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幼馴染って何歳ぐらいからカウントしていいの?

「バイザ、何してるの?」

 別に何もしてない……とは答えなかった。

 物心ついたときから一緒にいるから、相手がどういう気性かはよくわかっている。

 こいつは相手が何してるかなんて、実際はどうでもいいのだ。前に言っていた。ほっといたら、みんないなくなってしまう気がするのだ、と。

 それがエルフらしい気質なのかどうなのかは、バイザにはわからない。

 まあ、別に嫌な奴ではない。というか、自分みたいな偏屈な奴に進んで話しかけてくれるだけ、ありがたいのは本当である。たまに鬱陶しくもなるが。

 どこかではオークとエルフが一緒に暮らしてるらしいが、最近は同じ種族同士でつるむのが流行りである。

 今いるジュカの国だって、ここ何年もどたばたしているうちに、お互いがお互いを信用できなくなっている。

 隣人に裏切られて家を失ったとか、上役に責任を押し付けられて夫が殺されたとか、そんな事情でフージ教の本山にすがってくる者は多い。


『でも結局、自分でなんとかしなきゃいけないんだよな』

 両親の顔どころか名前さえわからないバイザは、将来について迷路の中にいた。

 このまま修道院で雑用をして大人になって、誰にも何も思われずにひっそりと死んでいく。それはそれで気楽そうだが、魅力的ではない。

 じゃあ、兵隊にでもなろうか……とは思っていたのだが、その選択肢はつい最近、無くなってしまった。

 ジュカの国の仕組みが変わったのである。

 それまで大過なく治めていた王が亡くなり、補佐していた大公が新たな王となったが、その新王も病気がち中で急激に改革を進めている。

 ジュカの国は根っこはエルフが治めていても、オークや人間も昔から一緒に暮らしていける緩やかな国だった。

 それが、ここの所はエルフにあらずんば国民にあらずと言わんばかりに、役人も兵隊もエルフばかりになっている。

 畑からエルフが生まれるわけじゃない以上、そのエルフがどこから来るのかといえば……奴隷商から買っているという。もはやなんでもありである。

 とにかくまあ、そんなときに兵隊になったって面白くもなんともない。


「ねえ、何してるの?」

「……何か用事でもあんのかよ?」

 二度も聞かれると、流石にバイザもへそを曲げた。

 大体いつもは自分から用事を言うのに、今日に限って妙に遠慮がちである。

 日差しがきついときでも涼し気な井戸の傍で座り込んでいたバイザの横に、彼女も座り込む。

 こいつはこういうことをするから、自分なんかと仲が良いと思われて、用事を言い付けられるのだ。

 ……そうだ、まあ、あれだ。彼女ではなく自分が悪いのである。

 バイザが相手の顔を見ずに地面を眺めていると、相手はようやく本題に入った。

「あのね、前の王様の娘さんが、ここに住むんだって。さっき司教様に紹介された」

「ふうん。お前は信頼されてるから、友達にでもさせたかったんだろ」

「そうなんだろうなあ。うん……」

「なんだよ」

「私、あまり好きになれそうじゃないな。あっ、別にその子が美人だから嫉妬したとかじゃないからね」

「誰もそんなこと言ってねえし、そもそも俺はまだ会ってねえし」

 それに……お世辞ではなく、こいつはここにいるエルフの中でも美人……だと思う。

 流石にそんなことを言えるような気質ではないバイザは、やはり地面を見た。

「ほんで、何が気に入らないんだよ」

「明るいの」

「良いことだろ」

「まあ、バイザも会えばわかるよ」

「そうとは限らねえだろ」

「限ります〜、バイザは私と感覚が似てるから〜」

「うぜえ……」

「ふふふっ」

 何が面白いのか、こいつはいつもこんな感じで、勝手に笑う。

 その笑い顔は……まあ、見ていて嫌じゃなかった。


 やがて、バイザも夕食の席で他のみんなと一緒に、先王の娘とやらを紹介された。

「バラニと申します」

 その声は朗々としていて、整った顔は照明の光をたたえていた。


 バラニとの最初の思い出は、そんなところである。

 それから結構な月日が経ったが、あの人はどんな想いで過ごしているのだろうか。

 何度もそう思ってきたが、バイザはただ、妻となった笑顔の似合うエルフと、息子のことを第一に考えなければならなかった。

 息子をバラニに預けたのも、どこかで後ろめたさがあったのかもしれない。

 いや、もしかしたら、みながみな、彼女には後ろめたさを感じているのか。


 続々と集結する山賊…‥いや反乱軍を眺めながら、バイザは空を仰いだ。

 これから彼らは、山側から王都へとまっすぐ向かうことになっていた。

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