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 銀狼家に着いて、すぐにわたしたちは広々とした室に通された。


 室の中央には丸みを帯びた大きな木の卓が置かれ、それでもまだ余りある広さだった。卓の左右には二つずつ席が置かれていて、待ち構えるように三人の先客が座っていた。


 一番奥の、銀狼家の紋様を背負う席と、左手前だけ椅子が空いている。


 わたしは何の説明もなく連れられて戸惑っていた。彼らの目線から庇うように立ってくれている銀狼の背中が視界を覆う。

 普段は明るい雰囲気をまとう黄蓋までがピリピリと意識を三人に向けている。


 これまで経験したことのない種類の緊迫した空気に戸惑いつつも、せめて背を丸めないよう、姿勢を正して待った。



「銀狼さま、その娘ですかな?」



 口火を切ったのは、後ろになでつけた髪に一房の白髪が走った壮年の男だった。肩幅の広い体格に、上等な衣を身に纏っている。

 ここにいる三人は、揃いで銀糸を織り込んだ同じ意匠の衣を纏っている。

 それだけでなく、彼らの誰もが油断ならない空気を纏っていた。



「ーー旅の土すら落とす間もなく召集されるとは。四大老達がそこまで急ぐ理由が今あるとでも?」


「おやおや、銀狼坊っちゃまこそ、そそくさと理由を知りたがるとは。そのように短気でしたかな? この老い先短い身。坊っちゃまのお顔を早く拝見したいという希望を叶えてくださっても罰は当たらんだろうて」



 そう口にしたのは老婆だった。灰色の髪を頭のてっぺんで括って、大ぶりの宝玉がついた簪でまとめている。皺だらけの顔の中で、細めた瞳は油断なくこちらを観察していた。



「まぁ、まずは席についてもらおうじゃないか」



 そう言ったのは、三人の最後の一人、赤毛の色っぽい美しい女性だった。衣をしどけなく着崩して、それがまたよく似合っていた。



「黄蓋、あんたも自分の席にお座りよ」


 彼女はにっこりと艶やかに笑って、左の空席を指で示した。


「3番目の大老の席に」



 わたしは思わず黄蓋を振り仰いだ。

 あの空いていた席は、黄蓋のものだったのだ。

 そして恐らくは、一番奥の紋様を背負う席は銀狼のもの……。



「おいおい、どんぐらい長い話になるんだ? 先に議題を教えろよ。それ次第ではひとっ風呂浴びてからにさせてもらいてぇなあ」



 黄蓋も席にはつかず、手にした荷物を掲げて見せる。

 わたしはまた戸惑いを感じた。

 もちろん勝手に口を開くつもりはなかったけれど、ここにわたしまで居て良いのだろうか?

 尋ねるに尋ねられない。



「まぁ、仕方あるまいて。そんなに急かすなら本題に入ってやろう。我々も早く話を聞きたいのは同じ。その娘に興味深々なのじゃーー」



 わたしはハッとして肩が跳ねた。なぜ銀狼と黄蓋だけでなく、わたしまでこの室に通されたのか。

 それは、わたしこそがこの集いの目的だったからなのだ。

 銀狼の背の端から視線が突き刺さる。

 そして、銀狼のぴりぴりした意識も。



「ならばこそ、多少の身支度のお時間はいただきたかったところですね。ご紹介するのはやぶさかではないが、それはわたしから場を設けて行うべきことーー」


「ところがそうとも言ってはおれんのじゃ」


「なにを言って……?」


「他家から銀狼へ嫁入りの打診が来たーー嫁入り希望の本人とともにな」


「ーーーー!?」


「ちょっと待てや。本人が? 何言ってんだ?」



 黄蓋の疑問を銀狼が片腕で制した。



「わかった。緊急で話すべき状況であり、なぜこれほど急いてまで彼女を見定めようとするかは。詳細は座って聞こう」


 そこで銀狼はわたしを振り向いて、強張った顔に心配そうな色を乗せた。


「美雨、君をここにいる皆に紹介したい。名を名乗ってくれるか。本来なら手順を踏んで説明したかったがーーそうとも言っていられないようだ」



 わたしはこくりと頷いた。

 緊張はするが、心のどこかは静かだった。値踏みするような目線はあっても、危害を加えようとするつもりはないと感じられたからかもしれない。


 先だって、怒気と殺気にまみれた妖と対峙したからこそ分かることでもあった。

 そして何より銀狼の背中がわたしを傷つけまいとしてくれていることが伝わって、それだけでも、おなじこの空間に自分の味方をしてくれる人がいると言うことが、これから何を言われるとしても心強いものだった。



「では、紹介しよう。彼女がこの度、申し伝えていた通りに長年行方を探していた相手であり、我が花嫁として迎えたいと考えている女性だ」



 銀狼の背が横にずれて、わたしは三人の視線を真正面から受け止めた。



    ⌘ ⌘ ⌘

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