鳥居の真ん中は
「いーち、にー、さーん、」
セミの鳴き声とともに、数える声が聞こえた。
それは大好きな、こんちゃんの声。
私とこんちゃんは二人で、とある古い神社の境内でかくれんぼをしていた。
私はかくれんぼが得意である。
これは私の勝ちに違いない。
「もーいいかーい?」
「もーいいよー!」
しばらくすると、少しずつこんちゃんの足音が近づいてきた。
どうやら彼は私の場所に気がついたらしい。
さすがはこんちゃんである。
こんな友達は久しぶりだった。
「みーこ、みーつけた!」
彼は可愛らしい笑顔を浮かべていた。
私も思わず笑ってしまった。
「こんちゃん、すごいね」
「当たり前だろ!おれ、昔からかくれんぼ得意なんだ!」
得意そうにしている彼を見るのは好きだった。
「私も得意なんだけどな」
「ざんねんだったな」
私達は、こんちゃんが持ってきてくれたクッキーを食べることにした。
御影石でできた長椅子に腰掛けた。ツンと冷たさが太もも裏から伝わってくる。
「この神社さ、昔から"かみかくし"があるんだって、ばーちゃんが言ってたんだ。みーこは知ってた?」
「うん」
知ってる。
それはとても有名な話だから。
こんちゃんはクッキーを美味しそうに食べていた。
私も小さく一口かじった。
「やっぱり有名な話なんだな」
「まぁね。こんちゃんも、気をつけないとだめだよ?」
「これだから田舎もんはさ!かみかくしなんてあるわけないじゃん!」
「あるんだよ。だから、"真ん中"は通らないんだよ」
「はは!ばーちゃんとおんなじこと言ってる!鳥居の真ん中を通っちゃいけない、だろ?ウケるんだけど」
こんちゃんはへへっと笑った。
「そんなこと信じてるから田舎者って言われるんだ」
そう言いながら、彼は走り出した。
「こんちゃん?!」
私は彼を呼び止めた。
しかし彼は振り返ってくれない。
彼の先には真っ赤な鳥居が、大きな口を開けて待っている。
「こんちゃん、だめだって!真ん中はだめ!」
私は先ゆく彼を止めようとした。
だって、鳥居の真ん中は、"神様が通る場所"だから。
「みーこは本当に弱虫だなー!ばーちゃんたちの言うこと信じてるなんてさ!」
こんちゃんはそう言いながら真っ赤な鳥居を真ん中からくぐろうとした。
「だめだって!!!」
わたしの叫びも虚しく、彼は真っ赤な鳥居をくぐり終えてしまった。
「だから、だめだって言ったのに」
私は鳥居の端を通った。
こんちゃんの代わりにそこにあったのは、白い半紙でできた狐の式神人形。
だからだめだと言ったのだ。
こんちゃんは神様に愛されているから、真ん中を通ったら連れて行かれてしまうのだから。
私は狐の人形を拾い上げ、赤いポシェットの中に大切にしまい込んだ。
「せっかくの友達だったのに」
私はまた、境内で待つことにした。
私を見つけてくれて、一緒に遊んでくれる友達を。