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    ⌘ ⌘ ⌘



 扉にドン!と体当たりする音が響いたのは、銀狼たちが出かけてからしばらく後だった。


 ハッとしてわたしと薬師は目を見合わせた。


 最初は銀狼たちが帰ってきたのかと思った。

 ただ、妖の封印をこなしてきたにしては、やけに早いーー。


 壁際で荷物と共に丸まっていた子猫がぱっと跳ね起きて、

「シャーッ!!」

 と総毛を逆立てて入り口に対して威嚇した。


 それに、なんとなく陰鬱な気配がするのは何故だろう?

 ふとそう思った瞬間に、また激しくドン!という音が扉から開いて、わたしはそろそろと入り口に近づいた。その間も、ドン! ドン!と音が続く。



「銀狼?」



 返事がない。

 彼に言われて、二人が帰ってくるまでは戸を開けないよう言いつけられていた。



「黄蓋……?」



 声が出せないのだろうか? それほどの傷を負っているにしては、扉を叩く音は激しすぎた。

 なにかの怒りを感じるほどに。

 戸惑ってしまって、わたしは鍵をすぐに開くか迷った。その迷いは功を奏したのだろう。

 窓辺から入り口の方向を覗き込んだ薬師が、なかば悲鳴のように叫んだ。



「妖だ!」


「えっ?」


「妖が、扉に体当たりしている!」


「ーー!!」


 わたしは息を呑んだ。


「ひいっ! そんなに扉は保たないよ……どうすりゃあ良いのかね⁉︎」



 薬師はガタガタと震えていた。当然だった。さきほど恐ろしい妖からやっと逃れたというのに、またその身に危険が迫っているのだから……。


 わたしの頭にも、幼い日に怪我を負った銀狼や、無惨に背中を切り裂かれた父と母の姿が思い浮かんで、足がすくみそうになる。


 それを必死で振り払う。



「今、今わたしにできることはなにーー!?」



 考えなければ。

 銀狼たちがいない今、この建物のなかでもっとも妖をなんとかできる可能性があるのはわたしのはずだった。

 たとえ、ほとんど知識がなくとも、この体に流れる血が、瘴気からは守ってくれる。


 瞬間にさまざまな考えが頭をよぎる。


 どこかの窓から抜け出して、銀狼たちに知らせに行く?

 ううん、ダメだわ。

 どんなにわたしが精一杯の力で駆けたとしても、この扉が破られる前にどこにいるか分からない銀狼たちを見つけて戻ってくるなんてできない。


 怪我人たちと薬師を連れて逃げる?

 それもわたし一人の体力では無理。


 じゃあ、ならば、何ならできるーー?


 扉は妖が体当たりするたびにミシッと嫌な音を立てて、衝撃でうっすらと割れ目が入ってきている。

 もうあと数回ほどで破られてしまう。


 そのとき子猫が「シャーッ」と荒い声をあげて、つい目をやった拍子に、宿屋から持ってきたわたしの荷物が写った。



「はっ!」


 わたしはよろよろと導かれるように子猫のそばに向かう。


「もしかしたら……意味がないかもしれないけれど……!」


 震える体をおさえて、わたしはそっと手を伸ばす。


「どうせ他にできることはないわ」


 わたしの荷物として宿屋から持ってきていた琵琶琴を、かすかに震えるこの手に取った。

 意味はないかもしれない。


 でも、子猫に取り憑いた瘴気を払うことができたなら、唄ですこしでも妖をひるませられるのではないか。

 それはただの思いつきでしかなかった。

 銀狼たちとの、許可なく歌わないという約束も破ってしまう。



 それでも、今、わたしにできることをーー


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