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殺身成仁 (孔丘)

作者: なか0よし0

遥かインドにてゴウタマ・シッダールタが王子として生まれた十一年後に、彼は中国で生まれた。


彼の母は儒という信仰をもつ宗教家であり差別されていたため結婚ができない野合であり、父の事は物心ついた頃から気にはなっていたが、何者かさえも知らなかった。

彼は頭が凹んでいる事から幼い頃から丘と呼ばれて生きていた。

その彼が十六歳の年、母が三十半ばで亡くなった。

「だれか、だれか私の父を知りませんか」

生きるために救いを求めた。

しかし、父親は現れない。

彼が三歳の年に父は亡くなっていたのだ。

「あなたの父は立派な武人だったのですよ」

父の一族に引き取られ孔性を名乗ることを許されたが、彼に対する世間の目は冷ややかで、差別を受けることは少なくない。

彼にとっての優しさは切実な問題だったのだ。

乱世に生きて、偏見を振り払う戦いが彼には不可欠。


「三人いれば、必ず見習うべき人がいる。

良い人に習い、悪い人を戒めとする」


彼は学問を志して政治家になって世直しをしようと思った。


「世間では人殺しが横行し義足売りが儲けている。

なぜ、この世は、このように乱れ、人は苦しまなければならないのか」


魯の国では多くの人材を登用しようと御触れをだしている。

身分は低いが私には負けない学問があると願うが門前払い。

彼を追い返したのは陽虎という役人だった。

彼は家畜の管理をしながら生計をたて、ささやかながら妻子に恵まれ、ひっそりと生きながら「六芸」を学び思想に磨きをかけていると、噂が広まり、危険人物と生命を狙う輩がやってくる。

子路という男だった。

学問など、いくら学んでも何の意味もない。

そんなもので人心を惑わすなと丘を殺す気だったのだが、


「木も縄でしばって、ようやく真っ直ぐ育つように。

人は学問で、ようやく真っ直ぐ育つものなのです」


と彼は説得。

子路は彼を理解するために彼の弟子になる。


その頃、魯の国は王が追放され、三桓が王子をたてて政治を影で取り締まっている。

そんな中、彼に声をかけたのは、かつて彼を門前払いした陽虎だった。

彼は三桓に迫る権力を手にしていた。

隣国である斉で政治をしようかと悩んでいた彼は陽虎の申し出をうけいれる事にしたのだが、それよりも早く陽虎は反乱に失敗して国外逃亡してしまった。


「君主は君主らしく。

父親は父親らしく。

秩序ある礼と徳。

四十にして惑わず受け入れられない」


と嘆いていたが、陽虎の反乱によって政治に空白があったため、彼は魯の国に召し抱えられる様になる。

彼は地方長官から司空にまで登りつめる。


「政治の本質は正しくある事である」


その思想は平和と安定をもたらしたが、民衆は息苦しさを覚え非難をしていた。

斉からの刺激的な女性と文化が輸入される事で、やがて世は乱れていった。

彼の思想は現実の政治には理想主義的で富国強兵ではなかった。

絶望の中、追われるように祖国を後にし十四年間の放浪生活に入った。


その後、彼は楚の国から勧誘を受けて応じるが、敵国に遮れられ兵糧攻めにあう。

子路は正しい事をする人間が何故、その日食べる物にすら苦しまなければならないのですかと疑問を口にしていた。

彼は応えることが出来ずにいた。

結局、楚の国の援軍により救われたが、彼自身にも大きな疑問を幾つも抱えて生きるようになっていく。

その彼に、とある隠者が改革改革とばかり言っていないで世俗の関心を捨てろといって諌められたこともあり、あたりまえの人間の道を、あたりまえに生きてみたいと考えるようになり、天命を知った。


自己の想いをしても、いかんともし難い運命がある。


政治家になる夢が敗れていたことを認めた。


六十にして弟子たちと語らい、七十にして心のままに生き、人の道を外さなくなった。


五経を後の世に伝えるために編纂する。


人の生きる道として仁を目指していた。

人生では息子や子路の死を目の当たりにする事もあった。


七十四歳になった彼は泗水が見たいと言った。


「すべてのものは、このように流れゆく。


夜もなく、昼もなく、


永遠の心理、宇宙の心理。


貧しさの中にも幸せはある。


美味しいものを食べるのではなく、ものを美味しいと食べる心。


その行為に。


人とは人を愛するのだ」


彼が亡くなった後、弟子たちが彼の死を惜しんで彼の教えを纏めて広める事にした。


それが現在も受継がれている論語である。


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