ファースト・嫌い
彼女→彼氏→彼女……のサイクルで会話が進みます。
「ねぇ、寒い。特に手先が凄く冷たいわ」
「そうだね、最近一気に冷え込んできたよな。……っと、手繋ぐ?」
「ありがとう。ちゃんと察してくれたのね。嬉しい」
「付き合ってから三週間くらい経つからね。君が思ってること、少しは分かるようになってきたと思う。ちょっと気恥しいけど」
「そうね。それじゃあ……私が今何を思っているか分かる?」
「うーん……さすがにノーヒントじゃ分かんないかなぁ」
「答えられないのを知ってて言ったから大丈夫よ。そこまで分かったら逆に怖くなってくるレベルだわ」
「僕もそれは怖い」
「ええっと、それじゃあヒントを。少し捻って言葉にするなら……嫌いかしら」
「えっ!? 嫌い!? 僕何か悪いことしちゃった……?」
「いいえ、あくまで捻って言葉にしただけだから直接受け取らないで欲しいわ。あと、手離さないで」
「あ、う、うん。それで、嫌いってゆうのは……」
「それを考えるためのヒントよ」
「そうだよなぁ。嫌い……嫌い……うーん……」
「ちょっと捻りすぎたかしら。じゃあもうひとつヒントをあげるわ。好きの反対は何?」
「好きの反対は嫌いじゃないの?」
「ええ、そうね」
「どうゆうことだ……やっぱり僕のこと本当は嫌いってことなんじゃ……」
「そうじゃないわよ。私はあなたのことずっと大好きよ? 付き合う一年半前からずっと好きだったし、これからもそうよ。その証拠に今繋いでる手はもう家まで離したくないと思ってるわ。なんなら繋いだまま家に連れ込んでそのまま二人で―――」
「ちょっ! ストップ! ストップ! 分かったから! 一旦落ち着こうね!?」
「私は至って冷静よ。あと、また手が離れてる」
「ごめんって……」
「まぁ、私のあなたに対する思いはずっと変わらないから安心して大丈夫よ」
「そうだね……なんだか鈍器でぶん殴られながら分からされた気分」
「それより、さっきの続き」
「えっと、好きの反対は何かって話だったよな」
「ええ、もう焦れったいから確実に分かるヒントを出すわ。普段あなたの心の中でやっているみたいに私に向けて好きを連呼すればいいの」
「え、なんで知ってるの」
「あら、半分冗談のつもりだったのだけど」
「墓穴掘ったぁ……」
「あなたが私のこと大好きなのは分かったから早く解き明かして頂戴」
「うぅ……なんで僕だけ…… と、とにかく好きを連呼すればいいんだな?」
「ええ、十回くらい言えばさすがに分かるわよ」
「じゃあ。好き、好き、好き、好き、スキ、スキ、スキ、スキ…………」
「どう? 分かった?」
「ええっと、そのぅ、つまり―――」
「ああ、答えは言わなくで大丈夫よ。もう我慢できないから―――」
「ちょ、ま、―――――っん」
「――――――ん、っぅは。……正解はキスでした」
「はぁ、はぁ、な、な、な!!!!」
「そんなに驚くことないじゃない。もう付き合って三週間経つのよ? 私がどれだけ待ってたと思う?」
「いや、僕もしたくなかったと言えば嘘になるけど……」
「もしかして、嫌だった……?」
「嫌…………じゃない」
「そう。なら良かったわ。ちなみに今の私のファースト嫌い、もといファーストキスよ」
「僕も一生忘れられないファーストキスになったと思うよ……」
「ふふっ、そうね私もそう思うわ。とゆうところで、ここでお別れね。……今の私の気持ち分かるわよね?」
「多分僕も一緒だから分かると思う」
「それじゃあ今度はあなたからどうぞ―――――」
「彼女と倒置法」の前日譚にあたる話です。
言葉遊びが好きな子と、それに真面目に付き合う初心な子が書きたかったんです。上手く表現出来ていれば幸いです。
さて、このあと彼女たちはどのくらい長く深くキスしたんでしょうねぇ。