とかなったけど……登れなかったらマジでヤバかった。
因みに、モンスターは階層の移動は出来ないらしい。
だからあのデカコウモリから登るだけで逃げれたのだ。
「さてと……壁の色は……下層のままか」
あの後、一度だけ壁の色が変化した。
暗めの黄緑色から、紺へと変色したのだ。
紺色は下層の色なので、ようやくあの深層(仮命名)から抜け出せたと二人と一匹で大喜びしたのを今でも覚えている。
でも、ずっとそれ以降ずっと下層なんだよな……。
流石にそろそろ中層に行きたい。
「まあ仕方ありませんよ。深層から出るのにも結構時間が掛かったじゃないですか」
「まあ、そうなんだけどね……」
そう分かっていても中々にクるものがあるんだよ……主に精神的に。
「取り敢えず……また探すとしようか」
「はいっ!」
『アォン!』
そうして俺らは新たな層を歩き――出そうとした。
『『『『『リピロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!』』』』』
「「『!?』」」
背後から鴨の様な見た目をした、足がものすごく大きいモンスターが大量に現れた。
「いっ、一体どこから……!?」
「分かりませんが、どうやら戦わないといけなさそうです!」
「だな!」
このダンジョンで学んだことがある。
まず、モンスターと出会ったら即行逃げてはいけないという事だ。
そりゃあ、ドラゴンとか間違いなく戦ったら負ける様なやつに出会ったら、逃げても良いが、それ以外であれば戦ったほうが良い。
何故かというと、大抵の場合俺らより向こうのほうが移動速度が速いからだ。
なので逃げても無駄に体力を消耗するだけになる。
キーちゃんに乗って逃げるという手はあるが、逃げた先にもっと強いモンスターがいる可能性も否めないので、最終手段と考えた方が良い。
よって一番良い選択は、戦うなのだ。
(まずは相手の攻撃方法を見よう……)
モンスターに直ぐ様攻撃するのは悪手だ。
相手がどんな攻撃方法を持っているか分からないのに攻めるのは危険すぎる。
『ピロロッ!』
アシデカカモはくちばしからピュッと物凄い勢いの水を発射してきた。
「うおおっ!? そっちかよ!?」
てっきりあの大きな足を使ってくるもんだと思ってた!
迫りくる水をジャンプして回避し、俺はその水を放ってきたアシデカカモに向かって短剣を構える。
背後で岩が崩れる音がした。
恐らく今アシデカカモが発射してきた水が崩したのだろう。
(さっきくらいの威力の水ならば……受け流せる!)
ダンジョンでモンスターと戦っている内に、モンスターとの戦い方が分かってきた。
攻撃の受け流し方や回避の仕方。他にも相手の癖を見抜いたりする観察力なんかの元から少しはあった力が、めちゃくちゃ鍛えられた。
今では、見るだけでその攻撃の威力が自分の受け流せる範疇内なのか分かる様になった。
「キーちゃん、左の方を頼めるか?」
『ア゛ウ!』
短剣を柄をしっかりと握り、アシデカカモを睨む。
(三……四……大体……十五匹か)
アシデカカモの攻撃を回避してすぐに全生物共通の急所である首を短剣で斬り付けられるアシデカカモの数を数えた。
「行くぞ!」
『ア゛ア゛ォン!』
『『『『『リリリピロロロロッ!』』』』』
アシデカカモ達がまたあの水をくちばしから発射してきた。
「はぁっ!」
前方にジャンプして地面に近い方の水を避け、空中から迫って来ていた水は体を捻って避ける。
そして着地した瞬間更に前に加速して、猛スピードでアシデカカモに迫った。
『リッ、リロピッ!?』
まさか自分達が発射したあの水を無傷で突破されるとは思っていなかったかったのだろう。
目を見開いて驚いているアシデカカモの首を短剣で斬り、続けて近くにいたアシデカカモの首も斬っていった。
そして十五匹目の首を斬った時、背後から高速で水が接近してきていたので、それをバク転をする事によって避けて発射したヤツを斬った。
「ふぅ、俺の方はこんなもんか」
キーちゃんの方を見てみると……
『ア゛ァォン! ア゛ォォォォン!』
とんでもない勢いでアシデカカモを倒していた。
「うわぁ……凄っご……」
あんな速度では倒せないな……。
『ア゛ォン!』
そんなことを思っていると、どうやら全部倒したようで、キーちゃんがそう吠えた。
『リピロッ!』
「! キーちゃん!」
『アォ!?』
直ぐにキーちゃんの元へ駆け寄り、アシデカカモが発射した水を短剣の腹を使って誰もいない方向へ受け流す。
『リリピッ!?』
『ア゛ア゛ア゛!』
戸惑っていたアシデカカモを、キーちゃんが右脚を振り上げて倒した。
「危なかったなキーちゃん」
『アウアウ』
短剣に付いた血を拭き、アシデカカモを三匹程掴む。
今日のご飯にする為だ。
「エリシア、怪我とかは無い?」
「心配して頂きありがとうございます。特に怪我などはありません」
「そうか、良かった」
『アォォン』
キーちゃんも、良かった〜と言っているような鳴き声を出す。
「それじゃ、探索を始めようか」
「はいっ!」
『アォン!』
そうして俺らは、上へ続く階段を探すために歩き出した。
「……そういえば、何でアイツらは足がデカかったんだろうね?」
「……なんででしょうね?」
そして、俺らの中で永遠に解けないであろう謎も生まれたのだった。
◾️ ◾️ ◾️
「「うわぁぁぁああああ!」」
『『『『『ギリュルルルルルルルルルルルルル!』』』』
現在、俺らは大量の人喰い植物モンスターに追いかけ回されている。
こうなったのは、大体十分前。
やっと中層に辿り着き、「やったぁぁー!」とはしゃいで喜んでいたら、囲まれていた。
……いやまあ、自業自得ではあるんだけど、今までずっと下層の色だった壁が、遂に中層の色になったのだから普通に喜ばせて欲しかった。
「キーちゃん! 何とか出来ないか!?」
『アウアウ!』
どうやら無理と言っている様だ。
「くそ……」
チラッと後ろを振り返る。
『『『『『ギリュロォォォォオオオオオオオオオ!』』』』』
うん、倒せる量じゃない。
因みに、最初の頃はちゃんと倒していたのだ。
ただ、いかんせん数が多すぎて、撤退せざるを得なくなった。
その結果が今のこれな訳である。
「どうすれば良いんだ……!?」
短剣は無理、キーちゃんも無理、エリシアを戦わせるのは論外。
だがこのままではこちらの体力が尽きて終わる。
やっぱり上に続く階段を探すしか……ないか?
でもそれを登れるかなぁ?
階段を登る際、少しだが速度が落ちる。
その時に追いつかれて喰われてしまうかもしれない。
いや、とりあえずは探そう。
そしてもし見つけたら、行けそうならば登ってしまおう。
「エリシア! キーちゃん!」
「はい! 何でしょうか!?」
『アォン!?』
「ひとまず上に続く階段を見つけよう! そんで行けそうだったら登っちゃおう!」
「かしこまりました!」
『アォォン!』
そして俺らはキーちゃんに咥えられてから背中に乗せられ、階段を探し始めた。
その際にも、色々な方向からあの人喰い植物が迫って来たが、キーちゃんがジャンプなどをしたりして何とか囲まれずに済んだ。
「あ! あった!」
走っていると、上に続く階段があった。
後ろを振り返り、人喰い植物と距離が離れているのを確認する。
「行ってくれキーちゃん!」
『アォン!』
キーちゃんが物凄いスピードで階段に向かって駆ける。
だが、
『『『『『ギリュレレレレレレレレレレレレレレレ!』』』』』
「なっ!?」
どこからか出てきた大量の人食い植物が、上の層に続く天井の穴を塞いでしまった。
これでは階段を登っても上の層に行けない……!
「キーちゃん! これはどうにか出来ないか!?」
『ア゛ォォン!』
キーちゃんはそう元気良く返事した。
どうやら、このくらいの量ならばなんとかなるらしい。
「じゃあ頼む!」
『ア゛ァォォォオオオン゛!』
キーちゃんが物凄いスピードで人食い植物たちの茎を噛み砕いていく。
『『『『『ギュルリルラァァァァァァァァアアアアアアアアアアアア!』』』』』
怒り狂った人食い植物達が、キーちゃんを喰べようと口を物凄い速度で近付けて来た。
「させるかっ!」
俺はすぐに短剣をに抜き、人食い植物達の口を斬り刻んだ。
口がないので人食い植物達は叫びはしなかったが、グネグネと茎を高速で動かしていた。
なんか……不気味な動き方だな……。
「はあっ!」
他にも迫って来ていた口を斬り刻み、あの穴を塞いでいる茎をキーちゃんに当たらない様に斬る。
「よし!」
遂に塞がっていた穴が空いた!
「突っ込んでくれ!」
『ア゛ォォォォン!』
キーちゃんが階段を使って穴に向かって突っ込む。
ぶちぶちと茎を引きちぎり、何とか上の層に行く事が出来た。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
結構な量の茎を斬ったので疲れた……。
穴から下を見てみると、人喰い植物達がのそのそと散って行った。
「はぁー!」
ゴロンと横たわってそう叫ぶ。
「お疲れ様でした、ルイド様」
「ありがとうエリシア。エリシアもお疲れ様」
「私は何もしておりません。ルイド様とキーちゃんのお力です」
「いやいや、エリシアがいてくれるから俺はこんな所でもやってけるんだ」
「〜〜っ!? な、何をおっしゃいますかルイド様! そんな事は言っちゃダメですよ!」
「え、えぇ……?」
俺、何か悪い事を言ってしまっただろうか?
だけど、なんかダンジョンの中とは思えないほど和やかな空気が漂っている。
良いなぁ、やっぱこういう空気の中にいるのが好きだ。
「と、時にルイド様」
「ん?」
「このダンジョンから出たら、何をしたいですか?」
「何を……したいか……?」
「はい。ベットで寝たいとか、ちゃんとした食べ物を食べたいとか、はたまたその食べ物を料理したいとか、あとは……わ、私と一緒にいたいとかごにょごにょ」
「え? ごめん、最後の方が聞こえなかった」
「な、何でもありません! あっ! 何になりたい、とかでも構いませんよ! 騎士になりたいとか、はたまたお花屋さんになりたい、とか」
何になりたいか……か。
「だったら俺は……強くなりたい」
「強く、ですか?」
「うん、俺がパーティーを追い出されちゃったのは、もちろんスキルが弱かったのもあるからど、俺自身が弱かったからってのが大きいと思うんだ」
「……ルイド様は凄くお強いですよ?」
「ははは、お世辞でもありがたく受け取っておくよ。まあ取り敢えず、このダンジョンで学んだ知識を活かして、ここから出た後もっと強くなって、それで……なんて言うか、気ままに生きれたらなぁ……って思うんだ」
「そうですか……とても良い目標だと思います」
「ははは、そうかな?」
「ええ」
そう言って貰えるのは素直に嬉しい。
何というかやる気が出て来た。
「エリシアは何がしたいの?」
「私は……ル、ル……」
「る?」
「ルイド様、と、いっ、一緒にいたいっ、です」
「…………!」
お、俺と一緒にいたい!?
「……」
エリシアを見ると、そっぽを向いていたが、少しだけ見える頬っぺたが真っ赤に染まっていた。
「……」
俺も何だか恥ずかしくなり、そっぽを向く。
ダンジョン内に似つかわしくない、先程の空気とはまた違う別の空気がもっと強くこの場を支配する。
「そっ、そろそろ行こっか!」
「そっ、そそそっ、そうですね!」
『アォォン……』
キーちゃんの「何してるんだ……」と言っている様な鳴き声の中、俺らは顔を少しだけそっぽに向けながらダンジョン内を歩き始めるのだった。
◾️ ◾️ ◾️
「やっと……ここまで来れたね……」
「そうですね……ルイド様……」
『アァォン……』
俺は壁に手を付いてこう言う。
「〝上層〟に……!」
そう、遂に、遂にだ!
遂に壁の色がオレンジ色に近い赤色になったのだ!
「よし、地上までもう少しだ! 突っ走ってしまおう!」
「はい!」
『アォォン!』
キーちゃんの背中に乗り、物凄いスピードでダンジョンを駆け上って行く。
途中、俺らを襲ってきたモンスターがいたが、深層でも無双していたキーちゃんが上層のモンスターにやられる筈もなく、むしろ向こうが逃げ出したところを、キーちゃんが体当たりだけで倒しちゃったりしていた。
出来ればそいつら素材を拾いたかったが、もうここに来るまでの間にポーチがパンッパンになっていたので、悔しいが諦めた。
そして、今……
「お疲れキーちゃん」
『アォォン……』
キーちゃんが少し疲れたそうだったので休ませる事にした。
まあ彼女は「まだ走れる!」と言っている様な鳴き声を出していたが、万が一があるといってなんとか収めた。
「エリシア、少しだけ見て回らないか?」
「え、大丈夫なのですか?」
「俺はこのダンジョンに潜って多少は強くなったからね。モンスターに襲われても、エリシアを守る事くらいは出来るよ」
「そ、そういう意味ではなく、疲労的な意味で……」
「あぁ、そっちの方でも問題無いよ。何せここに来るまで全部キーちゃんがやってくれたし」
本当にキーちゃんに感謝しきれないや。
キーちゃんがいなかったら、俺はもう死んでいる。
間違いなく。
「それじゃ、行こっか」
「はい!」
そして俺らはダンジョン内を散策し始めた。
「それにしても、やっと上層に着きましたね!」
「ああ、もうすぐ地上だと思うと、何というか泣けてくるな……」
本当にこのダンジョン内では色々あった。
転移トラップに引っ掛かったり、深層で死闘を繰り広げたり、レベルが上がってエリシアを召喚したり、めちゃくちゃ強いモンスターと戦ったり、モンスターを何とか料理したり……あと水の確保が大変だったなぁー。
水を出現させるモンスターから水を確保したりもしたっけ……懐かしいな……。
「俺はここに来る前より強くなれたかな?」
「絶対になれてますよ!」
「ははは、そう言って貰えると嬉しいな」
そうして二人で歩いていると
『ギギギッ!』
一体のゴブリンが俺らの前に出て来た。
「……ゴブリンか」
懐かしい。本当に。
「下がってて」
「かしこまりました!」
俺は短剣を腰から抜いて構える。
ゴブリン程度ならば……自分から攻めてみても良いか。
俺は短剣を腰付近に持って行って前傾姿勢でゴブリンに向かって突っ込んだ。
『ギッ、ギギッ!?』
ゴブリンは慌てて棍棒を振り下ろして来たが
「そんな振り下ろしじゃ、倒せないよ」
俺は短剣の腹で棍棒を右方向へ滑らせる。
『ギッ!?』
何故自分の棍棒が自分から見て左側の方向へズレて行くのか理解出来ていないゴブリンの首に、刃を入れる。
『ギェ……』
ゴブリンは慣性に従ってバタンと前に倒れ、動かなくなった。
「……ふぅ、一応ゴブリン相手には苦戦しなくなったな」
前は数的有利が無いと倒せなかったのに……ちゃんと成長出来たんだなぁ……俺も。
「エリシア、大丈夫か?」
「は、はい……」
「ん? どうしたの?」
エリシアが何か目を見開いている。
「今、何をしたのですか?」
「え? ただゴブリンの首を斬っただけだよ」
「え? はっ、速すぎません……?」
「そう?」
そんなに速かったかなぁ……?
「まあエリシアに怪我が無さそうで良かった。もう少しだけ歩いたら帰ろう」
「はい!」
そうして俺らは再度ダンジョン内を歩き始めた。
「……ん?」
すると、見覚えのある風景が目に入った。
「あ……」
「どうされましたか?」
「ここだ」
「え?」
「ここなんだよ、俺が深層に転移させられた場所」
「!」
俺は転移型トラップの一歩前に立つ。
「……」
あと一歩先に、俺をあの地獄へと送ったトラップがある。
でも、こいつのお陰で俺は強くなれたし……エリシアとも出会えた。
だから俺は、ペコッとお辞儀をしてエリシアの元に戻った。
「ルイド様……その、何故頭を下げたんですか? 自分自身を殺しかけたトラップですよ?」
「まあ確かにそうなんだけどね……でもほら、そのお陰でエリシアと会えたし」
「〜〜っ!? ル、ルイド様、不意打ちはダメです!」
「え? 不意打ち?」
「き、気にしないで下さい!」
そう言ってエリシアは早歩きで前へと進んで行ってしまった。
俺、何か怒らせる事を言ってしまったのだろうか……?
いや、不意打ちって言ってたし、何かを〝して〟しまったのかもしれない……。
その後、謝ったが「ルイド様が悪い訳ではありません」と言われた。
ふーむ……どういう事だ?
俺は少しそれについて考えながらエリシアと歩き始めた。
◾️ ◾️ ◾️
「そろそろ戻ろうか」
「そうですね、キーちゃんの疲労も回復したでしょうし」
そう言ってキーちゃんの所に戻ると……
『クゥーン』
めっちゃ甘えたそうにしているキーちゃんがいた。
「全く、どこを撫でてほしいんだ? ここか?」
『アォーン!』
「おーそうかここかー」
首の付け根辺りをわしゃわしゃとしてやり、早速出発をする事にした。
キーちゃんの背中に乗り、何となく辺りを見回すと、
「……!」
遠くの方に、チラッとゴブリンが見えた。
だがそいつは、すぐに岩陰に入ってしまった。
「ルイド様? どうかなされましたか?」
「あっ、ああいや、何でもない。頼む、キーちゃん」
『ア゛ァォン!』
キーちゃんが咆哮を上げて走り出す。
「……ありがとう」
俺はあのゴブリンに対して、そう呟いた。
『ア゛ォン! ア゛ォン! ア゛ォォン!』
キーちゃんはそう吼えながらどんどん駆け上って行き、そして――
「「うわぁ……」」
『アォォン……』
太陽の光が、俺らを照らしたのだった。
「うおっ……しゃぁぁぁぁぁぁ!」
「やっと……やっと地上に出れますね! ルイド様!」
「ああ!」
『ア゛ア゛ア゛ォォォォン!』
ダンジョンを出て、太陽光を全身に浴びる。
何せ体感一ヶ月ぶりの太陽光だ。感動ってレベルじゃない。
「太陽光が……こんな暖かくて気持ちいい光だなんて知らなかったなぁ」
「そうですねぇールイド様ー」
『アァォォン……』
体が勝手に両手を横に出して、全身で太陽光を受け止める様にしていた。
それほど太陽光を浴びるのが気持ちいいのだ。
「さてと……じゃあまずエリシア」
「はい」
「キーちゃんどうする?」
『ガウッ?』
「えっ、私?」と言う様な鳴き声を上げるキーちゃん。
「キーちゃんをどうする、とは?」
「この後街に行こうと思ってるんだけど、流石にキーちゃんを引き連れて行くのは目立ちすぎる。だから、どこかに待機してもらうとか……」
「あっ、ならば……キーちゃん、あれをやって!」
『アオン!』
そう吠えたキーちゃんの体がどんどん小さくなっていく。
「え、え!?」
『アォーン!』
キーちゃんが俺の肩に乗り、小さくなった顔で俺の頰にスリスリする。
「小さくなった……」
「神話級モンスターなどは、体を小さくする事が出来るんです。まあ、出来ない個体もいますけれど」
「凄いなぁキーちゃん」
『アオン!』
これなら街に行っても目立たないだろう。
「それじゃあ、出ようか」
「ええ、行きましょう、ルイド様」
『アァォォォォォォォン!』
キーちゃんがそう吠えるのと同時に、俺らは一緒に足を踏み出して、東のダンジョンから出た。
◾️ ◾️ ◾️
俺らはまず冒険者ギルドへと向かい、ダンジョンで上に上がっている最中にコツコツ集めたモンスターの素材を売る事にした。
因みに、キーちゃんは俺の腰に付けている中でも一番大きいポーチの中にいる。
『アァオン〜……』
気に入って貰えてる様だ。
「すみません」
「はい」
「その、換金をお願いします」
「かしこまりました」
冒険者カードと、キーちゃんが入ってるやつ以外のポーチに入っている魔物の素材をカウンターに置く。
「鑑定いたしますので、しばらくお待ち下さい」
そう言って受付嬢の人は奥へカードと素材を持って行ってしまった。
「おい、あの女の人超綺麗じゃね?」
そんな声が、耳に入ってきた。
「ホントだ。超美人だな」
「チッ、でも男持ちかよ。いなけりゃ、俺が朝まで楽しませてやるのに」
「はっ、お前より俺の方が楽しませられるね」
「「…………」」
何というか、エリシアで下品な会話をしないで欲しい。
実際エリシアも、その男達を見て少しだけ嫌そうな顔をしていた。
あと、キーちゃんはポーチから今にも飛び出して彼らに襲いかかりそうだったので俺が抑えている。
ちょ、噛むな噛むな。
「……ルイド様?」
「あっ、はい!」
いつの間にか、受付嬢がカウンター越しに立っていた。
「ルイド様、もう一度おっしゃいますが、冒険者カードに対して不正行為をしないで下さい」
「……え?」
不正行為って……何の事だ?
「ほら、ここですよ、ここ」
そう言って受付嬢が俺の冒険者カードの名前から下をグルーッと指でなぞる。
そういや俺も最近見てなかったな……ダンジョン内ではずっと緊迫した空気だったからあのレベルを教えてくれる声も聞こえてなかったし……一体どんな風になっ――
『名前:ルイド・アッカーサー
Lv:47063
職業:召喚士
冒険者ランク:D
所属パーティー:無所属
HP:256935/256935
MP:278643/278643
スキル:【召喚 (ゴブリン)】消費MP:10【召喚 (召喚士)】消費MP:10』
……想像より、とんでもない事になってた。
「こんなあからさまな不正をやる方が未だにいるんですねぇー」
「いやいや、これ本当に――」
「では、こちらに手をかざしてください」
そう言って受付嬢が手を向けたのは、レベル測定器だった。
冒険者になる時にこれを使ってレベルを調べて、そこから冒険者カードが出来るのだ。
「かざせば、レベルがすぐ分かりますので」
エリシアの方を見ると、エリシアはこくりと頷いた。
「すぅー、はぁー」
深呼吸をし、手をかざす。
するとレベル測定器に付いている数字が、猛スピードで動き始めた。
「!」
受付嬢の顔が驚きの表情に変わる。
チーンという音と共に出された数字は……
「よ……40000……7063……」
ちゃんと、正しい数値を叩き出していた。
「そんな……しょ、召喚士でこんなっ……」
受付嬢が後退りする。
それに釣られて他の冒険者達の注目が俺に集まる。
「その……早く換金しちゃってくれないかな?」
「あっ、はい! こちらになります!」
ドン! という音と共に大きな袋が開かれる。
「……え、もしかしてこれが……」
「ルイド様が持って来たモンスターの素材の換金結果になります」
俺は急いで袋を持って中を見てみる。
おぉぉぉぉぉ! 金貨が一枚……二枚……三枚……数え切れないぞ!
「ほっ、本当にこれが!?」
「はい」
「俺の!?」
「はい」
うっひゃぁー!
「あと、これは少し個人的になのですが……」
受付嬢の口元に耳を近づける。
「その、出来ればこれからも沢山クエストを受けて頂きたいんです。貴方の様な高レベルの冒険者さんは、やはり中々いなくて……溜まってしまっているクエストなどを消化して頂けると、本当に助かるんです」
冒険者ギルド思いの人だな……。
「分かりました」
俺はそう言って元の姿勢に戻る。
まあいづれこの大金も底を尽きるしな。
そうならない為にも、コツコツ稼がないと。
「今度はクエストを受ける為に来ます」
「ありがとうございます」
「では、また」
そう言って、俺らは冒険者ギルドの外に出た。
◇ ◇ ◇
〜永劫の剣サイド〜
「ふぅ、ここか」
俺達はルイドを追い出した後、まずはお金を稼ごうという事になり、このリーラダンジョンにやって来た。
「意外と長かったなぁ」
「でもヴァルト、それに見合う価値があるんでしょ?」
ギリダスとユミルが俺にそう聞いてくる。
「ああ、このダンジョンは意外と稼げるって噂のダンジョンなんだ」
冒険者ギルドで何人もの人がそう話していたから間違いない。
「一日でどのくらい稼げるものなの?」
「まあ……大体一万ベイルとかそこら辺りらしいぞ」
「あら? 意外と少な――」
「一人辺り、な」
「「!?」」
一日で一人辺り一万ベイルは、俺ら冒険者からするとかなりのお金だ。
普通のダンジョンとかだと、三人で8000ベイル行くかどうか。
そう聞くと、この一人辺り一万ベイルがどれほど凄いのか分かるだろう。
「そ、そんなに稼げるもんなのか!?」
「間違いない」
「なら早速行きましょ! 時間が勿体無いわ!」
ユミルが早歩きでリーラダンジョンに入って行く。
「あっ、おいユミル! 待ってくれ!」
俺らも急いでユミルを追いかける。
全く、ユミルは昔からお金に目がないからなぁ。
「相変わらずだな」
「だな」
俺らは少しだけ笑い合いながら、ユミルに追い付いて肩を掴む。
「おいおいそんなに焦んなって。まだ時間はあるぞ?」
「でも急がないと一万も稼げなくなっちゃうわ!」
「ユミル、忘れたのか? パーティーで一番大事なのは、協調性だそ協調性。ルイドみたいになっちゃダメだ」
「ごっ、ごめんヴァルト……」
「良いんだ」
ユミルの頭をポンポンと撫でる。
「ルイドを反面教師にするんだ。そうすれば、俺らは最強だ」
「うんっ!」
よし、これでユミルがどっかに行ったりはしないだろう。
「それで? どうやって一万も稼ぐんだ?」
「何も難しい事は無いよ。四層辺りに、素材が高く売れるモンスターが沢山湧くらしいんだ。しかも、結構弱いと来た」
「なるほど、そいつらを狩るんだな?」
「その通り」
「じゃあ四層に向かいましょ」
「そうだな」
俺が先頭を歩き、ユミルが中央、ギリダスが後尾になる様にする。
ユミルはこのパーティーで唯一回復スキルが使える。
だから、多少は傷付いてもユミルをモンスターから守らないといけない。
その傷はすぐに治して貰えるしな。
『ルチチチチチチ』
「! モンスターだ!」
二層に入ってモンスターと遭遇した。
この蛇のモンスターの模様……フィールスネークか。
「気を付けろ皆んな! フィールスネークだ!」
「んな事もう、分かってるよ!」
ギリダスがフィールスネークに対して剣で斬り付ける。
『チチチチチチチチ』
フィールスネークは上手く体をくねらせてそれを回避した。
「ほっ!」
だが、逃げた先には俺がいる。
『チシャァァァァ!』
フィールスネークの頭部に剣を突き立て、倒した。
「やったなヴァルト!」
「ああ、ルイドがいないとここまで楽なのか」
ゴブリンに邪魔をされない! 最高だ!
『『ルッチシャアァァァァァァァ!』』
「おっ」
どうやら、あと二体いた様だ。
「ギリダス」
「だから、分かってる!」
ギリダスが再度フィールスネークを斬り付ける。
『ルチッ!』
もう一匹のフィールスネークが、ギリダスを襲う。
「【火球】!」
『シャァァァァ!』
「ナイス!」
ギリダスが焼けて悶え苦しんでいるフィールスネークを今度こそ斬り裂く。
『ルチッ、チッ、チシィィィィィィィィ!』
最後の一匹になったフィールスネークがそう鳴いた。
「なっ!?」
すると辺りから大量のフィールスネークが現れた。
「おいおい、ちょっとマズくないかヴァルト?」
「大丈夫だ。今まででもこんな風にモンスターに囲まれたりしても、何とかして来たじゃないか」
「そうよギリダス! 今はもうあのお荷物だっていない訳だし! 前よりもずっとマシよ!」
「……そうだな、おし! なんか行ける気がして来た!」
「その意気だ!」
背中を合わせて、三人で360度死角が無いようにする。
『シシシシシシシシィィィィ!』
一匹のフィールスネークがそう鳴くと一斉に他のフィールスネークが迫って来た。
「おらぁ!」
俺らを噛む為に飛んでくる蛇を、剣で斬る。
よし、大丈夫だ。
数が多くとも、俺らにはそれを乗り切った経験がある。
だから今回も――
『シャァァァァァァアア!』
「!?」
右腕をフィールスネークに噛まれた。
「うっ!」
少し怯んでしまったその隙に、俺は沢山のフィールスネークに噛まれた。
「うああぁぁぁぁぁ!」
「ヴァルト! ぐあぁぁっ!」
俺に駆け寄ろうとしたギリダスが沢山のフィールスネークに襲われた。
「か、【火きゅ――きゃぁ!」
ユミルも俺らにまとわり付くフィールスネークに集中しすぎて、背後から襲われてしまった。
「くっ……!」
何が、何が起きている!?
前までフィールスネーク程度でこんな事には……!
「はっ! まさか……!」
俺らは……ルイドのゴブリンの邪魔が入る前提で動いてしまっている……!?
くそ、ルイドめ……! パーティーからいなくなった後も俺らの邪魔をするか!
「くそぉ、くそぉぉぉぉぉ!」
気合いで立ち上がり、フィールスネークを自身の肉ごと引きちぎる。
後でユミルに回復して貰えば問題は無い。
自分のを引きちぎり終えたら、ギリダス達に噛みついているフィールスネークを倒す。
もう彼らに噛みついているので、倒すのは簡単だ。
「痛かったぁ……」
「何で、フィールスネークごときに……」
「恐らくだが、まだルイドのゴブリンの邪魔が入る前提で俺らは動いてしまっているのだ」
「アイツ……いなくなっても私達のお荷物ね!」
「だな」
本当に、ルイドをパーティーに入れた事は間違いだった。
はぁ……過去の俺をぶん殴りたい。
「仕方ない、この癖が直るまで1層目でモンスターを倒すとしよう」
「チッ、仕方ねぇか……」
そして俺らは一層目へと戻って、モンスターを倒し始めた。
◇ ◇ ◇
その後、永劫の剣は自分達が弱いのをルイドのせいにし続けたせいでどんどんと落ちぶれていき、最終的に仲間割れをして解散する事になるのだが、それはまた別のお話である。
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