表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

4話 見下ろす街並み

すると車から黒い服を着た男性3人が手に刃物を持ちながら降りて来た。


「はー? 今夜はこんな女一人かよ。先週みたいな可愛い女の子を期待してたのぉ」

「いや、頭がいい女の子は俺は好きだぜー」

「んなことより早く乗せよーぜ。警官がうろちょろしてやがる」


 突然の出来事に腰が抜けそうになる。

 今まで感じたことのない絶望が間近に迫っている。


 記憶をひけらかし、気持ち悪がられて、相手を怒らせる。

 飽き飽きするほど経験したこのパターン……。


「くっちゃべってねーで早くしろ。カイル! お前はグラリアが強姦するために誘拐を働いたと団地中の奴らに伝えてこい。これで報酬はもらえるはずだ」


「はいよー。溜まった上院議員の誘拐なんて皆飛びつくスクープですもんね」


 一人の男はケラケラと薄笑いながら団地に入っていった。


「さて、一回殴って黙らせるかー。セルベルいいよなー?」

「ああ、だが売りもんになんなくなるから顔は外せ」


 黒服の男は右足右手を突き出すポーズで間合いを取る。


「ん? お前どっかで……。ああ、思い出した『おさがりセフィ』じゃねーか!」


「――アナタは……ジェズ君ですか……?」


 思い出したくも無いニヤケ顔が目の前に立っている事がさらに恐怖を加速させる。

 あんな所の思い出なんか思い出したく無いのに……。


「そーだ! おさがりの制服におさがりの教科書はもう捨てちまったかー? あ、そっかお前施設育ちだからそんな勿体無いことできねーか!!」


 汚い前歯をちらつかせながら笑う男。


「弁当も毎日忘れましたー。とか言って水道の水ばっか飲んでたっけか? そしたらいきなり退学とか言うから落ち込んだんだぜー? 俺はお前の顔と体だけは買ってたからなー」


 いやらしい目つきに吐き気を催す。

 いや、これはあの頃のトラウマのせいかもしれない。


「ま、金は稼がせてやるからちょっくら付き合ってくれや……!」

「結晶装着!」


 唱文と共に透明なクリスタルが出現し、独特なファイティングポーズを取る男の拳をグローブのように覆う。


「おら!」


「キャ!!」


 白拳流の右フックが左脇腹を掠めた。


「――あ? てめぇ何ガードしてんだよ?」


 ダメ……軌道は分かっているけど素手じゃ太刀打ちできない……。

 でも多分次は……。


「ほら行くぞ! 結晶装着!」


 さらに右足にも結晶化したクリスタルが出現。

 ジェズは近づきながら回転し、クリスタルの重みで遠心力を生み出すと蹴撃力を極限まで高める。


蹴撃シュート!!」


「け、結合反転!」


 その瞬間、空気中の原子と結合し外殻となったクリスタルは分離反応を起こしながらバラバラに消失した。

 がしかし、ジェズの回し蹴りはそのままガードした腕に衝突する。


「はっ! 貧乏人のくせに――」

「ジェズ! やり過ぎだ。売りもんになんて技出してんだこの馬鹿が」


 次は議員に扮した男が近づいてくる。


「さて、お嬢ちゃんはこのまま大人しくついて来な……抵抗したら……分かるよなぁ?」


 限界まで顔に近づけられた口から煙草臭い息が顔にかかる。

 しかし、首元に突きつけられた銀のナイフを目の当たりにした私は叫ぶことすらできず、全てを諦めかけた。

 

 ――「セフィ……キツイ時や悲しい時は泣いていいのよ……私はいつでもあなたの……あなたの全ての味方だから」――

 

 一滴の涙はレンガ道に弾けると一輪の水の花を咲かせた。

 

「た、助けて……『《《ママ》》』……」


 その瞬間、弾けた水滴に緑色の何かが映り込む。 


『きて……白竹しらたけ

 

 咄嗟に顔を上げる。

 するとそこには寒空の空気に二筋の血潮が噴き上がった。


『ぐああぁあ!!!』


 寒空に響く低音の叫び達。

 

「――結合しろ。『紅石べっしき』」


 優しい声と共に空気を泳ぐ赤い液体は瞬時に結合し、ビー玉ほどの大きさの結合石となって街路に落ちる。


「――捕まってて……飛ぶよ」


 訳もわからないまま目を瞑り、彼の腕をギュッと握ると、私は生まれて初めて無重力というものを肌で感じた。


「な、なんだ!? お、おい!! あの女どこ行きやがった!!」

 

「――え? なんで……」 


 目を開けると無数の光蘭石が黄色く、そして美しく照らしたゼルセルの街を一望出していた。

 街ゆく人々の歩みや繁盛している飲み屋からは楽しそうな合唱が聞こえ、そして何と言っても全ての頂点で明るく光る満月がなんとも美しい。


「――やぁ、大丈夫? にしてもあそこで結合反転をチョイス出来るのは凄いよ」


「あなたは……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ