表札
表札
いつから人は
表札から名前を消してしまったのか
名前のない家が
不気味に静かに
佇んでいる
高い塀が巡らされている家
西洋風の鉄の洒落た塀
木々を剪定してぐるりと家の周り囲んだ家
そばを通り過ぎると
冷ややかに済ました目が
じっと足跡を追う
家が名前をなくした日
人は他人行儀に
目を伏せて
何か恥ずかしいことでもしたかのように
そそくさと歩き去る
表札のナンバーは
服役囚のように
固く押し黙り
冷たく通る人々に
視線を這わせる
寂しくなった住宅街
ひっそりと静かに
アイデンティティを失くした家の中から
上手じゃないピアノの音が
こぼれ出てくる