round1
─2020年代某年大晦日、横浜アリーナ
場内は熱気と歓声に包まれる。この日、催されていたのは日本最大の格闘技イベント「FUーZIN (フウジン)」。そのメインイベントで二人の男が闘った。
倒れている男の名はホランド・メンウェザー。元ボクシングへヴィ級世界王者。そして勝ち名乗りを受けた男─即ち俺こそが茄子原武、23歳だ!
ゲーム漬けのいじめられっ子だった俺は中学に上がると柔道部へ入部、更に部活以外で空手道場にも通い、眠っていた格闘技の才能が目を覚ましたんだ。俺をいじめていた奴らはみな俺を恐れ、ひれ伏した。しかし心の底から頼れる友人は出来なかったと思う。そんなわけで、孤独なのは変わらなかったな。
「会場にお越しの皆様、メインイベントで秒殺しちゃってゴメンな!何てったって、俺は最強だから!!」
俺がマイクパフォーマンスで言った通り、 メンウェザーは1R10秒で俺にノックアウトされた。それも相手が得意とするパンチの打ち合いで、だ。このマイクに賞賛8:ブーイング2くらいの割合で満員の観客達は歓声を返す。
「日本どころか、世界にも闘う相手がいなくなっちまったなぁ!誰か俺に敗北を味わわせてくれよ!!」
締めのマイクも決まった。今の俺はミドル級にしてへヴィ級の強者を瞬殺出来る、自他共に認める世界最強の格闘家なんだ!
バックステージで俺は格闘技の専門誌からインタビューを受ける。
「茄子原選手、次の対戦相手は決まっているのでしょうか?」
「いや、まだ未定だけど俺を負かす自信がある奴なら誰でもいいよ」
と言ったところで、俺を負かせた奴は未だに現れてはいない。
「噂では真日本プロレスのTJPW王者ジョニー・オズマ選手と対戦の話が持ち上がってるとか」
「誰だよ、そんな噂流したの。ジョニーは年明けのドームでアトラス星野とタイトル戦でしょ?まずはそこを防衛しなきゃダメだね。 俺と闘うなら最強のレスラーじゃなきゃ」
と軽口で返す。
「最強のレスラーですか」
「そうだな、“ビッグバン・ボイジャー”くらい強いのを連れてきてよ」
ついボイジャーの名前を出してしまったが、20年以上前のマイナーゲームのキャラクターなんて、誰が解るんだかと我ながら反省する。
「ボイジャー? 『ギャラクシアン・バーリトゥード3』のですか?」
知ってるのかよ!ってか《《3》》!?
聞くところによると、とある世界的なゲーム会社がギャラバリの権利を買い取り、現行のハードでギャラバリの最新作である3を出したのだという。綺麗になったグラフィックと滑らかな操作性で令和の世に蘇ったギャラバリシリーズは、ネット対戦やプレイ動画配信等で爆発的な人気らしい。
10年前のあの日に俺はスバルにメガドラとギャラバリ2を譲って以来、ビデオゲームというものに一切触れていない。新シリーズでもボイジャーは健在なのか?10年ぶりにゲーム熱が再燃しそうだぜ。