毒タイプは環境依存
「あんな変なの知らないよ」
さっきの襲撃者のことを知っているかというデューロの言葉は、至極まっとうなものだった。
彼はそもそも小屋に隠れていたのだから、あの二人組を見ていない可能性もあったのだが、何やら外が騒がしくなってから、様子は窺っていたらしい。
「リコ姉ちゃんが危なそうだったから大人を呼びに行こうと思ったんだけど……下手に出て行ったら俺も危ないし……迷ってる間にマサルさんたちが来たってわけ」
「ああ、子供はそれで良いんだ。助けは気持ちだけでも十分だぞ。ありがとな」
リコは体の傷を気にもせず、デューロの頭を撫でた。
そんなリコの様子を見ていて、マサルはふと不安に思った。
「さっきの奴らっていかにも怪しい感じだったし、武器に毒でも塗ってたんじゃ? リコは体が痺れたりしない?」
「別になんともないぞ? 傷が痛いぐらいで」
それはそれで心配なのだが、言っても始まらない。
植物の花粉なども止血や傷の被覆には使えるそうだが、今回は旅のお供としてイベから預かっていた軟膏を傷口に塗ってやる。リコは傷口にしみたようだが「あ〜、この臭い嗅ぐと実家を思い出す」というソトクの言葉に、笑っていた。
リコは冗談の後で、話題に真面目な説明を加えた。
「毒もこの薬と同じで、その気になればある程度は相手の出身がわかっちまうんだよ。だから暗殺者は毒は使わない。準備や後始末も大変だしな。油断してるときを狙って、相手の急所を刺した方が手っ取り早い」
「なるほどなあ」
毒は凶悪な武器であると同時に、非力な者が使うからこそ意味がある。
あれだけ素早く、オークを相手にも強烈な攻撃を加えられるような奴らには、不要なものなのだろう。
「ただ、わざと刃がぎざぎざになったのとか、へんてこな形をしたので斬って、傷が治り辛くすることはあるな。こう、首とかに……」
「ああああああああ、聞いてるだけですげえいやだ、やめて、まじでやめて」
想像なんてしようものなら体中がゾワゾワしてくる。
ソトクが頭を掻きながら、注意してきた。
「おい、あんまり旦那で遊んでんなよ。それより、坊主の家は無事なのか?」
「家? 全然平気だよ。大人の男は全員、山賊退治に出かけちゃったけどさ。俺はてっきり、マサルさんたちも親父とかと一緒だと思ってたよ」
デューロの話を聞いて、マサルはそれとなくリコに目配せをした。
彼女は自分の鼻を指で撫でてから、デューロに行った。
「お前の親父は、仲間の奴らと忙しそうだったからさ。あたしたちは邪魔にならないように帰ってきたんだ。山賊の一味は一応倒したから、念の為山を回ってるんだろうさ。それより、腹減っちまった。とりあえず宿に帰ろうぜ」
「ああ、うん。俺も親父の代わりに狩場の様子を見に来ただけだから」
デューロはリコの言葉を疑わずに、二人で先に歩き始めた。
それを見ていたソトクが、小声でバイザに言った。
「なんか……子供を騙すのは気が引けるな」
それはバイザも同じ……いや、それ以上に心を痛めていることだとマサルには思えた。